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電車の荷物

先日、また電車で1時間ほどの用事があり、電車に乗ることになりました。
余裕ぶっこいて自転車で駅に向かい、時間ギリギリになっての駆けこみ乗車は、危ないのでおやめください。
余計な汗かきました。

その日は、三連休後の平日。
ちょっと時期をずらして長距離旅行から帰ってきたと思しき大きな荷物の人がチラホラと見受けられましたが、電車自体はガラガラ。車両内の殆どの人が両隣を空けて座って、うららかな冬の日差しを浴びておりました。
そんな車内を眺めつつ、ポカポカして少し眠くなってきた頃。

カーッって感じの軽い音がして、目の端で何かが動いたのです。

その物体を目で追ってみると、キャスターのついたソフトスーツケースが車内を横切って、ドア脇のお兄さんにぶつかったところであった。
戸惑うお兄さん。
なぜなら、誰も「すみません」って言って荷物をとりにこないからだ。

車内に目配せの嵐が飛び交った。
その嵐の結果、どうやらワタシの1つ隣に座って大変キモチよく熟睡中のおばさまの荷物であることが判明し、お兄さんの手によっておばさまの前に戻された。

が、おばさま依然熟睡中。

車内にわずかに緊張した空気が流れた。
この荷物、また転がる...。
誰もがそれを感じたのである。

そして、そのときは来た!

というか、ワタシの方に転がってきたのであった。
ひえー!こっちくんなー!><

ここは一発、おばさまに荷物を返却しつつ肩を叩いて「荷物転がってますよ」って言ってやらなくてはならないのだろうか?
そのときおばさまが迷惑そうな顔をしたら、気まずくないか?
というか、ワタシも結構大量の荷物を膝の上に載せているのだが、それは一度置くべきなのか?
荷物を置いてるうちにおばさまが気づいたらカッチョ悪くないか?
ううむ。

...なんて死ぬ前みたいに思考が大爆発するワタシの前を、カーッと加速して通り過ぎる荷物。
そして、この位置関係でワタシが手を出すのは不自然じゃないかと思われるような位置に、荷物は停止した。

気まずい。

どうする?手を出す?無視する?おばさまを起こす?起こさない??
しかし、荷物は電車の揺れに合わせてじわじわと微妙に動いている。電車の走行状態によっては、まだ動きそうな気配の荷物。
ワタシの選んだ道は...。

寝たフリであった。
こんなポカポカした車内、眠くならないはずがないじゃんと心の中で言い訳しながら目を閉じるワタシ。
カーッという音がしたから、荷物は旅立ったようだ。
そして、見えない視野で、立っているお姉さんに荷物がぶつかったらしかった。お姉さんは、ワタシの隣のオジサンに「誰の荷物ですか?」と声をかけた。
いけ!オジサン!
その親切(そう)なお姉さんなら、きっとおばさまを起こしてくれるであろう!

オジサンこたえて曰く「いや、ワタシのじゃないよ」。

テメー小心者め!おまえホントは誰の荷物か知ってるだろ!
とか心の中で罵る、寝たフリ女。

電車が傾くたびに、車内の視線が一瞬荷物に集まる。(私も薄目を開けて確認する)
みんな気にしてるなら、誰か返してやれよ!と眠れない寝たフリ女。ワタシの向かいの席の3人もワタシに賛同してくれたようで、寝たフリーズを結成。荷物は寝たフリーズ付近を彷徨した。
そして。

バタン。

電車が大きく傾いて、ついに荷物が倒れた。
その音でおばさまが「あっ」と小さく声をあげて目覚め、ちょうどおばさまの前に取っ手を差し出して倒れた荷物を、急いで引き寄せた。

小さく笑いが起きた車内。
やっぱりみんな気にしてたのね。

倒れた場所がおばさま付近だったので、彼女はきっと自分の荷物の大冒険には気づいていなかったであろう。
そんな、ソフトスーツケースも旅に出るある日の電車模様であった。

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