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#3 神先岳史|料理は場をつくるための道具

今回のゲストはWEEK神山の代表、神先岳史さんです。WEEKは、徳島県神山町にある宿泊施設です。コロナで「ワーケーション」という言葉が身近になる前から、「旅行」と「出張」の境目を取り払った、新しい暮らし方を実現した場所です。
今回のエピソードは、シェフでもある神先さんが、料理に執着がない理由から、神山で感じた、人生の広がり方まで、色んなテーマについて、WEEKのゆったりした食堂で語ってくれました。

神先さんとの対話の抜粋

ーお久しぶりです。神先さんと出会ったのは、今年6月、自分が初めて神山を訪れて、WEEK神山に泊まった時ですね。当時神先さんとWEEKのスタッフがとても美味しい料理を用意してくれました。料理の道に入ったの経緯は?

僕は京都出身で、大学生の頃、アルバイトで飲食店で働き始めて、当時そこの代表が30歳前ぐらいの年で、モチベーションも高くて、きらきらした大人だったのて、自分で起業して仕事を作るというのをすごく憧れたんですね。その店で働いていると、料理を仕事にしてる人たちも空き時間でバイトに来たりしてたので、 そこで色々教えてもらった。段々技術と自分が作れるもののレベルが上がって来て、もうちょっと本格的に料理をやりたいと思い始めた。
そして、丁度二つ目でやってたレストランは全国展開してるところで、年に四回ぐらい社内コンペみたいな料理人大会があって、アルバイトでも出れるっていうので出てて、いきなり社長賞を取って、その後出るために結構コンスタントに入賞したりとか、3位とか2位とかになって、1位は多分取れなかったと思うんですけど(笑)、そしたらやっぱり褒められるじゃないですか。それから使える素材とか、メニューの考え方、周りの人がどういう風にやっているのか、自分で本もどんどん見るようになって、料理にハマったっていう感じですね。

— それからは?

ずっと厨房でやってたんですけど、25歳の時に、50歳の自分をイメージしてみたら、ずっとこの仕事をしてるのかと思うと、少し疑問が出てきた。もう少し色んなものを見たいし、いろんな人に会いたいし、そういうのを得たいって思った。その時、東南アジアがこれからすごい成長するみたいな時期になって、これからその二十年後一番伸びる町はベトナムのホーチミンで、二位がハノイだったので、ネットの情報なんですけど(笑)。じゃあ、ベトナムに行けば何か変わるのかもしれないと思った。ただ、ベトナムは料理の仕事じゃなくて、これから立ち上げる雑誌の編集の仕事で、未経験も行けるっていうので、そのまま飛び込んだんですよ。

— 厨房から雑誌か。

でもやっぱり僕の考えが甘かった。行ってみたら何も出来なかったんですよね(笑)。新規事業なんで、お前がやれみたいな感じにはなるんですけど、こっちは何もノウハウもないし、まず何からしていいか分からなし、毎日すごく怒られたんですよ(笑)。
あとは会社と住む場所も同じ建物なので、そしてビルのセキュリティも結構きつくて、基本的に外に出られなくて、ご飯もベトナムのスタッフの人がお弁当買ってくるんですけど、それオンリーで自分で買い物も行けないっていう感じだった。毎日できない自分と怒鳴られる自分で、どんどん自分自身が織り込まれていって、このまま行ったらもう自分が自分じゃなくなるみたいな感じがして、たぶん一か月も立たず、帰った。それが失敗というか、挫折ですね。

— でもそれはきっと今の神先さんに繋がりますね。

そうですね。あれが三年ぐらいは引き摺ってはいたんですけど、でもその後はそれがすごく良かったなって思えるようになった。やっぱり自分自身の認識がすごく甘かったですよね。そこに行けば、その環境が自分を支えてくれると思ったんですけど、でもそんなことはなくて、大切なのは自分が自分を変えるというか、自分が毎日毎日今までの自分と違うことを積み上げていくと結果的に自分が変わるっていうことを教えてくれたのは、その挫折の原体験ですね。

「そこに行けば、その環境が自分を支えてくれると思ったんですけど、でもそんなことはなくて、大切なのは自分が毎日毎日今までの自分と違うことを積み上げていくと結果的に自分が変わる。」

— 1ヶ月もなかったんですけど、そのあと料理にすぐ戻りたかったですか?それとも離れたかったですか?

帰ってきて、親が山形にいったので、山形で一年ぐらい過ごした。最初はやっぱり心が折れて、何もする気は出ずに、体も全身麻疹というか、体も凄いストレスだった。1ヶ月ぐらいはそういう状態を続いて、外にも出たくないし、人にも会いたくないし、でもやっぱりその内元気になってくるんでしょうね。そうすると、とりあえず働こうと思った。

ただ、家族と住んでいくっていうのがちょっとイメージできなかったので、ずっと山形で働くじゃなく、一年契約とかの仕事を探していったら、色々見つかった。山形は地産地消の流れで、郷土料理とか郷土野菜に結構力を入れてる県だったです。僕は村山という地方から、県のホームページでレシピをあげたり、郷土野菜を仕入れて試作したあり、その野菜を作ってる人たちのをインタビューして記事を書いたり、魚をさばくワークショップの手伝いしたりした。まだ料理とプラスアルファの部分が合わさっている、ちょっと中間地点ですかね。

— 山形から神山に行くきっかけは?

山形の仕事は10ヶ月ぐらいで、次の年の3月に終わりっていうのは分かってたんで、次は山形から離れるのも決めて、京都に戻る意思もなかったので、色々調べたら、日本仕事百貨(当時の名前は「東京仕事百貨」)っていうちょっと変わった求人情報サイトをみつけた。どういう人達が働いているのかと、どういう思いでこの会社をやってるのかっていう、インタビュー記事を載ってるサイトで、求人情報と読み物として面白かったです。その中で、神山塾っていう ものが出てきて、神山で半年間住みながら、色々やってみるという、就職ではなく職業訓練の枠組みです。それを見て、自分がまた迷いたいというか、自分が本当に何をできるのかっていうのを考えた時に、ここだったら何かできるじゃないかっていうふうに思ったんですよね。
そして、神山塾のサイトにグリーンバレーの大南(信也)さんのコメントが書いてあった。今の若者は凄い大きなことをやろうとするけど、結局どういうふうにしていいか分からずに、その社会に埋没していくけど、本当に大事なことは目の前の一つ一つのことをクリアしていけば、それがだんだんと大きくなって、最終的に社会に影響を与えられるようになるっていう言葉が書いた。それを読んだ時すごいはっとして、僕も何か大きなことをしようと思って、動いてたけど、それが空回りして今の状況になった。本当は小さなことでもいいから、一個一個やっていけば良いんだ。神山では自分を応援してくれたり、見守ったりしてくれる環境があるのかなと思って、ここに選びました。

「料理や食っていうのを使って人と繋がったり、場を作ったりする。料理はどちらかと言うと自分の持っている武器の一つぐらいになってきてますね。」


— 神山に来て、最初に何をしましたか?

塾ではまず自己開示ですね。例えば、自分の守護霊みたいなのがいるとして、その守護霊が自分を紹介するとか(笑)。あとは最初の1ヶ月、他の塾生と共同生活した時、夜になると喋ることが多いんですね。その中で、どんどん自分の中をえぐり出していく。

そっからマイプロジェクトみたいなのがあって、個人個人で半年以内でできる、とりあえず何か形にするっていうのと、あと皆で形にするっていうイベントをプランニングして実行するっていうのをやる感じですね。

そこで偶然マルシェのイベントのチラシを見つけて、それを見てここに屋台を出店しようと思った。最初は全部自分で作ろうと思ってたんですけど、結局屋台で売れるものも限られてくるので、そうなったときに、神山の隣の石井町というところで無添加でハムとかソーセージを作っているお店があって、そこのフランクフルトと、神山塾の棚田で作った米の米粉と、光食品っていう徳島のオーガニックショップのケチャップと、神山の炭を使って、七輪で米粉のクレープを焼いて、フランクフルトを焼いて、それをくるんで売るっていう、かなり個性的な屋台になりましたね(笑)。

— 屋台を通して、人との出会いが一気に増えましたね。

そうですね。イベントを運営する人と知り合ったりするし、他の出店者ともだんだん仲良くなってくるんですよ。大体屋台をやってる人たちって、やっぱり変わった人生を送ってる人が多いんですね(笑)。

そこで、世の中いろんな人がいる、いろんな考え方があるなあとか、人との出会いってすごく刺激的で、自分の行動一つで、自分の見てる世界とか関わってるものっていうのはものすごく変わっていくし、もっといろんなことができるんじゃないかなっていうふうに思いますね。

— この経験で料理に対する考え方が変わりましたか?

そうですね。料理が好きだし、商売に使える自分の道具みたいな感じでは思ってるんですけど、ただ、ずっと厨房で料理をしてるっていうイメージはもうなくて、料理っていうのを使って、人と繋がる、食っていうもので人と繋がったり、場を作ったりするっていう風にどんどん思えるようになってきましたね。だから料理はどっちかと言うと自分の持っている武器の一つぐらいになってきてますね。


その後、神先さんが神山塾に入ってからチャレンジして見たことや、WEEK神山の代表になった経緯、そして子供たちと昆虫に大興奮するなどなど語り続けますので、ぜひポッドキャストへ!また、WEEK神山は第2話のゲスト隅田徹さんが立ち上げた施設で、興味がある方はぜひ隅田さんのエピソードも聞いてみてください!


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