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相手に助けてもらうコツ

今日の物語は、刑務所で始まります。

凶悪な犯罪を犯した囚人たちがウヨウヨしている刑務所で、なんとひとりの看守が拳銃を紛失してしまったのです。おそらく、だれかが盗んだか、拾ったかしたのでしょう。

さて、ローズ所長はこの拳銃を、意外な方法で取り戻します。その様子をご紹介しましょう。

★★★

ローズ 「ライリー、銃は是が非でも取り戻さなければな」
ライリー 「道路作業に出た囚人を全員あらってみましょう」
ローズ 「いや、時間の無駄だ! 待てよ、いい考えがある。(机上マイクでブロンスンを呼ぶ)」
ローズ 「ブロンソン、看守長にマゼッティを呼んでくるように伝えてくれないか」
ブロンソン 「わかりました」
ライリー 「ルイス・マゼッティ、あのギャングのボス! 奴が銃を持っているなんてお考えじゃないでしょうね」
ローズ 「彼は持っていないだろう。だが、誰が持っているかは知っているはずだ」
ライリー 「そりゃそうでしょうが、喋りっこありませんよ」
ローズ 「私も彼が喋ってくれるとは思っていないよ」
ライリー 「それじゃいったい何で?」
ローズ 「頼み事をしてみようと思うんだ」
ライリー 「頼み事ですって! 所長、奴の前科はご存じでしょう! 自分の母親が死にそうだっていったって、頼み事なんて聞く奴じゃないですよ! それを何で……」


ブロンソン 「所長、マゼッティを連れてまいりました」
ローズ 「入れてくれ。じゃあ、ライリー、席を外してくれないか」
(足音遠ざかり、ドア閉まる)
ローズ 「マゼッティ、調子はどうだい?」
マゼッティ 「(ぶっきらぽうに)まあまあだ」
ローズ 「マゼッティ、実は所内で拳銃がなくなったんだ」
マゼッティ 「それで?」
ローズ 「それがどういうことなのか、わかるだろう」
マゼッティ 「俺に何の関係があるんだい?」
ローズ 「大いにあるんだよ。拳銃が隠されているとなれば、厄介なことになる。もし君の知っている者の誰かが逃亡を企てようものなら、熾烈な闘いになる。戦闘だ。そうなったら私を含め、看守は最後の一人まで闘うだろう。囚人たちも最後の一人まで巻き込まれる」
マゼッティ 「それがどうしたってんで」
ローズ 「マゼッティ、君は誰がその拳銃を持っているか知っているはずだ。どうしても取り戻さなければならない。そこで頼みなのだが、それを取り戻してくれないか」
マゼッティ 「俺に取り戻せだって?」
ローズ 「そうだ。君になら彼らも銃を渡すはずだ。君以外には、絶対にそんなことはしない。その銃を取り戻すことができるのは、このシンシン刑務所で君しかいないんだ。どうか助けてもらいたい」
マゼッティ 「そいつを手に入れたとして俺はどうなるんだ、銃の件にかかわっていたということで独房ってわけか?」
ローズ 「いや、手に入れてくれたら、捜査はいっさいしない。この件はなかったことにしよう」
マゼッティ 「わかったよ、所長。あんたは言葉を違えるような人じゃない。一時間くれないか。取り戻してやるよ」
ローズ 「頼む、マゼッティ。恩にきるぞ」

★★★

 このように一人の囚人の言葉に刑務所全体の存亡がかかっているような状況で、ローズ所長はその男を頼りとしたのです。

 そして問題の銃は一時間もしないうちに、ローズ所長の机の上に戻されたのです。ギャングのボスであるマゼッティは約束を守ったのです。そして所長も約束を守って、それ以上何の捜査も行われませんでした。

 暴動は回避されたのです。もし牢破りでもあったら、犠牲者は10人ではおさまらなかったでしょう。


 この話が教えてくれることは、他の人のために何かをしてあげることで、リーダーとしての意識や重要感を味わうことができる場合には、私たちは誰でも、一肌脱いでやりたいと思っているということです。

 人間性は、刑務所の中でも外でも、結局は同じなのです。


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