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いなたい切れ味

昨夜の晴れ豆でのTRASMUNWD NIGHT、最高だった。

東京にも大好きなラッパーはたくさんいるが、地方のシーンにはどこか手の届かない憧れがある。特に東海地方に関しては、COSAがいる時点で痺れてしまうし、少し時代を遡るとTOKONA-Xだっている。連綿と続く、名古屋を中心とした東海地方のいなたいシーンを、今の若いラッパーたちが引き継いでるんだなと思うとジーンとくるものがある。

YUKSTA-ILLを初めて知ったのは、2017年にKOJOEがリリースした「here」というアルバムの中だ。アルバムの4曲目である「Prodigy」という曲にYUKSTA-ILLも参加していた。Prodigyの「Keep It Thoro」をサンプリングした本作品は、6名のラッパーによるマイクリレーによって構成されている。OMSBの野太い声もBESの「くじけたら最後、心がSuicide」というヴァースも素晴らしいのだが、一際私が惹かれたのはYUKSTA-ILLの声だった。恐らく誰よりも一小節に詰め込んでいて、Keep It Thoroのビートの中で一番遊んでいた。そのスキルが、ただただ最高にクールだったのだ。

その後、Spotifyで曲を聴きに行ったのだが、そこでもまたクールと思える発見があった。全体的にリリックがドープでいなたいのだが、彼がもつ高い声で小節を詰めながらラップすると、いなたいリリックが一気にシャープになるのだ。巧みというより、切れ味という意味で。

新レーベルの立ち上げと同時にリリースされたアルバム「Monkey off my back」の「GRIND IT OUT」のリリックも素晴らしかった。

抱えたPAIN 手なずけてやがてマイメン
弱者の眼差し 悪魔の囁き
CAN I GETTA FAME?
WORD 昼間の顔からの180°逆サイド
真夜中の街に放て起爆剤
イナたくハードにこれも一つのREAL

以前私は別の媒体で「音楽は私たちが『闘争』の渦中にいることを再認識させてくれる媒体である」と表現したことがあった。

YUKSTA-ILLは、シャープな切れ味に共存する「いなたさ」のバランス感覚が最高な唯一無二のラッパーだ。それと同時に、私たちがこの社会で生きていく中で忘れてしまいそうになる本能を思い出させてくれる。

ここまで書いて、私は今週末に締切が二つもあるし引っ越しもしたいのに、何やってんだ…と反省した。しかし、間近でYUKSTA-ILLのラップスキルを見て、どこか泥臭い労働者と表現者の間に位置するような彼の感覚を誰かに伝えたくなり、筆をとった。


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