【創作SS】イエスマン


私はいわゆるイエスマンだ。何かを依頼されるとすぐに承諾してしまう。
無論良くないことだとはわかっているがしょうがない。

なぜそんなことになったかを説明しよう。

祖父が亡くなって、遺品がたくさんおいてある蔵を整理していると、怪しいランプを見つけた。古びてはいるが西洋風に装飾が施されており、それには惹きつけられる何かがあった。
私は汚れを取ろうと雑巾でランプを拭いたところ、なんと中から人が現れた。それは如何にも魔人といった姿形をしていて、少しこもった声でこう言った。

「俺はランプに憑いている魔人だ。お前が俺を呼び出したんだな?」

本当にこういった魔人がいることに少々驚いたが、
あまりにもティピカルな見た目が逆に私に落ち着きを与えた。

「ああ、私だ。ランプから出てきたということは、よくあるおとぎ話みたいに願いごとをすれば叶えてくれるんだな?」
「もちろんそうだ、しかしタダではない。今から一つ運試しをして、お前が勝てば願いを叶えてやる。ただし俺が勝てばお前から一つ代価をもらう。なに、代価は生死に関わるようなことじゃないし怪我もしない。それに何回でも俺を呼び出していいんだから、最終的には勝った時に取り戻せるさ」
そう魔人はめんどくさそうに言った。

「なんでそんな周りくどいことをするんだ?まぁいい、運試しはどんなことをするか聞かせてくれ。」
「そういう掟なんだ。面倒だがしょうがない。運試しは二択問題を出すからそれに正解すればいい。まず、好きな数字を1~9から4つ選んでくれ。声には出さないで頭で思い浮かべるだけでいいぞ」

二択問題ならば、わからなくても答えられるため、確かに運試しだなと思いながら、言われたとおりに数字を4つ思い浮かべた。

2, 6, 3, 7

「決めたか?じゃあすまんが4つを並び替えて一番大きな数を作ってくれ」と魔人は言った。

『7632』になるな、と私は思った。

「あー、すまん。一番小さな数も作って、それから作った二つで引き算をしてくれ」

いきなり暗算が始まって私は少し戸惑い少々時間はかかったが、なんとか計算はできた。
小さい数は『2367』だから、『7632-2367=5265』だ。

「できたぞ。計算が二択問題とどういう関係があるんだ?」と私は聞いた。
「まぁまぁ焦るなって。二択問題は『俺が計算で得られた数字を当てられないか』だ。ただ、いくらなんでも4桁もあったら流石に当てられないとお前も思うだろう。それだと簡単すぎる。もう少し条件を加えさせてくれ」と魔人は答えた。

なるほど、そういう二択問題か。
ランダムな4桁を当てれる確率は低すぎるため、私は『イエス』と答えればいいわけだ。

「ってことで、条件追加だ。引き算してできた答えを各位(くらい)毎に足し算してくれ。おそらく1~2桁になるだろう?」

私はまたもや言われた通りに足し算を行った。
5+2+6+5で答えは18になった。確かに二桁である。

「できたか?では二択問題だ。最終的に得られた数字を俺が当てられないと思うか?」
「少し考えさせてくれ」と私は言った。
――できた数は1~2桁とはいえピンポイントで当てる確率は1/99でとても低いと思う。いや、違うな。各位を4つ足すわけだからできる数字は4から36までだ。これなら当たってもおかしくはない。とはいえ・・・――

「イエス」
考えた末に、私は答えた。結局、二択問題なんだから適当に答えても問題ないだろう。
もし外しても、魔人が言うように再び呼び出せばいい。
そう思って魔人を見ると、いたずらが成功して喜ぶ子供みたいにニヤついていた。
「クックック、計算結果は18だな。では約束通り代価を頂く。代価はお前からある『一文字』を奪うことだ。俺は掟には従うが、何度も呼び出されたくないんでな。」
そうして魔人はランプへ戻っていった。

私はすぐ魔人を呼び出してまたもや運試しをしようと思ったが、
魔人が奪った『一文字』が何かを悟って諦めた。

そう、つまり私は「」という一文字を永久に奪われてしまった。声に出すことはおろか、書くこともできなくなってしまった。
否定を意味する「-」という言葉も発することができないため、
私はイエスマンになってしまったというわけだ。

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