官僚→ベンチャー→フリーランス。レールから外れた東大女子のひとりごと【4.転職活動編(2)】

筆者のちょっと変わったキャリアについて語るシリーズ、第4弾(2)。前回は転職活動の流れや方法、転職時に大切にしていたことについてお話ししました。


今回は当時わたしが感じた「官僚の転職」の難しさと転職時の注意点について。官僚でなくても、年功序列を前提においた総合職として採用された方の転職、異なる業界・業種への転職、いわゆる「バリキャリ」からの転職には共通する部分があるのではないかと思います。ちょっとでも参考になったらうれしいです。

■官僚の転職は「楽勝」ではない

「官僚なら転職なんて楽勝、引く手あまたでしょ?」
ときどきこんな風に言われることがあります。

でも実際に転職活動をした身としては、必ずしもそうではないと感じています。キャリアアドバイザーの方々からも、

「官僚に限らず公務員の転職は結構難しいんです。最初から捨てるところは捨てる覚悟をしておかないと決まらないですよ」

と言われました。

これはどうしてなのでしょうか。

■ジェネラリストの官僚は専門性をアピールしづらい

官僚の転職がそれほど楽ではない理由としてまず第一に挙げられるのが、「わたしにはこれができます」とわかりやすい単語でアピールできる強みや専門性を見いだしにくいこと。

キャリア官僚(とりわけ文系)の多くは総合職採用です。営業でもなければマーケターでもないし、エンジニアでもありません。無理やりあてはめるとするならば、「事務官」という名前の通り、広い意味での「事務」になるでしょう。実際にやっていることは多くの方がイメージする狭義の事務とは異なりますが、カチッとはまる単語で表現するのは難しいものです。

・普段なにをしているのか、一体なにができるのか外からは見えにくい
「官僚は普段どんな仕事をしているの?」とよく聞かれます。そして答えに詰まることもよくあります。それくらいに外部からは具体的な業務内容をイメージしづらいし、働いている本人が端的に説明するのも容易ではありません。

実際なにをしているかといえば、企画もするし調整や交渉もするし、調査もするし、文書の校正・校閲みたいなこともするし……。元上司の言葉を借りれば、相手が納得するように「説明する仕事」といえるかもしれません。これが当時はいちばんしっくりきました。

しかし程度の差はあれ、これらの業務はどの仕事にもあてはまりうるものなので、特別なスキルとして提示するのは難しい。行政機関に「公務員」として転職しない限りは基本的に未経験採用になります

・「専門家」と名乗れるほどには専門性を高められない
また官僚は1・2年のスパンで部署異動をしながらさまざまな仕事・分野にたずさわるため、たとえば大学教授のように「わたしはこの分野の専門家です」と名乗るのは難しい場合が多いでしょう。

働いていた当時、上司から「自分が担当している法令や政策は自分が世界で一番詳しくなきゃいけないんだ」と教わり、わたしもそのつもりで仕事をしていましたし、一時的にはかなり知識が深まりました。でも得た知識はその部署にいるあいだと、別の部署で似たような仕事をするときに役立つというだけなので、知識そのものが転職先の仕事に生きることはめったにないと考えておいたほうがいいと思います。

もちろん、留学して博士号をとったとか、たまたま(?)何度も似たような分野の仕事を担当してきて第一人者として一目置かれているとか、司法試験に合格しているとか、人にアピールしやすい経験や実績がある場合には話が変わってくるかもしれません。転職先の業界が所属する官庁が扱う分野に含まれるかどうかによっても異なると思います。それでもほとんどのケースにおいて業界・業種とも未経験のポテンシャル採用になる可能性が高い点は、転職を難しくする要因になりうると感じました。

■ハードワーカーという前提でみられる

官僚の転職のハードルになりかねないと感じた2つ目のポイントが、「ハードワーカー」という前提でみられること。この点がわたし個人にとっては理想と現実の乖離を感じたポイントのひとつでした。

昨今報道されているとおり霞が関は長時間労働が基本です。残業に慣れていそう、ガッツがありそう、体力がありそう、とにかく強そう、というイメージをもたれることも少なくありません。企業目線でいえば、いろいろな意味で「働いてくれそう」ということです。

転職サイトのスカウトはいかにもブラック臭が漂う会社やコンサルティング会社からのものがほとんどでした。官僚のなかには「同じだけたくさん働くならもう少し給料がもらえるところに行きたい」といった理由でコンサルや会計事務所など比較的激務とされるところに行く人がそこそこいます。でもわたしの場合はいくらお金を積まれてもそういう会社では続かないだろうと考えていたので視野に入れませんでした。健康的な生活を一度手に入れてしまうと、戻りたいとはなかなか思えないものなのです。

実際に転職活動中に会った方に「忍耐強い方なのかなと思って」「根性がありそう」みたいなことを言われたことが数回ありました。その「忍耐」や「根性」という単語をどういう意味で使っているのかと考えたときに、長時間働けるとか、しごかれても耐えられるという意味を含んでいそうでちょっと怖かったです。

仕事をするからには責任をもってやりたいし、ちゃんとしたクオリティに仕上げたい。人に喜んでもらいたいし、自分自身も達成感を得たい。でも私生活や健康を捨ててまで仕事に人生をかけたいわけではない。それがわたしの本音です。わがままだと思う方もいるかもしれませんが、自分と自分の周りの人を幸せにするためにはどれも欠かせない条件でした。

■学歴や経歴で損をすることも……??

憶測にとどまりますが、学歴や経歴が重視されないケース、むしろ邪魔になるケースもあるのかも……(?)と思っています。たとえば前回の記事で書いたように、世間一般の方がイメージする「事務」の仕事を希望する場合はこれにあてはまるかもしれません。また企業側が官僚にポジティブなイメージを抱いておらず、採用に消極的になるパターンも稀にある気がします。

以前たまたま飲みの席で一緒になったとある組織の人事の方が、「この前〇〇省の人が転職を考えてて話を聞きたいってうちに来たんだけど、やっぱりプライドが高いだけで頭がかたいしダメだねありゃ」みたいなことをおっしゃっていて、「やっぱり」という言葉に対して「やっぱり」と感じたのを覚えています。

官僚組織は大きく、本当に多種多様な人がいます。優秀で人格も素晴らしい人もいれば、そうでない人もいる。話を聞きに来た人はもしかしたら能力や人格に問題があったのかもしれませんが、一括りにできるようなものではないとわたしは思っています。でも世間にそういう見方があることは事実だし、実際に問題のある人も、スキャンダルを起こしている人もいる。なにかしらの固定されたイメージでみられかねないこと自体は認識しておいたほうがいいなと思いました。

■ポテンシャルで採用してもらえる若いうちが華

専門性を見いだしにくいなか、企業側が官僚に興味をもつとしたらどのような点か。ひとつはハードワークに慣れていることですが、もうひとつ挙げるとしたら前述した「ポテンシャル」かもしれません。学歴が高いとか、国家公務員試験にパスしたとか、そういう部分で「頭が良いのではないか」「努力できるのではないか」と将来性を買ってもらえるパターンです。

この点を踏まえると、第二新卒枠や未経験採用でとってもらいやすい20代のうちに転職しておくのが堅いです。転職市場全体で基本的には若い人のほうが有利なので官僚に限ったことではありませんが、特定のスキルを武器にしづらいことを考えると官僚はなおさら早いほうがいいと感じました。

■でも官僚の経験はそこそこ役に立った

このように官僚はスキルや専門性が中途半端になりがちで自分の強みをアピールしづらく、また企業側からみても実力を判断しづらい職業です。しかし実際に転職してどうだったかを振り返ると、官僚時代にやっていたことは結構役に立ったなあと実感しています。元上司が言っていたように官僚は「説明する仕事」なので当たり前かもしれません。詳しくはまた別の記事でお話ししたいと思います。

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