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人生で最も幸福だった10日間−30万円使った初めてのヴェネツィア旅④

旅の思い出を振り返るのは楽しいですね。きっと自分にとってこの旅がとても素敵なものだったから尚更そう思うのだろうけれど。

当時の日記を読むと「何が何€だった」なんてことが書いてありましたが、今って1€が160円を超えているんですね(書いているこの日時点で)!
私が行った当時は1€が130円くらいでしたよ…davvero?

さて、今回からヴェネツィア本島に渡ります。

ところで。

私のヴェネツィア旅はタイトルの通り10日間です。10日間もあればイタリア国内だけでもローマやフィレンツェも観光できます。いや、効率の良い順路を計画すればフランスやドイツにも行けるはずです。実際、例の友達がヴェネツィアに滞在した期間は3日間でした。

でも、私が過ごしたのはヴェネツィアだけです。

理由はシンプルで、私が行きたいところがヴェネツィアだけだったから。伝わってしまっているとは思いますけど、私はヴェネツィアのことだってろくに知らないです。全然詳しくないまま行って、全然詳しくならないまま帰ってきています。

イタリアはおろか、ヨーロッパのことも知らない。もしも知っていたら他に行きたいところが増えていたのかもしれません。でも知らなかったので、知らないなりに行きたいと思ったヴェネツィアにだけ行ってきました。

トランジットの時点であんなに右往左往していた私なので、ヴェネツィア本島でも離島でもひとりで珍道中しています。
よくわからないままコース料理を注文して食べ切れなくて困ったり、21時を過ぎたのにホテルに帰れていなくてビビり散らかしたり。

でも、そんな私もぶっつけで色々なことを学んでいきます。
偶然居合わせたスウェーデン在住の大学教師に英語の発音を教えてもらったり、路上で転んだ旅行者のカップルに絆創膏を手渡したり。

旅、好きだなぁ。早く旅に出たい。


ひたすら迷ってみようかな(往路)

言葉の壁は集中して親切を受け取るところから

日記にはこう書かれています。

さて今日はどうしようかな。とりあえずローマ広場に行ってひたすら迷ってみようかな。

Venice 8:57

ローマ広場という場所がヴェネツィア本島にある主要な観光地の玄関口みたいなものでして。メストレ地区から出ているバスに乗って向かいます。
ただ、どこのバス停から出ている何番のバスに乗れば行けるのかがわからないんですよね。ははは。

ということで昨日受付手続きをしてくれたフロントの女性に英語で質問をし、ゆっくりと説明してくれる彼女の言葉を、その碧い瞳を見つめながら、脳が痛くなるくらい集中して聴き取ります。

甦れ、英検準2級に合格した頃のリスニング力!私の拙い英語を頷きながら聴いてくれ、何度も何度も説明してくれた彼女の親切に報いるためにも。

目指せ"Caffè Florian"

彼女に教えてもらったバスに乗り込み、橋を渡ってたどり着いたところがローマ広場です。いやぁ、無事に到着しました。感謝。

明日以降の予定を考えると水上バスを併用しながら動いた方が良いのでそのチケットも買っておきます。
この旅で私はこれをめちゃくちゃ使います。次回以降に改めて紹介します。

Hello Veneziaというところで地図を買い(3€)、目的地であるCaffè Florian(カッフェ・フローリアン)の場所を確認…したけれど、当然よくわかっていない。わかっていなくても歩き出すんです私は。だいたいの方向を確認したらスタート!

こんな感じの案内です

Caffè Florianはサン・マルコ広場にあるから、この方向に歩きます。案内を辿っていけば着くはずだし、どうせ迷うんだからとにかくレッツ・ゴー!

さて、Caffè Florianとは何かということですが。カフェの名前です。カフェラテ発祥のお店として有名で、私はこのお店でカフェラテを飲むためにヴェネツィアに来たのでした。

Caffè Florianについてはこちら↓

たくさんの人から「それだけの理由で?!」と驚かれたり呆れられたり感心されたり様々な反応をいただきました。もちろん、本当は他にも理由はあります。

そもそもは「ARIA」というテレビアニメを見たことがきっかけなのですが、話すと長くなるし、相手も特に聴きたい話ではないことはわかっていたので、だいたいは適当に流していました笑。

ともかく、Caffè Florianに向かうわけですが、想像以上に迷いました。

うーん、方向音痴力を発揮してしまう…

ヴェネツィア本島には自動車が走っておらず、移動は徒歩か水上バス、あるいはゴンドラ。路上は徒歩で移動して、水上をあとの2つで移動する感じですね。本島だけであれば徒歩だけでかなり周れますが、全部歩いて見て周りたいと思う人以外はだいたい水上バスも併用して移動すると思います。

一方、ゴンドラは人力車みたいなもので(たぶん)、観光客が数人で乗って水上を移動しながらヴェネツィアを観光する際に使われているみたいでした。漕ぎ手であるゴンドリエーレがゴンドラの上で歌ったり案内したりしていたから。違ったらすみません。あくまで私の印象です。

Caffè Florianに着いたら

散々 散々 歩き回って着きましたよ
カッフェ・フローリアン

Venice 13:51

ローマ広場を出発したのが何時だったのか記載がないのでわかりませんが、私は14時前に日記を書いています。カッフェ・フローリアンで。

なんとも中途半端な写真!

ここに来るまでに路上でギターを片手に歌うおじさんや、地面に叩きつけて遊ぶボールを売っている人たちを見たり。
何系なのかわからないけれどとにかく「ヨーロッパ」って感じの人(頭悪い文章…)をたくさん見ました。あぁ、外国に来たんやな、という感じです。

色とりどりの店、町、道、海、音。
なんかわかんないけど、耳をすませばの回想の魔法の町みたい。

Venice 13:51

なんかわかんないけど、そう思ったんですよね。立ち並ぶお店がキラキラして見えて、それが魔法の町みたいに思えた。ただただ石畳の道を歩いているだけでドキドキした。

迷いながらも写真撮ったり

この日の私は曇り空の下、屋外テラス席に座りました。目の前では演奏隊の方々が生演奏をしておられて、なんとも贅沢な時間でした。

ミュージック・チャージがかかるし(さっき調べて知りました)、フードもドリンクも決して安くない(カフェラテが当時で9€!!)のですが。。。

当時のレートで1200円弱する…!!

なのですが、私はこのカフェに毎日のように通うことになります笑。
ほら、せっかくだし!このために来たんだし!めちゃくちゃおいしいし!!

念願のカフェラテを飲みながら、私はこの日記に向かって日本語で思っていることを書きつけることで色々なことを考えました。話し相手がいないので、日記に向かって一方的に話しかけていたんですよね。

親切にしてくれたホテルの受付の女性に対して、次に鍵を受け取ったときにはイタリア語でありがとう(Grazie)と言おうと決めたこと。

(その当時付き合っていた)あの人とここでカフェラテを飲めたら、どんなに素晴らしいだろうと思ったこと。

イタリアに来ると正直になれるのは、何もイタリア語が話せる人だけではないらしいこと。

この日記が私を支えていること。

なにしろ日本語が全く聞こえてこないので(当たり前だ)、ひとりごとと日記以外で日本語に触れる機会が全くないんですよね。

振り返ってみて思うのは、

親しみのある言語(私だったら日本語)が全く聞こえてこない環境に行くと、
とても集中して考え事ができるのでは?ということ。

なぜでしょうね。自分の意識を浮き彫りにするのに向いた環境なのかな。

冷めてもおいしいカフェラテに唸りつつ、1時間ごとに鳴る大鐘楼の鐘の音を聞きながら、音楽に合わせて踊る男女を眺めたりして過ごしました。

来たなぁ、ヴェネツィア。

ひたすら迷ってみようかな(復路)

目指せローマ広場

16時には出た方がいいのかな、ということを考えていると少し寒くなってきました。

意を決して会計をし(作法が分からず周りの人の所作を見様見真似でトレース)、ローマ広場を目指します。

目指す…のですが、さぁどっちに向かって歩いたらいいのかなというくらいフラフラしながら歩き出す始末。
なぜってもうおわかりだと思うけれど、どうやってここに来たのか(来れたのか)覚えていないからです。
本当に道が覚えられないんですよ。。。

街に点在する案内を見落とさないよう、できる限り注意深くなって歩きます。

ここはどこ?is何回目…

さっきまでギリギリ曇り空だったのに突然雨が降ってきまして。しかも雨足はどんどん強くなる。
迷子に雨って泣きっ面に蜂!と思いながらとにかく走る。傘なんて当然持っていないし、ツナギの下に着ているTシャツはどんどん湿っていきます。冷たい。寒い。

今だったらアウトドアウェアがあるから全然平気なんだけど、当時はそんな知識もアイテムも持ち合わせていないので、泣きそうな気持ちで走っていました。
さっきまでとんでもなく幸せだったのだけれど。一日の中で体験する情緒の変化が急でジェットコースターみたい。

雨宿り先で初めてのコース料理を食べる

とてつもなく歩き回ったと思う。迷いに迷って1時間30分かけて帰ってきましたよローマ広場に。

Venice 17:40

雨に降られながらもなんとかローマ広場まで帰ってきました。雨はまだ降り続いていて、とりあえずお店の軒先で雨宿りをさせてもらいます。

人生初の有料トイレに行ったり(便器の位置が高くて爪先立ち…私のような低身長男性は生き辛そう、などと考えてしまう)、高い位置から広場を眺めたりしていたのですが、いいかげん空腹が限界になったので、腹を括って夕食をいただくことにしました。おなかが空きすぎて痛い。

縁を感じて、というほどのことではないのですが、先ほど雨宿りに軒先を借りたお店が飲食店だったので「よし!」と気合を入れて入店!

…したのですが、なんとコース料理を提供するお店だったらしく(いやわからんけど)、早速戦慄しながらメニューを見る。
ガイド本も(コピーしたやつだけど…)読んできたし、このお店のメニューに英語も併記してあるのでなんとなく意味は取れるけれど、注文に自信がない。

コース料理…日本でだって食べたことなかったんですよ。
焼肉だって食べ放題だし(最近は違うよ!)、懐石料理なんてテレビでしか見たことないし(これは今でもそう)。
料理は出来上がった順に運ばれてきて、テーブルの上がガチャっとした感じなのが、当時の私にとっての外食だったのです。

イ、イタリアンってやつか。

パスタ(ボロネーゼ)、チキン(骨付き)、サラダで20€

Venice 17:40

だそうです。日記には書いていないけれど水も有料のはずです。
ちなみにこれは今でもそうだと思いますが、イタリアで飲むミネラル・ウォーターには「炭酸あり・なし」があります。ヨーロッパ全体がそんな感じだった気がします。私は行っていないので知らんけど。

店員さんに注文する時もどちらか一方を指定して注文します。しなかったら訊いてくれるのかな?
当時の私は炭酸が苦手だったので「炭酸抜き(acqua naturale)」を注文しました。

トマトソースに見えるけれども?
奥に見えるパンは食べ放題っぽかったです。そんなに食べられないけれど笑。

歌いながら働く店員と座ってレジを打つ店員

「ナイフとフォークだ…!」とおっかなびっくり食事をとっていた私も、少しずつ周りの景色が見えるようになっていきます。

私が案内された席の後ろに女性2人組のお客さんがいて、先に食事を始めていました。
離れた席から聞こえてくる言語が日本語なので「日本人だ!」と目を開きましたが、話しかけることもできないので平静を装いつつ、私も食事を続けました。

ナイフとフォークはおろか、コース料理の作法(?)に自信がない私は、この女性客の振る舞いをお手本にしたかったのですが(フローリアンで味を占めた)、彼女たちは私の後ろに座っているので様子がわからないのです。いちいち振り返るわけにもいかない。

そもそも聞こえてくる言語が日本語だから会話の内容がわかってしまうし、なんとなく悪いことをしている気になる。心の中で「違うんです!聞こえてしまっているだけで、私の意思じゃないんです!」と唱えていました。

店内にはクラシック音楽っぽいものが小さな音で流れていて、店員は軽やかにテーブル間を移動して料理を提供します。

焦っている感じもないし、不機嫌そうでもない。制服を着た彼らの背筋は伸びているのに雰囲気はカジュアル。

なんなら歌っているんです。

詳しくないから全然わからないのですが、もしかすると店内に流れている音楽はポップスか何かのインストゥルメンタル・アレンジだったのかもしれません。

細かいことは何もわからないのですが、口ずさむとかハミングするとかじゃなくて、そこそこちゃんと歌っていることはたしかなんです。びっくりした。

飲食店で店員が歌いながら仕事をしているけれど、
これはヴェネツィアの日常なのか?

私はこの旅で他のお店でも食事をするのですが、ガッツリ歌っているのはこのお店だけでした笑。そりゃあそうか。みんながみんな歌うことが好きってわけでもないもんな…そういうことでもない気もするけれど。

また、たぶん何かの手違いなのか一度だけ全然違う音楽が大音量で流れたのですが(!)、みんな慌てないんですよね。店員もちょっろっと謝るだけ。音楽も元の静かなものに戻して、それで終わり。

それが全然嫌な感じじゃないんです。

当時の私が働いていた飲食店が居酒屋だったこともあるでしょうが、同僚はみんな割とピリピリしていて歌いながら働く人なんていなかったし、もちろん私もそうでした。

というか、そんなこと考えられない雰囲気でした。

料理は出来上がったらさっさと持っていく!お客様から呼ばれたら、いや、呼ばれる前に気づいて行動する!ボケッとすんな!何もしていない時間を1秒でも減らせ!常に笑顔!洗い物溜まってる!あのテーブルのグラス空いてる!笑顔!

忙しい日のお店はそういうテンションだったので、店内に流れている曲が何なのか、歌詞はもちろん誰が歌っているのかさえ気にしたことがありませんでした。J-popだったから知っている歌も流れていたはずだけれど。お客さんには聞こえていたとは思う。

高校時代にバンドを組んだりライブハウスでライブをしたりしていた私が。
音楽を聴いていない。

余談ですが、私の職場は満席になってやっと利益が出る構造だったそうです。そりゃあ暇な日の店長の機嫌が悪いのも頷けるという話。
まぁ当時の私は今よりももっと世間知らずだったよね、という話でもあります笑。

それにしてもですよ。日本でそんな風に働いていた私からすれば、カルチャーショックそのものでした。
店員が歌っているなんて。客じゃなくて店員が?

みなさんが行く飲食店はどうですか?店員はどんな顔で働いていますか?

店員といえば。

初日に買い物をしたスーパーでレジを担当していた店員は
椅子に座ったまま仕事をしていました。

日本でもここ数年で「座ってレジを打つ」というお店も出てきた様子ですが(近所のスーパーにその兆しはないです)、私はこのヴェネツィア旅の経験以降ずっと「座って対応したらいいのでは?」と思っていました。

ずっと立ったままなんてめちゃくちゃ疲れるし、身体にだって悪い気がする。
その上で笑顔で頭を下げて挨拶をし(いらっしゃいませこんばんは!)、バーコードを読み取ってカゴに入れ、合計金額を伝えて支払い用の機械に案内し、頭を下げて挨拶をし(ありがとうございましたまたおこしくださいませ!)、また次の客
に対して頭を下げていらっしゃませこんばんは!

ちゃんとバーコードを読み取ってくれて、正しい値段を表示してくれたら、もうそれだけでいいんじゃないか。

座ってたって、毎回頭を下げなくたって、いいんじゃないか。

私と違う意見の人ももちろんいるだろうし、立ったままでいることに礼儀以外の理由があるのかもしれない。世間知らずの私が余計なことを言っているだけなのかもしれない。なんだかその可能性の方が高い気もしますが。。。

だけど、あの頃に受けたショックは今も私の内側で響き続けていて、私に問い続けている気がしてなりません。

丁寧な接客を受けたらもちろん嬉しいんですけどね。心があったかくなるし、それだけで「今日はいいことあったなぁ」って思うんですけどね。

でも、それは高い給料をもらっている店員が提供できるサービスだと思っているから、客単価の低い私が受け取るには過剰品質だという思いも拭えない。

スーパーの店員の時給を知っているから
「本当にこれでいいのか」「やりすぎじゃないか」と思ってしまう。

うーん、モヤモヤする。あれから10年は経ったのに。

さて、だいぶ話は脱線しましたがヴェネツィアに戻りまして。

ヴェネツィア本島初日はこのような感じでした。
日記を書き終えた私は(なんとか)会計を済ませてバスに乗り、ホテルに帰ってシャワーを浴びたら泥のように眠りました。

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