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事故物件専門調査員桑津の管理ファイル【とあるマンションの話 ②】

ワイングラスを替えて、一杯目を注いだあたりで、どんちゃんからDMが来た。

さっき目に浮かんだ光景をそのまま伝えた。
見てもない部屋のイメージをここまで明確に答えることは稀だった。


おおう、やっぱ当たってんのかい。
雨の日や曇りの日はやめておいた方がいい、説明はできないけれど、イヤな雰囲気を感じるときは雨の日が多い。
あと、いつもと違う人を連れていく、というのは素人さんには本当に有効な方法で、来客があるときは「出ない」ことが多い。
だからこそ困るんだよ、俺が行っても出てこないときがあるから。
まぁ、それもやり方次第で何とでもなるんやけどね。


後輩ちゃんカワイソスww
塩は昔からお清めに使われてきたのがなぜかはわからないけど、昔から使われてきたっていうことは、何か意味があるからだろうと俺は思っている。
意外と素直なんですよね、Jokerさんは。(そこ、何わろとんねん!)
あと、癪かもしれんけど、該当物件に入る際は、軽く挨拶をすること。
向こうはこっちの事、あんま気にしない人が多いんやけど、たまーにいるのよ。ほんまにヤバい系の人(だった奴が)。
そういう輩に対して有効な施策です。
不法占拠してる奴やから、癪なんやけど。(大事なことなので二回言いました!)

そういえば、ちょろごんさん、元気なのかな。
最近お見かけしないけどなぁ。
ぜひお会いしたい。
ちょろごんさんなら、「視える人」も会って話しかけられたら一撃で成仏できそうww

おお、そうか、このときってまだどんちゃんと会ったことすらなかったんやなぁ。
ただのおばさんてw すごい若くてキュートなどんちゃんです。

翌朝、またDMが届いた。
当該のマンションが判明した。

さすがにマンション名は伏せる。
そうか、ここだったか。
このケース、事故物件は事故物件なんやけど、ちょっと特殊で、
「販売される前から事故物件」っていうレアやけど、あるっちゃあるケースなんよな。
確か新築時の重説には記載があったはず。
出てるのはその時亡くなった解体の作業員の人かもしれない。
ただそれだと一つの疑問が生じる。

「その人はなぜ六階のその部屋にだけ出てくるのか。」

ということだ。
前にも言ったが、マンションなどの建物で亡くなった人は、
「亡くなったその部屋にだけ出る」のではなく、
「そのマンション全体で出没する」ものなのだ。
まぁ、亡くなった部屋によく出るというのは事実だが、生前使っていたエレベーターやゴミ置き場、もちろん部屋とそれらを結ぶ廊下、エントランス、どこにでも出てくる。
(ただ、過去にタワマンに出てきた浜辺美波ちゃん似の女の子はある理由でその部屋以外出ることはなかったのだが。。)

話が逸れてしまったが、先述の通り、「解体作業員さんの霊が出ている」のなら、6階のその部屋にだけ出るのはおかしい。
それこそ、建築前なのでその作業員さんはマンション内の至る所に出てこないとおかしいのだ。
もう少し詳しい状況が気になった。
淹れたての美味しい珈琲を啜りながら、ネットの海を泳いで解体現場での事故のニュースを探してみると、どうやらこのマンションは大きな工場の跡地であることが分かった。
やはりおかしい。
その工場は古いものだったらしく、あったとしても高さは3階建て相当のようだ。
解体の作業員さんが作業をしていたとしても、「6階」までの高さには至っていないはずだ。
「死んだら天国に行くんやから、空も飛べるはず。」
そんなことはわかってる。そこはスピッツでも歌っておいてくれ。
そもそも成仏していたら、出てこないやろ。

俺の視たイメージの中では、その作業員の人はベランダに立っていた。
なんでベランダやねん。。
これは現地行ってみんとわからんなぁ。
そう思った俺はそのマンションをググり、そのマンションの管理会社を調べてみた。よくCMでも流れているような、大手の管理会社だった。

不動産業界は広いようで狭い業界だ。
「うーん、〇〇管理かぁ。
 知り合いおらんかったかなぁ。
 フォロワーの某炭〇ニキ経由でって
 いうても遠いしなぁ。
 うーん、正面突破で事故物件の調査を
 したいんですけど!!って言うて
 いったら、出禁になるレベルやもんなぁ。
 でも気になるよなぁ。
 なんか気になるんやなぁ。
 ってか〇〇管理かぁ、俺、知り合い
 おらんかったかなぁ・・

 おっ!
 おったおった!!
 知り合いどころか、「貸し」もある相手や!!
 人助けはしておくもんやなぁ。」

一人、話を聞いてくれそうな人間を思い出した俺は、嬉々として名刺ファイルをめくって1枚の名刺を取り出し、携帯から電話を掛けた。

「あ、ご無沙汰しておりまーす!
 〇〇不動産の桑津でございます。
 その節はどうもー。」

「あー、どうも藤原ですー!
 桑津先生、じゃなかった、桑津さん!
 お元気でしたか。その節は本当にありがとう
 ございました。
 あの後、伊藤先生もあのお部屋を満喫
 されているようですよ。」

「聞きました聞きました、彼女とうまく
 折り合いがついたようですね。
 それはなによりです。
 で、藤原さん、ちょっとだけ、お願い事
 あるんですけど、いいですか?微笑」

藤原さんと言えば、田澤の親分の紹介で、過去にとある事件を依頼してきた〇〇管理の人であった。(さっきの浜辺美波ちゃん似の子が出る話ね。)

「いやー、なに、変な話ではないんですよ。
 御社が管理されてる新町ローズタワー
 なんですが、ちょっとご担当者様を
 紹介いただきたいなって。」

藤原「えっ、ししっ、新町ローズタワー
   ですか?!
   ど、どこからその話を?!」

藤原さん、ほんまわかりやすい。笑
かなりの怖がりやもんなぁ。これは当たりやな。

「あれ、もしかして、藤原さん、
 この物件のご担当だったりします?笑」

藤原「あ、えぇ、はい。
   なんでわかったんですか。」

反応見りゃ誰だってわかるってばw

「あー、よかった!じゃあ話は早い。
 6階の〇〇さんから、何かご相談なかった
 ですか?」

藤原「え、〇〇さんから、ですか。
   ちょっと個人情報に当たるので、
   私からはなんとも」

「そうですよねー!わかりました。
 じゃ、いいですぅー!!
 今後とも何かございましたら、
 ぜひご用命の程を。」

藤原「えっ、あっ、桑津さん、ちょt」

藤原さんの扱いをよくわかっている俺は最後まで話を聞かずに電話を切ってやった。\(^_^)/
ほんとに失礼なやつやなぁ、と少し反省しながら、1時間ほど待つことにした。たぶん、それぐらいにまた掛かってくるだろう。

ちょうど1時間たったころ、携帯に着信があった。
もちろん藤原さんからである。

藤原「もしもし、〇〇管理の藤原でございます。
   桑津さん、実は」

「お早いおかえりで。
 もう稟議承認されたんですか?」

藤原「もう・・桑津さんには勝てませんねぇ。
   そうです、判子もらってきましたよ。
   実は稟議書自体は既に作ってあった
   んです。」

「だと思いました。笑」

藤原「そこまで視えていたんですか?
   桑津さん、パワーアップしてません?」

「いえいえ、御社のような入居者ファースト
 の会社が入居者からのクレームが来たのに
 放置しておくはずないじゃないですか。
 ましてや、藤原さんご担当でしたら、
 迅速にご対応されているんやろなと思ってた
 次第です。
 ただまぁ、こういった事例はなかなか
 対処が難しいですからね。
 私に頼むにしても稟議をちゃんとあげな
 あかんから、即答は難しいやろなと。」

藤原「ほんと、敵わないですね。
   桑津さんから着信あった時は、
   ほんとタイムリー過ぎてびっくりしま
   したよ。」

「それはしてやったり、ですわ。笑」

藤原「ではまた後程、正式なご依頼のメールを
   お送りさせていただきます。
   今日中にはお送りできるかと思います。
   今回もよろしくお願いいたします。」

「承知いたしました。
 今回はちょっと特殊で、場合によっては、
 難儀なことになるかもしれません。
 そこは覚悟しておいてくださいね。」

藤原「ええぇぇ、そんなこの前だって
   結構怖かったんですよ!?
   私が怖がりなの知ってるでしょう?!」

そんな行く前からビビってどうすんのよ、藤原さん。。
そうだ、今回もちゃんと念押ししておこう。

「ま、そのために私がいるんですから。
 あ、そうそう。
 今回も先に確認しておきますね。
 ご依頼に関しましては、誠心誠意、
 お答えを致します。
 が、私はただ『視える』だけの人で、
 霊媒師ではないです。
 除霊、はできませんし、しません。
 向かう道中、タクシーの運ちゃんごと
 消されるのはごめんですからね。」

藤原「先生、は禁句でしたね。了解しました。
   では、入居者の方にアポ取りをして
   おきます。
   また調整後に、先生にお伝えいたし
   ますね。」

「ほら、先生言うてる・・」

藤原「すません!だって、頼れるのもう
   桑津さんしかいないんですから!
   この件、ほんとうちの支店でもかなり
   話題になってるんですよ!
   ほんとなんで僕の担当だけなんで
   いつも・・」

「まぁ、御縁ですわ。」

御縁やなくてぴえん、か。

藤原「御縁って・・もう心折れそうです。。」

あかん、マジでこわがっとるなぁ。

「怖がらせてすんません、ただそこまで
 その人に悪意を感じられなかったので、
 そこはご安心を。
 さぁ、元気を出して藤原さん。
 ほら、御社のモットーは?」

藤原「お客様の幸せな住まいのために!!
   です。がんばります!」

よし、その意気だ。
また藤原さんと仕事するとは、御縁やな。

この時はうまく担当者が見つかった喜びと知り合いにまた会えるといううれしい気持ちでいたのだが、あんな結末が待っているなど想像もしなかったのだった。

続く

この物語は、ほぼフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。


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