見出し画像

私がニューヨークでバードウォッチングにはまった理由(11):スズメ考

もっとも身近な鳥

バードウォッチング中、茂みで動くものがあると、「あっ」と皆が一斉に双眼鏡を覗きこみます。そして、「Sparrow(スズメ)だ」と声がすると、「あー」とがっかりして、また一斉に双眼鏡を下ろします。スズメがよく見かける鳥なのは、どこでも同じなのだなとおかしくなりました。日本では、軒先の現象などから、スズメが減っているようですが、聖書にも登場し、日本でも『舌切り雀』など民話にも出てくるスズメは、いつの時代もとても身近な存在だったのでしょう。 

セントラルパークのHouse Sparrow

色々なスズメ

それでも、双眼鏡で見ているうちに、スズメの顔の違いが分かるようになり、密かに喜んでいましたが、しばらくすると、スズメの顔が違うのは、そもそも色々な種類がいるからなのが分かってきました。街中にいるのは、日本のスズメによく似たイエスズメ(House Sparrow)ですが、セントラルパークには、普通のスズメもいるものの、White-throated Sparrow(和訳すると「喉の白いスズメ」、ノドジロシトド)が圧倒的に多く、クリスマス・バード・カウントでは何百羽もいます。ほかにも、Song Sparrow、Fox Sparrow、Swamp Sparrowなどなど、なんとかSparrowの長いリストがあります。スズメの群れの中に違う種類のスズメが混ざっていることも多々あり、Song Sparrowがいるとなれば、「どこどこ?」となりますし、Fox Sparrowになると、「先週ブルックリンのXXで見た」と情報交換するほどです。

白い喉と眼の前の黄色いスポットが特徴のWhite-throated Sparrow

White-throated Sparrowのさえずり

一番最初にさえずりが気になったのはAmerican Robin(アメリカンロビン)でしたが、その次はWhite-throated Sparrowでした。口を開いて鳴いているのを見れば、一発ですが、声は聞こえても、姿が見えないとなかなか分かりません。このスズメかもと思っていても確信が持てなかったのは、朗々と響く声で長い歌をさえずっていたからでした。明らかに仲間うちで会話しているようでした。当時は、スズメといえば、万国共通で、チュンチュンと鳴くものと思っていました。

新世界スズメと旧世界スズメ

そして、さらにしばらくすると、このスズメはスズメにしては妙に大きいことに気づきました。最初は太っているのかと思っていましたが、彼らはNew World Sparrow(新世界スズメ)といって、もともと新世界アメリカにいた鳥を旧世界から来た人たちが、スズメに似ているとSparrow(スズメ)と呼んだものの、スズメよりも、ホオジロに近いそうです。逆にイエスズメは、害虫駆除のためにイギリスから19世紀にアメリカに連れてこられたスズメが繁殖したもので、Old World Sparrow(旧世界スズメ)と呼ばれています。

バイラルになった鳥の方言

この独特の節のある歌を歌う鳥は、地方により歌が異なり、2000年に発表された20年越しの方言?の広まり方の研究(1)もあります。アメリカでは、Old Sam Pea-bo-dy, Peabo-dy, Pea-body 、カナダではOh Sweet Ca-na-da, Ca-na-da, Ca-na-da「カナダー、カナダー、カナダー」と聞きなしていた3音節あった節が、2000年頃にカナダ西部で発生した「カナ、カナ、カナー」と少々舌ったらずに聞こえる2音節のツイートがバイラルになり、2019年にはカナダ東部のケベック州に達し、アメリカ北東部にも伝わっているそうです。

どうやってさえずりを検証するのか?市民サイエンティスト・バードウオッチャーの録音も集めたそうで、知っていたら、私の音源もお送りしたのに残念でした。研究を見ると、確かに、2音節ツイートが徐々に北米大陸を西から東へと席巻していきます。

2000年以前には主流だった赤丸の3音節の歌は、流行りの2音節の青丸に変わっていきます。
Continent-wide Shifts in Song Dialects of White-Throated Sparrows/Ken A. Otter

この鳥は、冬の間、南のほうに移動しますが、その間によそから来た鳥と過ごし、新しい歌を教えたり、覚えたりしてから、北に帰り、新しい歌は北米大陸を横断し、どんどん東に広まっていったようです。通常は鳥の方言もその地方に独特のものとして地域に留まるので、この研究を発表したノーザン・ブリティッシュ・コロンビア大学のオッター博士によれば、これは「オーストラリア人がニューヨークに来て、ニューヨーカー全員が突然オーストラリア訛りになるようなものです」(2)と、相当稀有なことなのだとか。

研究者は、新しい歌のほうが、メスには魅力的に聞こえ、パートナーを見つけるのに優位だからではないかと考えているようですが、White-throated Sparrowに真相を聞いてみたいところです。

バイラルになった歌、新旧聞き比べたい方は、こちらのガーディアン紙の記事でどうぞ。

1)"Continent-wide Shifts in Song Dialects of White-Throated Sparrows"
Ken A. Otterほか. Current Biology. July 2, 2020
2)"Canada’s Sparrows Are Singing a New Song. You’ll Hear It Soon." The New York Times. July 2, 2020. 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?