ちいさな恋のほにゃらら(2)
3歳から習っていた英語は、小学校入学のタイミングで家の近くにあるスクールに転入した。
移動距離を考えて親が負担になったのだろう。
いま、長男の英会話スクールを選ぶにあたり、さんざん悩んで一番家から近いところを選んだので、当時の親の気持ちは、少しだけわかるようになってきた。
転入したスクールでは、大人のクラスに入れられた。
もともと通っていたスクールはネイティヴによるオールイングリッシュで、私の英語力は日本人の高校生レベルになっていたからだ。
同世代がいない中、おっさんやおばさんに囲まれて、そんな楽しいものでもなかった。
まずは2Fのリスニング部屋に行き、30分ヘッドホンからの音声に耳を傾ける。
終わると下に降りて、ネイティヴの講師とおしゃべりをした。
ある日、2Fに行くと同い年くらいの男の子がヘッドホンをつけていた。
ああ、この子、同じクラスなのかなと思ったが、30分違いの別のクラスで、上のクラスにいる姉を待っているようだった。
その子のお姉さんと何度か同じクラスになったことがあった。
5歳上の彼女は時々私のいるクラスに混ざり、英検を目指していた。当時はもう中学生になっていただろうか。
おとなしく、目がクリッとした弟の方は、一度も話すことはなかったが、姉を通じて同い年であること、お互いの名前は把握していた。
落とした鉛筆を、拾ってあげるくらいはしたことがあっただろうか。
私たちは同じ中学に行くことを知っていた。
弟……名前をYくんといったが、下の名前で呼んでいたそれは名字にかわり、たまに、お姉ちゃんは元気か?など話しかけたりはした。
Yくんはもう英語をやめており、お姉ちゃんは曜日が変わって全く会わなくなっていた。
なんとなく気にかけたまま卒業して10年。
唐突に中学の同期会が開かれ、中学校の体育館にほとんど全員が集まった。
寒い冬の日でずっとダウンを着たままいた。
私はYくんを探したが、見当たらなかった。
体育館の舞台に、写真立てが置いてあることが気になっていた。
「あれ、なにこれ、どうしたの?」
「ああ、今年ね、亡くなったんだよ。知らなかった?」
半年ほど前にYくんは、バイトに行く前に少し寝ると自室に行ったまま、亡くなっていたのだという。
直前に頭痛を訴えており、くも膜下だったそうだ。
「連絡行ってなかったかー。クラス違うから知り合いじゃないと思ってた」
その日の集まりは、彼の件もあって幹事が広範囲で集合をかけていたことを知った。
それからもう15年になろうとしている。
春先になると、ヘッドホンをつけて目のクリクリした、あの小学生の男の子のことを毎年思い出すのだ。
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