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【お話22 私が滲む】

送迎車から外を見る。誰かが電子タバコを吸いだしたらしい。
運転手の人が、低姿勢で「窓、開けてくださいね」と言う。
くぐもった返事の後、奥の方から窓が開く音がする。
数センチだけ開いた窓から、湿った外気が入ってくるのを感じた。
車内には自分を女の子が、4人。男は運転手だけ。
運転手の給料も、私たちが稼いでいる。必然、彼は私たちに丁寧な態度を取る。
車内に流れている、クラブ系ミュージックがうるさい。
ボリュームを下げろ、と言いたいが、深夜2時を回っても街中を運転し続ける彼にとって、これは必要なものなのだろう。
下手に居眠りなどされてはたまらない。
誰かの電子タバコの匂いを無視するのと同じように、私は五感を鈍くさせる。

窓の外では、街灯と車のライトが輝いる。
パチンコ店の派手なカタカナ。ラブホテルのダサい筆記体。
全部が滲む。鈍くなった五感。

茶封筒にねじ込んだ1万円の手触り。
こっそり流しに捨てたアルコールの匂い。

全部、もっと、歪んで、消えて。

お前はもっとできると、教えてください。