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pile of hexインタビュー

十一月初旬から下旬にかけて、メールでのやり取りにて

- まずメンバーの自己紹介からお願いします。

ナガコ (Gt.&Vo.)
カン (Gt.)
千葉 (Dr. )

- 結成のいきさつから現在に至るまで、メンバーのこれまでの経歴も含めて教えてください。

(ナガコ)大学時代の軽音楽部の同期で結成しました。在学中は先輩のベースとこの3人でNuffというバンドで活動していましたが、ベースの大学卒業のタイミングで解散、2017年春頃に別の同期のベースと4人でコピーがてらスタジオに入り、その流れで曲を作りだしたのがきっかけです。その後2019年にベースが京都を離れることとなり、現在の3人編成になりました。

- 最初はメンバーにベースがいらっしゃったんですね。ちなみにコピーは何をされていたんですか?前身のNuffからは曲調も雰囲気もガラッと変わりましたが、こういう感じのバンドにしようというコンセプトみたいなものは最初からあったのですか?

(ナガコ)built to spillの曲だったと思います。Nuffは当時のベースの影響でUSオルタナを参考にすることが多くありましたが、pile of hexは特にコンセプトはなく、主にナガコ(Gt.&Vo.)のやりたいことを軸にやっています。聴く音楽が変わっていったり、やってみたいことが増えトライしていく中で自然に変わっていったと思います。ベースがいなくなり一人一人の役割が大きくなったことも関係していると思います。

- なるほど。では次に各メンバーの音楽遍歴、影響を受けたアーティストを教えてください。

ナガコ(Gt.&Vo.)
5歳〜16歳までピアノ、大学からバンドを始めました。Pavement、Fugazi、Blonde Redhead、Portishead、アートリンゼイ、ピアソラ、エンニオモリコーネなどが特に好きです。理論のことはわからないですがコード進行とかではない、和音の移り変わりがきれいな音楽が好きです。今はブラジルなど南米の音楽に興味があります。学生時代はbedのライブをよく見に行っていました。

カン(Gt.)
高校で友達に誘われてギターを始め、そのままなんとなく大学でも軽音部に入り、かっこいい先輩達の影響もあってバンドにのめり込みました。mogwai、built to spill、modest mouseのギターワークが好きで、graham coxonがヒーローです。バンド以外だとTHA BLUE HERBと5lackがとても好きです。

千葉(Dr.)
6歳~18歳までピアノ、大学からドラムを始めました。中学から日本のメロコアにはまり、dustboxやHAWAIIAN6、Hi-Standardとかを聞いていました。大学以降は、エモやポストロックを聞くことが増え、American FootballやMogwai、Explosions In The Skyとかを聞いていました。

- 皆さん本格的にバンド活動を始められたのは大学生になってからのようですが、確か皆さんは立命館大学の軽音学部ご出身だとか。同じ大学にロックコミューンという京都で活躍する幾多のバンドを輩出したサークルがありますが、同じ軽音サークルとして多少意識したりする部分はありましたか?

(ナガコ)在学中はロックコミューンやKEAKSといった他の軽音サークルと接点があまりありませんでしたが、活動していく中で知り合う機会も増え、嬉しく思っています。在学時からもっと交流できたらよかったなと思っています。

- pile of hex結成にあたって影響を受けた、参考にしたバンドやアーティストはいますか?

(ナガコ)bedや大学の先輩である5kaiからは姿勢の面で影響があると思います。

- 姿勢の面でというと具体的にはどのような部分ですか?

(ナガコ)5kaiはnostosを紹介してもらった流れでレコーディングを見学した際に、曲作りに対する好奇心へのフットワークの軽さ、積極性、柔軟性に感銘を受けました。常に刺激をもらっています。bedからはそれぞれの生活の中に音楽があるというバンドの活動の仕方・姿勢とそこから出てくる楽曲の説得力に力を貰っています。

- 曲作りに関しては普段どのようにされていますか?

(ナガコ)ナガコ(Gt.&Vo.)がやりたいコードやリズムをスタジオに持ってきて、3人で合わせながら展開させていく形が多いです。また、曲のイメージを色や材質、風景、グラフなどで共有し、そこから展開や音色などを練っていっています。今作では曲ごとにイメージする色とグラフをジャケット内部のアートワークに使いました。

- そうなんですね、とてもアーティスティックというか計算された作曲方法ですね。個人的にpile of hexの楽曲には独特のリズム、壮大で映像喚起力のある音や声の空間的な広がりが特徴的に感じられるのですが、ナガコさんがお好きな南米音楽や映画音楽からの影響も少なからず楽曲制作に反映されたりしているのでしょうか?

(ナガコ)曲に対するイメージに影響があると思います。散歩をしていて見つけた風景などを写真に撮ったりする際に、同じ場所でもそのときに聞いている曲によって気になる点が異なり、それをヒントに膨らませることもあります。EPの頃は湿ったイメージの曲が多かったのに対して、今作では“ANTS”や“PLANET”など乾いたイメージの曲もあり、制作時にはよくタンゴを聴いていました。ナガコ(Gt.&Vo.)のギターアルペジオはクラシック的な響きを意識することも多いです。

- 参考までに活動していくにあたってバンドの運営方針や活動内容など、気を付けている点や意識していること等はありますか?

(ナガコ)やりたいことだけをそこそこに。

- 次に今月24日にリリース予定のアルバムについて、タイトルや歌詞などに込めた思いや制作時の苦労した点、印象的だったエピソードなどあれば教えてください。またよければ収録予定の楽曲についての解説などもあればお願いします。

(ナガコ)2019年に出したEPでは自分たちの中から何が出てくるのかを見つめて作ったのに対して、今作はライブをしたり人と話したりする中でそれまで自分たちの中になかったことや避けてきたことなど、外への意識に目を向けながら作ったと思います。自分の中にはなかった不確かな気体状のものを取り込み、自分が扱える形の液体(特に曲について流動的であることを意識することが多かった)へ変化させるというイメージからLIQUESCENCEというタイトルにしました。ジャケットなどのアートワークはナガコ(Gt.&Vo.)の妹にお願いし、アルバムイメージ等を話し合いながら作ってもらいました。

“RAMANAS”
その時の気持ちに付箋を貼っていくつもりで曲や歌詞をつくる自分のことを歌っています。現在の私たちの名刺的な曲です。

“HEART”
自然なまま傷つき強く美しい人について歌っています。不安定さと推進力の曲です。

“WALL ⅱ (1)”
風化してインクのシミだけが壁に残ったポスターの跡。無機質と有機質。前作EPの“STAINS OF WALL”の別verです。EP版とは違うアプローチで対比構造をつくりました。曲の前半は1発録り、後半は別録りとなっており、ルームマイクをたくさん立てて録った前半の音が特に気に入ってます。

“ALONE”
コロナ期後半に昼間の家で録ったデモを元に、レコーディングを行ったnostosの朝倉さん宅リビングで部屋の音ごと録りました。

“SILENCE”
コロナ期、とにかく親しい人たちの声を聞きたかった時に家で1人で作ったものをバンドでアレンジしました。私たちの踊れる曲です。

“ANTS”
自分の頭から出た言葉と気持ちの不一致からくる混乱と息苦しさについて歌っています。スタジオでではなくPCでデモを作り、SILENCEとは違う踊りへのアプローチをした曲です。身体的なビートが無機質な質感になる様、ドラムセット各種類個別で録音した一打を、PC上で再構築してもらいました。乾燥した風の音はカン(Gt.)の弟に作ってもらいました。

“GUST OF WIND”
自分たちの曲は人の前で演奏した瞬間に自分たちのものではなくなってしまう、とライブをしていて思ったことを歌っています。なかなかまとまらず完成までに時間がかかった曲で、たくさんあるデモを継ぎ接ぎして組み立てていきました。ANTSとは対照的に湿った風です。

“PLANET”
過去に一つだった親しかった人や物事から現在の自分が生まれ、分裂後も自転しながらお互いの周りを回っている様、別れの曲で、誕生の曲です。地表からズームアウトして宇宙まで広がっていくイメージで音をつくりました。

- 前作が自己と向き合う中で生まれた作品ならば今作はそれを経て他者との関係性の中で外の世界へ向けて作られたこの三年間の集大成といったところでしょうか。しかしながら他者との関係性という曖昧で不確かなもの、楽曲を演奏した途端に自分たちの手から離れていってしまうという刹那的な感覚、そういった様々な不安定な要素が解説でも仰られているようにコロナ禍の中でより自分たちの心情や楽曲制作に与えた影響はやはり大きかったのですか?もしくはナガコさんの中にもともと漠然とあった前述のような感覚がコロナ禍の三年間を通して増幅され、より強固なものになっていったという感じでしょうか?

(ナガコ)元々生活の中での不安定な気持ちを曲にすることがほとんどなので制作のプロセスに変化はあまりありませんが、満足に活動できない期間中はアウトプットがうまくできずに体調を崩したりなかなか曲をつくることができませんでした。“SILENCE”はその頃にできた曲です。ライブができない時期を経て、一つ一つのライブに対する気持ちはコロナ前よりも強くなったように思います。

- なるほど、一足お先にアルバムを聴かせていただきましたが確かにSILENCEは他の曲とは違うダンサブルなリズムが印象的な曲ですがなかなか曲ができなかった時期の試行錯誤の産物だったのですね。続くANTSも四つ打ちを織り交ぜた躍動感溢れるビートが特徴的ですが、こちらはクラブミュージック的なアプローチで。GUST OF WINDは荒涼感が漂う前半から壮大に広がりを見せる後半は個人的にUKのDaughterぽさを感じました。ドラムのタムによるリズムとナガコさんのボーカルの節回しに地球上に生きる全ての命の躍動や生命力を感じさせるPLANETで幕を閉じる今作はミニマルな雰囲気の前半から徐々に後半にかけて視界が、世界が広がっていくような感覚を覚えたのですが、今回はアルバムのコンセプトに基づいて曲順や選曲はかなり意識されたのでしょうか?

(ナガコ)曲順に関してはあまりコンセプトを意識してませんが、今作の制作の入り口にあったRAMANASで始まって、広がりのあるPLANETで終わりたいことははっきり決まっていたので、それらを軸に聴きやすさを意識して曲順を決めました。

- ありがとうございます。ところで国内国外問わず、最近注目しているアーティストやバンドはいますか?

(ナガコ)今回のレコ発企画にお呼びしたバンド、メキシコの"Karen y los remedies"

- 今後の展望、予定を教えてください。

(ナガコ)屋外で演奏してみたいです。
アルバムリリースツアーをやります。

pile of hex -LIQUESCENCE- release tour “RIPPLES”

vol.1 2023年12月23日(土)
@Helluva Lounge
w/
idios
kotsuboku
Douglas

vol.2 2024年1月28日(日)
@Namba BEARS
w/
bed
DEATH BY DUMPLING
Jocko

vol.3 2024年2月11日(日)
@CLUB METRO
w/
peach Fuzz
VINCE;NT
yurei
kiong
Motel Paraiso

vol.4 2024年3月9日(土)
@新宿NINESPICES
w/
SPOILMAN
5kai

vol.5 2024年3月10日(日)
@studio REIMEI
※30人限定
w/
Cruyff
PSP Social
SAGOSAID

- 前述で影響を受けたと仰られていたbedや5kaiも今回のツアーの対バンに名を連ねていますね。自分たちのレコ発ツアーということで思い入れもひとしおだと思いますが、今回のツアーではライブごとに対バンを意識した違ったセットリストを組んだりされますか?それともその時の気分で?僕も個人的に大阪場所にはお邪魔しようと思ってます。

(ナガコ)ありがとうございます!直前に気分で決めると思いますが、確実に共演するバンドを強く意識したセットリストになると思います。

- 最後にメッセージ等あればお願いします。

(ナガコ)リリースツアー、ぜひ遊びに来てください!

- ありがとうございました。

インタビューを終えて:約三年ぶりとなるインタビュー企画、再始動一発目は京都のスリーピースバンド、pile of hexにメールにてインタビューをさせていていただきました。今回のインタビューは初のフルアルバムのリリース、そしてリリースツアーを直前に控えたこのタイミングで結成から現在に至るまでの過程、また各メンバーのバックグラウンドやアルバムの楽曲解説まで、謎めいていたバンドの素顔の一端を垣間見る貴重なテキストになっているのではないかと思います。個人的に前身バンドのNuffからライブを見ていた身としては、解散後にメンバーが新たに始めたこのpile of hexの音楽性の変貌ぶりには度肝を抜かれ、日本人離れしたその音楽性と歌声は関西のみならず国内を見渡しても唯一無二といっても過言ではないかと思います。今回のインタビューから伺い知れるのは、バンドの楽曲制作において中核をなすナガコさんが日々の生活の中で受けるインスピレーションやその時々の心情をバンドが楽曲として昇華させる方法論が他バンドとは少し違っていて、しかしながらあくまで自分たちは自然体のまま、その瞬間瞬間に素直に感じたイメージを具現化するという姿が我々に親近感を覚えさせつつも、と同時に想像の遥か彼方まで突き放すような、沼のような奥深い優れたアート性と独自の世界観で我々を魅了するこのバンドの姿です。今回のこのインタビューを通してpile of hexというバンドに少しでも興味を持っていただけたならぜひ音源を手に取り、ライブ会場へ足を運んでいただけましたら幸いです。



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