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【お話24 黒い街】

治安が急激に悪くなった街。
まだ8時だと言うのに、人通りはない。街灯は相変わらず光を放っているけれど、それが余計に薄気味悪く見える。
「一人で帰るなんてだめだよ、絶対に」
知らない男の人が、声をかけてくれる。
そう言われても、仕事帰りの私は、家に帰らなくてはいけない。
そもそも、この男の人に声をかけられることが、私にとっては恐怖だ。
警戒心むき出しの視線に、彼もどうやら気づいたらしい。私から二歩ほど、遠ざかる。
「あぁ、ごめんね。怖いよね、俺のことも」
両手を広げ、肩の高さに持って来る。まるで、拳銃を突きつけられた人間が、手を上げるように。。
「いえ、大丈夫です」
説得力のない大丈夫を、彼はどう受け止めたのか知らない。
一瞬、沈黙が落ちる。車が通る音もしない。
急に、背中に恐怖を感じる。肩を寄せる私を、彼が横目で確認した。
どうすれば安心して私が帰れるかを、考えてくれているのかもしれないが、全く安心できない。
仕事場で一晩いさせてもらったほうが安心な気がする。
いや、そんなことはもうできない。
どこか一泊する場所、と考えるが、そんな場所が今どこにもないことを、私は分かっている。
自転車は、朝空気が入っていなくて、乗ってきていない。
車もない。タクシーも捕まらない。

道に目をやると、足早に歩く女性の姿が見える。
危ない。そんな無防備に出歩くものではない。
「待って、」
彼女に声をかけるために、私は走り出した。
「あ、」
背後で、引きとめてくれる声がする。
それを無視して走り出す。

道路へ一歩踏み出すと、そこは真っ暗な世界。
深い穴へと落ちていった気がした。


と、そんな夢を見た。
気持ちのいい昼寝のはずが、最悪な気分だった。
他にも、いろいろと嫌な夢を見た気がする。
なにが原因か、と起き上がってみて、分かる。
読んでいたハードカバーの本が、身体からずり落ちた。
普段はそんなに重たいと思わない本でも、眠る身体の上にあると、どうしてこうも快眠を妨げるの。
私は不思議でならないのだった。

お前はもっとできると、教えてください。