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【お話28 青春に酔い】

「青春の味がする」
チューハイの缶を傾けながら、南が呟いた。
「なにそれ?」
咲良は隣で炭酸水を飲む。咲良も、去年二十歳になっていたが、お酒もたばこも好きじゃない。
お酒のカロリーを恐れ、タバコで肺活量が落ちるのを恐れている。
南は、どちらもそれなりに嗜んでいる。
「いや、なんかさ。レモンサイダーって青春って感じじゃん?」
「南が飲んでるのって、チューハイだよね?」
彼女の手にある筒に目をやる。全くかわいくないパッケージで、ストロング系のチューハイであることに間違いない。
「味はほとんど一緒だよ」
缶を傾ける、ぐいぐいと飲んでいく白い喉を見つめた。思わず、写真に収めたいと思うほどに美しい喉だった。
この喉から紡がれる歌が、咲良は好きだ。
だからお酒とタバコをやめて、喉を大切にしてほしいと思う。
それを口にすると、咲良は真面目すぎてつまらないと、また笑われるだろう。
「青春ね…」
炭酸水を飲む。ぱちぱちと弾ける、味のない水。お腹だけが膨れて、空腹を少し誤魔化せる気がするそれ。
「よくわかんないや」
咲良は、通信制の学校の風景を思いだす。
特に誰も口を開かない休憩時間。名前しか知らないクラスメイト。
学校のない時間の大半を、カラオケボックスで過ごした。
歌って、アイドルのダンスをコピーしていた、あの頃を、自分の青春と言えるだろうか。
「咲良も、飲んでみたら分かるんじゃない?」
南は笑っていた。気持ちの良さそうな声は気持ちがいい。
カバンから、全く同じお酒がもう一本出てくる。
「カバンから、お酒って」
「さっき買ってきたやつだよ」
差し出された缶に、すぐ手が伸びない。
「あ、ダイエット中だったけ?」
ダイエット、という単語が、咲良にはずどん、と響く。羽衣のツイッターの発言を、思い出している。
南は気にしていないのだろうか。
「別に、特別そういうわけじゃないから」
小さくお礼を言って、咲良は缶を受け取った。プルタブを上げると、ぷしゅり、と炭酸が抜ける音がする。
口をつける。泡が弾ける。一気に傾けると、口の中が痛い。アルコール度数が高いせいで、くらくらした。
「お、咲良いい飲みっぷり!」
南が茶化す声も、ただの音にしか聞こえない。自分の喉が動くのが分かる。
痛くて、くらくらして。
「はぁーーー」
深く、息を吐いた。
レモンサイダーの味はよく分からない。
でも。
「たしかに、青春の味がする」
「でしょー」
南が、肩を組んできた。近づいてきた身体から、体温を感じる。熱いくらいに。
もしかしたら、今、自分は間違えてるのかもしれない。
それでもいい。前しか見ない。前だけ見て、走って行きたいと思っている。
両手で缶を持って、これが青春だと思った。

お前はもっとできると、教えてください。