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恋人ができたら読んでほしい記事。

若いころに読んだ本の中でも、とりわけ遠藤周作の『愛情セミナー』ほど私の人生に影響を及ぼした本もない。

『愛情セミナー』は、昭和を代表する作家である遠藤周作が、1977年に出版した恋愛指南書エッセイなのだが、古今東西の恋愛論を引用しながら、遠藤周作独自の「愛」に対する見解が述べられている。

そしてここに書かれていることは、間違いなく、いまの私の血肉となっている。


この本に書かれている内容の一部は現代では通じない。いわゆるコンプラに引っかかるところがあるからだ。けれども、遠藤周作が伝えたいメッセージは、いつの時代にも通じる観念的なものがある。


仮にこれを読んで「おいおい、遠藤周作よ、なんちゅーことを言うのだ」と思う人は、そもそも文章が読めない人だ。枝葉末節しようまっせつを大袈裟に捉えて、大事な木の幹と根っこを見落とす人だ。

この本はとにかく恋愛に関する観念的な本である。


ここに書かれているのは、

・「情熱」と「愛」の違い
・「信じる」とは、なにか
・「嫉妬」とは、なにか
・「愛」など、なぜ必要か

あたりなのだが、この本で繰り返されているのは「やすきに流れるな」「人間を信じよ」ということで。



ちょっと本の内容を引用してみよう。

やさしい事は青春にとって悪である。諸君は青春の倫理として、難しい行為を選ばねばならぬ。それでは現代において難しい行為とは何か。

それはこの地上でたった一人の女を選び、その女を愛するように努力することである。

一人の女を選んだならば、それを生涯、棄てぬことである。これは易しい事ではない。易しい事ではないから青春にいる諸君はやってみるべきではないか。

それから、

不安は情熱を燃えあがらせ、安定は情熱を殺す。

それからそれから、

情熱が冷めたその後に、どれだけ相手を慈しむことができるか。

情熱はそれ故に愛とは関係がない。愛は情熱が尽きたところから始まる別の行為だからである。


恋の炎はやがて小さくなる。

恋の炎に身を焼かれる方には申し訳ないが、その炎はやがて小さくなる。これは絶対だ。繰り返す。その炎はやがて消える。

そのあとにやってくるのが「愛する」ということであり、愛するということはすなわち「信ずる」ことである。言い換えるなら相手を慈しむことである。



遠藤周作は「信ずる」という行為を以下のように昇華する。

君たち、若い世代は不信の時代に生きている。おそらく、日常生活で君は人を信じられぬという経験を毎日やっているだろう。

教師も信じられぬ。学校も信じられぬ。上の世代も信じられぬ。まして政治も信じられぬし、偽善的モラルも信じられないであろう。

その時、君は恋愛をする。恋愛とは先にも述べたように相手を信ずることであり、相手から信じられることである。

不信の時代に君は恋愛を通して「人間を信ずる」行為をやろうとしているのだ。「人間は信じられるか」という賭けを自他ともにやろうとしているのだ。


たった1人の人を愛すると心に決め、恋だのなんだの四の五の言わずに貫き通す。もちろんこれは非常に難しいことだ。でも、だからこそやるべき価値がある。


信ずることは眼にみえぬものに賭けること、眼にみえぬものを実現するために努力すること。

恋愛とは人間がもう一人の人間を信じられるかという日常的なただ一つの行為。


特に印象的なのは、この一節(原文まま)。

聖書の一節で、ある聖者がらい病(※)患者を抱きしめ続けると、その患者から光が溢れ出したことに及んで、この患者こそ人生そのままだ、と喩えている。

人生の忌々いまいましさも抱きしめ続けると光り輝くのだと。

(※)ハンセン病のこと


忌々しさすらも人生の一部だ。あらゆる忌々しさすらも信じて抱きしめ続けろ。やがて光り輝くときがやってくる。必ずやってくる。信じろ。



さて、この本を読んだのは20歳のときだった。20歳になった私はきちんとした恋愛がしたかった。永遠のような恋愛がしたかった。

父さんに言われたからだ。1人を愛せと。だから調べた。そしてこの本を見つけて買った。読んだ。読んで良かったと思えた。

以降、お付き合いをする異性、家族、あるいは付き合う友人、仕事の取引先、関わる人々、私はすべてを信じることにした。

信じるという行為はとても難しい。
でも、難しいからこそやる価値がある。



そうだ。恋愛だって、仕事だって、家庭だって、他人が関わることはすべて難しい。でも難しいからこそやる価値がある。易しいことは簡単だ。易しいことは楽だ。易しいことはやさしいのだ。


ならば、難しいことをやろう。


愛でいえば、情熱の油が切れ、風前の灯となったロウソクの火を、それでも消えぬよう消えぬよう、そっと手でおおってあげることに価値がある。火が消えぬよう信じておおい続ける。そこに見返りは求めない。





私は思う。

人生は難しいことの連続だ。易きに流れるのは簡単だ。水は低いところに流れゆく。ならば理想に飢えよう。高いところに流れよう。何歳からでも難しいことをやろう。

斜に構えてはいけない。
私たちは困難の中でこそ試される。

難しいことを続けろ。
光り輝く希望を持て。自分と他人を信じろ。
恋人をいつまでも大切にするんだ。



お願いだから、

その人生を信じて抱きしめ続けてくれ。

〈あとがき〉
20代中盤のとき付き合っていた人にこの本を貸したことがありました。どんな恋愛観で生きてるの? と不思議がられたからです。この本を貸したものの、その人はこの本を読まず、とうとう本が返ってくることはありませんでした。あの人、読んだかなぁ。今日も最後までありがとうございました。

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