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改めてVTuberの魅力を解明する

 終わりなき日常との戦いの中、VTuber(バーチャルYouTuber)さんの配信・動画を見ては「楽しいなぁ、面白いなぁ」とおかげさまでウキウキワクワクな毎日を過ごしております。
 しかし、いつも享楽に身を委ねて漫然と見てしまっているため、ふと「そういやVTuberのどういう所に面白さを感じているかを言語化したことがないなぁ」ということに思い当たりました。
 VTuberという存在が誕生してから約7年は経ったということなので、このあたりはとっくにたくさんの方々が言語化していることは容易に想像が付きますが、本日は自分なりに考えてみようと思いました。
 主に見ているのは女性VTuberのため、取り上げる話題に偏りがある点はご容赦を。
 とりあえず思いついたのは三つ!

①アバターが魅力的

 今では当たり前になり過ぎて半分感覚がマヒしておりますが、最初にLive2Dってやつを見た時は本当に驚きました。
「ママー! アニメのきれいなお姉さんがぬるぬる、ぬるぬる動いているよ~!!」
 もう長年の一人暮らしにもかかわらず、そこにいない筈のママを求めて台所まで呼びに走ってしまったことは記憶に新しいです。
 そして、そのアニメ的美少女は自在に表情が変わり、手を変え品を変えさまざまなエンターテインメントを提供してくれるではありませんか。
 この世の全てのオタクの「こんなんあったらいいのになぁ~」の集合的無意識がいきなり「ボン!」と具現化して我々の目の前に突如あらわれた、そんな実感があったものです。

②声が魅力的

 VTuberを構成する二大要素といえばガワ(アバター)とソウル(中の人)。
 ソウルの魅力の要素として比重が大きいのは「声」と言えるでしょう。
 VTuberの配信を見ていると、この世にはこんな魅力的な声の人がいるのか……、世界の広さを思い知らされます。
 自分なんかはとりあえず帰宅するとスマホのYouTubeアプリを立ち上げ、VTuberの生配信もしくは過去のアーカイブ動画を垂れ流しながら家事をするのですが、そういう風に画面を見ずに音声を楽しむことが多いです。
 なのでVTuberを名乗る以上アバターは欠かせないのですが、とりあえず自分の場合は「声」だけでも楽しめる・楽しませてくれる配信者を優先します。
 声に特徴があることはVTuberにとって大変な美徳・武器ですが、特徴的であるがゆえに学生時代にいじめられた人も少なくはないようです。
 いちばん感受性が強い時代、自らの声が今すぐにでも捨ててしまいたい「呪い」となってしまう。
 その時はさぞかしつらかっただろうと思います。
 よくぞその時期を持ちこたえてくださった、そしてよくぞVTuberという道を選んでくださった。
 私はいま、その美しい声に助けられています。

③思わずはみ出る人間性

 たいていのVTuberには「設定」があります。

「都会にあるパン屋さんにいる犬。店番をしながら空いた時間にゲームをしている。」(戌神ころねさん)
「宝石、宝、お金が大好きで、海賊になって宝を探すのが夢。海賊船を買うのが目標で今は陸でVTuberをしている。」(宝鐘マリンさん)
「人里離れた白銀の大地に住む、雪の一族の令嬢。」(雪花ラミィさん)

ホロライブプロダクション ウェブサイト
「所属タレント」プロフィールより

 VTuberの「アバター」はそれ単体では当然ながらただのお人形。
 そこに命を吹き込むのがソウル(中の人)です。
 上記のような設定というかルールを守りつつ、ソウルはVTuberというキャラクターを演じます。
 設定・ルールがある以上、ソウルの本来の「地」の部分が出過ぎるということはありません。
 ソウルの意志のもと、キャラクターが動かされる。そこには「コントロールされた楽しさ」というものがあります。
 もちろんその面だけでもVTuberは充分に魅力的なのですが、そこから更に一段深くなってまいりますと「コントロールされた楽しさ」から逸脱した・はみ出た部分が結局は面白いという話になってくるのではないでしょうか。
 VTuberの人気コンテンツの一つとして「ゲーム実況」があります。
 雑談・歌唱・イラスト描き・料理……さまざまな企画はあれど、ゲーム実況からは逃れられません。
 ある程度の人気のあるほとんどのVTuberにとって、配信における一番の屋台骨はゲーム実況かと思います。
 サクッと1時間で終わる場合もありますが、ゲーム実況の場合長時間になる傾向が多い。
 もし短時間であれば「コントロールされた楽しさ」のままで終わるかもしれません。
 しかし長時間の場合、その時間感覚がもたらす気のゆるみ、またゲーム自体が持つ面白さ(あるいは難しさ)に引き込まれることにより、そのVTuberの設定・ルールには無かった筈のソウルの人間性がにじみ出てくることがあります。
 分かりやすい例でいうと、たとえば「清楚キャラ」のVTuberがいたとします。
 清楚。可憐でおしとやかで清らかな印象。そんな彼女が長時間のゲーム実況に挑戦した。
 ゲームの難関箇所でうまくいかず、何回も死亡する。繰り返されるゲームオーバー。
 最初は「うふふ…」と余裕を見せていたが、途中から無言となり、いつしか臨界点を超える。
 そして、響き渡る台パン(悔しさで台などを拳で叩く行為)。
「はぁぁぁぁぁ!? このクソゲーがぁぁぁぁぁぁ!!」
 いとも簡単に破棄される清楚設定。ソウルの人間味がガワの設定を超えてしまった瞬間です。
 そもそもでいうとアニメやラノベでも「一見清楚でも、なんらかのトリガーで凶暴化」というキャラが多いため、最初から最後まで「清楚」というキャラ(今パッと思いついたのが『カリオストロの城』のクラリス、古いですね)が絶滅しかかっている今、ある意味様式美といえるためかえって分かりにくい例になってしまったかもしれません。
 とりあえずここで言いたかったのは、「清楚」というキャラクターのルールが破られた結果、ソウルの地が持つ人間的な面白さが前面に出たということです。
 どこぞの誰かは言いました。「ルールは破るためにある」と。
 VTuberについてこれに付け加えるならば「ルールは破られた方が面白い」でしょうか。
 ただ、ルールは破られるためにあるとしても、その破り方に作為的なもの・わざと感があってはかえって面白くなく、興ざめです。キャラの破り方・壊し方にVTuber個々人のセンスが問われている気がします。

 ところで「ヒューマンエラー」という言葉があります。
 「人間が原因となって発生するミスや事故」のことを指し、基本的には悪い意味しかありません。
 しかし、ことVTuberに関しては良い意味での「ヒューマンエラー」があると思うのです。
 最たる例はやはり「くしゃみ」でしょうか。
 配信においてVTuberがくしゃみをすると何故かファンは喜びます。過去にはくしゃみの度にスーパーチャットが飛び交う瞬間を見たことがありました。
 「VTuberのくしゃみは何故喜ばれるのか」というテーマは各所でもうそこそこ考察されており、論旨についてはそちらに譲りたいと思いますが、喜ばれる要因をざっくり言うと「人間味あふれる現象だから」、これに尽きるのではないでしょうか。
 ちょっと関係ない話をしますが、私は昔ペットでジャンガリアンハムスターを飼っていました。
 最初家に迎えた時には「銀座の高級店の寿司」くらいのサイズしかなくて「あんたちっちゃいねぇ!」と思わず口走ったことを覚えています。
 そんなか弱き小さき生き物でもいっちょまえに「あくび」とか「くしゃみ」をするんですよね。
 失礼な話、飼う前はハムスターがそれらの行為をするイメージが無かったので、初めて見た時は驚き「あなたも私と同じ哺乳類なのねぇ…」と不思議な感慨を覚えたものです。
 VTuberに話を戻すと、見た目はバリバリのバーチャルなのに、くしゃみというおもっくそ人間くさい行動をする。「いやあんた人間なんかい!」
 もちろん人間です。そのギャップに親近感を覚える、それが「くしゃみ尊重主義」の正体ではないでしょうか。
 ただ、この件でもう一つ加えておくと、「くしゃみ」単体が喜ばれているわけでもないということです。
 アニメや漫画のキャラクターもくしゃみをすることはあるでしょう。しかし、VTuberのくしゃみと同様に(もしくはそれ以上に)喜ばれているとは聞いたことがありません。
 何故なら、アニメ・漫画のキャラクターは「物語上必要な時しか」くしゃみをしないからです。
 たとえば風邪を引いているという状態を強調するための記号とか、くしゃみをすることでピタゴラ的に次の出来事が発生するとか展開上必要な時にしかに彼らはくしゃみをしません。
 しかしVTuberはナマモノですので、「むしろここは展開的にスムーズにいった方がいいんだろうな~」という瞬間に限ってくしゃみをしてしまい謎の中断が起きたりします。なんせくしゃみは突然襲いかかってきますからね。ここらへんの「ほころび」が新しかったのではないか。
 くしゃみ単体だと単なるノイズにしかなりませんが、配信という文脈において突如起きるこの不随意運動が、音楽でいうところの「変拍子」となって小気味よいアクセントを加えているのではないでしょうか。
 私がVTuberのくしゃみを「良い意味でのヒューマンエラー」と定義する所以はここにあります。

 なんだか3番目の理由だけ不格好に長くなってしまいました。
 VTuberの人間味についてはまだまだ語りたいことがありますので、またどこかの機会にでも……。
 それでは本日も皆様にすこやかなVTuberライフがあらんことを。


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