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リリシストとしての菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)

 完璧自己満音楽論、第二弾の餌食(?)は、「9mm Parabellum Bullet(きゅーみり・ぱらべらむ・ばれっと)」のヴォーカル&ギター&作詞担当の菅原卓郎氏に決定した。バンド名に読み方を書いたのは、もしかしたら若い世代は知らないかと思ったがゆえである。

 この記事では、菅原卓郎くん(以下「卓郎」)の、声質でもなく歌唱力でもなくギターテクでもなく、歌詞について書いていきたい。

 なお、前提として、僕はアルバム「Dawning」までしか聞いておらず、最新の情報や動向を知らない(キツネツキは笑ったが)、ということをご留意いただきたい。


僕と卓郎との出会い

 ファーストネームで書くとちょっと卑猥だな(やめろ)。
 というわけで、僕が9mmを知ったのは、地元タワレコの視聴機であった。メンバー四人の顔を見た時、僕は卓郎の眼を見て「こいつはヤベェ!!」と本能的に察し(「インフェルノ」のサムネとか凄いよね)、意気揚々とヘッドホンをして再生ボタンを押したのだが、が、が。

 最初の記事で書いた通り、僕はこのマガジンで嘘は書きたくない。だから正直に書く。
 卓郎の「うつろいやすい音程」がどうしても聞くに堪えず、音はいいのになぁと思いながらスルーしてしまったのだ。しかし友人が音源をくれたので、ちょいちょい聞いては、「Mr. Suicide」だけはやたら気に入って聞いていた。

 その後、某イベントでたまたまライブを見る機会があったのだが、これまた白状すると、左右二人の暴れっぷりが鼻についた。「ちゃんと演奏せえや」と。しかしこれに関しては、後に意見が変わる。つか手のひら返しだ。
 一度はフロアをあとにした僕だったが、「Mr. Suicide」のイントロが鳴った瞬間、フロアにダッシュしていた。無意識に。

 転機はMステだった。「そういや今夜だっけ」と思って、まあ予習くらいしようか、と思ったのが午後一時くらいだったと記憶している。
 結果、

 Mステ本番までライブ映像をノンストップで見続けた。

 そしてオンエアで披露された「Black Market Blues」を聞いて、EPを購入、当時はスマホではなくSONYのWALKIMANで音楽を聞いていたのだが、寝しなに何となくスピーカーで流し始めたフリーライブの音源(約45分)を聞き、眠りに落ちるどころかベッドで身体を横たえた状態でヘドバンするという奇行に走った。

 今でこそカジュアルに話せることであるが、僕はかなりの2ちゃんねるヘヴィユーザーだった。9mmの本スレを見たりしていると、「Mr. Suicide」の歌詞を文学板の詩作スレに貼ったファンがおり、そこそこの高評価を受ける、なんていう模様も目撃をした。

 そう、歌詞。主に左右約二名が当時暴れ回っていたため、僕は初めて、

「ライブ中に誰を見ればいいのか分からない」

 という珍体験をした。
……あれ? 出会い以上の話になってる……?

9mmの楽曲作成過程(当時)

 僕が知る限り、当時歌詞は「曲先」だった。曲(おそらくはデモ)が滝くんから卓郎に渡り、その音から歌詞を書く、というスタイル(個人的に興味深かったのは、当時のインタビューで卓郎がパソコンを使って作詞しているということだったが)。
 
 だが諸君、よくイマジンしてくれたまえ。
 ソングライターは変人型妖精天才・滝義充である。
 僕は若い頃、作曲をしていた経験があり、最初に9mmの曲を聞いた時、

「え? これ書いてる奴頭おかしくね?」

 と思ったさ。正直に言えば。もちろん、良い意味で。後述。

Manic Street Preachers(ちょっとした余談)

「歌詞先」かつ楽曲制作過程がユニークなバンドとして、イギリスはウェールズのバンド、マニック・ストリート・プリーチャーズを挙げたい。
 まずはベーシストのニッキー・ワイヤが歌詞を書く(本当はもうひとり作詞担当がいたのだが、彼の話になると俺が暴走するので自重する)。
 その歌詞を読み、イメージを膨らませて音源化し、歌唱するのがヴォーカル&ギターのジェームズ・ディーン・ブラッドフィールドだ。
 まさしく「歌詞先」であり、9mmとは正反対。
 だが9mmとマニックスの決定的な差異は、「ヴォーカル本人が歌詞を書いていない」という点だ(最近はジェームズも書いてるらしいけど)。

 僕は英詞だけど、自分で書いた曲には自分の言葉しか上手くハマらないように感じる。まあこの辺はそれぞれだろうし、もっといえばKing Gnuの珍獣・井口はどうなんだとかそういう話になってきて嗚呼もうカオスってきたから次行く。

曲先、しかも作曲は変人型妖精天才・滝義充

 これはあくまでも「個人の感想です」というものだが、率直に言うと滝くんの曲は本当にどうかしている。一応、十五年ほど作曲をし、歌入りのもの(曲先も歌詞先も)も作成した経験のある身として、ツッコミが追いつかないレベルだ。

 その辺のテクニカルな話は割愛するが、あんな楽曲群に、しかも一曲一曲毎に世界観がしっかりとあって、総体的にダーク・ファンタジー的な、さらに場合によってはストーリー仕立てにもなっている歌詞を載せられるなんて、並大抵のことじゃねえぞ、と思った。
 え、卓郎、おまえ、凄くね?(今更の困惑)

一番好きな曲は?

「キャンドルの灯を」(即答)

 この曲の何が凄いって、デモ音源の時点で卓郎が泣いてるんだよ。
 生で聞けた時は涙腺の決壊を必死で防いでいたなぁ。何ならガチ泣きしたかもしれん(もともと涙腺は緩い)。

 他の曲もだが、ライブだと前フリみたいなセッションが加わるのが9mm流。「キャンドル」のそれなんかもうズルいよ泣けるよ反則だよおおおおぉぉぉ(やっぱり涙腺は緩い)。

さいごに

 僕には「まり(自称)」というパートナーがおり、十年近く前に上京して同居生活が始まってから、僕はほとんどライブに行かなくなった。皮肉なことに、実家時代は月一とか月二レベルで高い交通費払ってフロアで踊り狂ってたのに、だ。

 そして、僕は「情弱(ここでは蔑称ではなく言葉通りに受け止めて欲しい)」になった。もともとテレビは見ないが、かつてのように好きなアーティストの最新情報を追いまくり、アルバムが出ればフラゲ日に購入、リリパがあれば当然参戦、何ならツアーで遠征までしていた僕が、各種SNSの台頭、各種まとめサイト、その他様々な形態で発信されている情報を、半ば意図的にシャットアウトした。

 だから、今の僕には9mmのことを、卓郎のことを偉そうに語る資格なんてないかもしれない。
 しかしそれでも、例えば友人の車で偶然「LOST!」を聞いた時すぐ9mmだと分かり、嗚呼、やっぱ卓郎の歌詞はいいな、と素直に思う、といったことが多々ある。

 NHKの番組「トップランナー」に9mmが出演した際、滝くんが目標を聞かれて、

「バンドを続けること」

滝義充

 と答えていた。
 僕はもうリアタイでは追えなくなってしまったけれど、同世代のバンドが今なおアクティブなのは嬉しいものだ(同期のバンドで生き残ってるの少ないし)。
 だから、ちひろが「絵本みたい」と表現した卓郎の歌詞世界を保ったまま、今後も9mmが続いていくことを、影ながら応援したいと思う。

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