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シザースタンド・ライク

ネルソン・マンデラという人物をご存知だろうか。

南アフリカの元大統領でアパルトヘイトを撤廃した人物、と言えばピンとくる方も多いのではなかろうか。


こんな話がある。

2013年にこのネルソン・マンデラが亡くなったというニュースが世界中を駆け巡った。

これを観た世界中の多くの人が、こう思ったそうだ。


「あれ?マンデラ大統領って1980年代に獄中で亡くなったんじゃなかったっけ…」


このように、現実の出来事と過去の記憶が乖離してしまったように感じる現象。


これを"マンデラエフェクト"と言う。


たとえば小さい頃に読んだ童話のタイトルがいつの間にか変わっていたり。

ケネディが暗殺されたときに乗っていた車は4人乗りだと記憶していたり。実際は6人乗りなのだが。

ポケットモンスターのピカチュウの尻尾の先は黒く塗られていたとお思いではないだろうか。
ピカチュウは初期から一貫して尻尾は黄色一色でデザイン変更はされていないというのに。


誰もが知っている映画の台詞、企業のロゴ、歴史的な大事件から日常の些細な出来事まで、マンデラエフェクトは溢れている。


この現象に説明をつけるならば、それはひとつしかない。



人々は自分の気づかぬうちに、平行世界へ飛んでいるのだ。








またイースターから連絡がこなくなってしまった。

LINEをしても既読にならないのでこれはまたブロックということなのだろう。


最後のやりとりは2月の頭で、私が下心丸出しで「錦糸町にサウナがついてるラブホテルがあるんだって。1日プランで行こうよ。一緒にシャンパン飲みながらジャグジー入ろう」とLINEを入れたところ、『いま余裕ないっていってるじゃん』と突然ブチギレされてしまった。


『毎日仕事でいっぱいいっぱいなの。無茶苦茶忙しいし。私だって遊びに行きたいけどその時間すら作れないの。そういうときに遊びに誘われ続けるのほんとプレッシャーなの。やめて』

「ごめん。そんなつもりはなかったんだけど」

『松岡くんはいいよ。趣味もいっぱいあるし友達も多いし才能だって評価されてるし。私は違うから。プレッシャーなの。松岡くんから一方的にLINEがくるの』

「何を勘違いしてるのかわからないけど友達はほとんどいないし才能なんて無いし評価してる人なんかいないよ」

『でも賞とってんじゃん』

「宝くじだよあんなもんは」

『それでも嫌なの。いまはやめて』

「わかった。結婚しよう」

『ほんとそういうのやめてって言ってるじゃん』

「そうだね。ごめん」

『ごめんね。本当に余裕ないの。だからちょっとの間ほっておいて』

「わかった。我慢するからちょっとエロめの写真を送ってくれないか…」



このLINEを最後に一切の既読がつかなくなってしまった。


彼女には過去最長1年半ブロックされたことがあり、その期間に至らずとも気分が落ち込んだら短期的なブロックを仕掛けてくる。


今回の突然のブチギレも私としては「またはじまったよ…」という呆れが混じっている。まあ下心ムンムンの俺が悪いんだけれども。

あ、これブロックの流れだわ…と思った瞬間、いままでの呆れが積み重なってついついエロ写メを要求するという暴挙にでてしまった。



流れが流れだけにもうこのまま終わってしまうかもしれない。


非常に残念であるし、未練もたらたらではあるが、それはそれで仕方ない気もしている。







有名声優櫻井孝宏を文春砲が直撃してしまった。

内容は既婚報道であったが、それに加えるように自身のラジオ番組の作家と10年に渡る交際関係にあり、且つ既婚であることを隠していたことが発覚し、大炎上となってしまった。


あれ?そもそも文春もなにも櫻井孝宏って既婚じゃなかったっけ?公表されてなかったっけ?とにわか櫻井孝宏知りの私は思った。


これはマンデラエフェクトだ。マンエフェ発動。


しかしどうやらあれはラジオでの失言をもとにガチファンが騒いでいただけで、オフィシャルなものではなかったようだ。結局それは正しかったわけだが。


もう10年以上前の話だが、新入社員〜2年目くらいまで私は秋葉原ガールズバーのユウちゃんを狙っていた。


ユウちゃんはAV女優の瑠川リナを大人びさせたような顔とスタイルで、アニメや声優が大好きな女性だった。

少しでも彼女に気に入られようと、私は声優を勉強しラジオを聴いたりした。


「アニマックスTVをご覧の皆さん。グリフィス役の櫻井孝宏です」というモノマネまで習得し、彼女を落としにかかったが、当然「アニマックスTVをご覧の皆さん。グリフィス役の櫻井孝宏です」なんてモノマネがウケるわけもなく、なんだったら瀕死の状態で妻の名を呼ぶウォーキングデッドのリックグライムスのモノマネのほうがまだウケていたのを覚えている。(「ロゥリィっ!」)


『そもそも調子のってるからなあ、櫻井孝宏。いつやらかしてもおかしくないでしょ』



ユウちゃんはそう言っていたが、まさかその予言が10年以上経ってから成立するのは、遅すぎたのかもしれない。



『ユウさんがいなくなって寂しい?でももういないもんはいないんだから私にお金を遣ってね』

「いいよ。全然。払うよ」

『冗談だから。ドMなの?』

「どっちでもいいよ。SでもMでも。そのどっちかを当てるくだりなんてこの世の中で最も不毛だよ」



このやりとりが思い返せばイースターとの始まりだった。



『あの時SだとかMだとか毎回毎回客に聞かれたり当てさせられたりしててほんとウンザリしてたから、ああ答えた松岡くんがすごい衝撃だったんだよ。それで仲良くなったんだよ』

「へー。それはラッキーだ」


嘘だよ。実はその少し前で裏で『SでもMでもどっちでもいいわ』って喋ってたのが聞こえたからそう答えただけなんだよ。ほんとは俺めちゃくちゃSだよ。



あれが25歳。


そこから神谷町で一か八か付き合ってくださいをかまして振られてズルズルとズルズルと色々ありながら…私は35歳になった。



色々なことをキミに隠して…10年。




ああ櫻井孝宏よ。



お前は俺か。

俺と同じやないか。


ああ櫻井。わかるよ櫻井。

いまの櫻井の気持ち、手にとるようにわかる。


もともと丁寧で人垂らしで有名な櫻井でも今回は罪悪感でいっぱいでしょう?わかるよ。


櫻井、俺は櫻井を褒めるよ。


よく清算した。頑張ったな櫻井。



このあとどんな報道が出ようが、どれだけ世間が嫌おうが櫻井…


俺は櫻井孝宏の味方だ!!!



また生き返ってくれ櫻井!!!


このルートの死の先に!希望の光があることを俺に示せ櫻井!!!



生き返れ!!櫻井!!!








私は動物が苦手だ。

それは時には可愛さを感じることもある。


イースターは猫が好きだ。

時折道端でみつけた野良猫や、どこかの駐車場で暖をとる猫をみつけては写真を撮り、それを私に送ってきたりする。


『猫ほんといいよね。飼いたいとまではさすがにならないけど大好き。写真見てるだけですごく癒される。佐藤くんは?』

「俺も猫が好きだよ。みつけるとついつい写真を撮っちゃうよ」

『ほんと?じゃあ撮った写真送って!』


そういって長年に渡り猫をみつけては写真を撮ってきたが、彼女に送信した後はすぐに削除している。


たまに写真を見返したりするが、やはりどんな状況、どんな種類であっても基本的には汚いなあ…きったねえなあ猫、となってしまう。



前述の通り、私は35歳だ。


毎年日付が変わるやいなや彼女から『お誕生日おめでとう!』のLINEが届き、また1年間よろしくねを互いに掛けあっていた。


だが今年は上述の通りブロックされているせいか、現段階に至ってもそれがくることはない。


祝ってほしい人に祝ってもらえないということは、贅沢ではあるが必要以上に精神的なダメージが大きい。


失意の底だ。なかなか耐えがたい。



けれどもこのまま終わるのはある意味最も理想的なのかもしれない。

この生き方で代償を払わないで済むなんて大儲けもいいところだ。


それでも私は彼女の連絡を待ってしまう。


もしも許されるならば、彼女に私は伝えたいのだ。


「俺、実は猫嫌いなんだよ」


と。


「本当はキミの人間としての尊厳を無視するようなプレイをしたかったんだよ」


と。


いずれにせよドン底な気分だ。


右利きのハサミを左手で無理に切り続けるような僕らの愛しい日々。


別れと寂しさの一年が、また始まったのだった。

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