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山崎亮のコミュニティデザイン

〇なぜコミュニティか=山崎亮の問題意識

いまコミュニティを重要視するのはなぜだろう。山崎亮は社会的な問題として以下のような例を取り上げて、この50年間に日本の無縁社会化がどんどん進んでいると語る。

  • 100万人以上のうつ病患者

  • 年間3万人の自殺者

  • 年間5000~6000人の孤独死者

  • 地域活動への参加方法がわからない定年退職者

  • 自宅と職場、自宅と学校以外はネット上にしか知り合いがいない若者

これらの問題は「良質な人のつながりの消失」、つまりコミュニティの衰退が大きな要因となってもたらされていると山崎は考えている。

なぜコミュニティが衰退してきたのかについて山崎は、住民の「お客さん化」という言葉を用いて印象的に説明している。
「道普請」という言葉があったように、かつては村のみんなで道を作っていた。そうした作業や、作業後の飲食などを通じて、地域のコミュニティはそのつながりを常に確認し合っていた。
しかし現代では、道路にヒビが入っていたり落ち葉が溜まっていたりすると住民はすぐに行政に電話をする。行政はすぐに対応する。そういう仕事は行政がやってくれるものだということになっている。
このような事態を、山崎は「お客さん化」する社会と呼んでいる。

山崎はこのような「お客さん化」する社会において、われわれは地域のみんなで一緒に何かをするという“協同の風景”を失い、それゆえにつながりを結び続ける契機を失ったために、昨今のコミュニティの衰退があるのだと捉えている。

このようなある種一般的な問題意識とは別に、山崎は個人の経験から来る問題意識についても述べている。
むしろ経験による問題意識が先にあり、その解決に向けた試行錯誤の中で洗練され抽象化されていった問題意識が上記のものだと考えられる。

ではその最初の経験による問題意識はどのようなものか。それは有馬富士公園のデザインを手がけた際に意識されたという。

“そんなにこだわった公園のほとんどが、なぜ10年もしないうちにほとんど人がいない寂しい場所になってしまうのか・・・実際には開園後の公園がどうマネジメントされているかが重要で、その方法いかんによっては10年後に寂しい公園になったり楽しい公園になったりする。”

山崎亮『コミュニティデザイン 人がつながるしくみをつくる』 p.29

山崎にとって、空間とは物理的にデザインされるだけでなく、そこで人々やコミュニティが継続的に活動することで完成するものだと言えよう。だから、その空間で将来どんな活動がなされるのか、どんなコミュニティが生まれるのかに(も)注目する。
この認識が山崎のコミュニティデザインの出発点のようだ。

山崎は以上のような問題意識から、どうすれば空間をうまく使いこなすコミュニティが作れるか、「お客さん化」せずに自分たちで協同してつながりを作っていけるコミュニティをいかに増やすことができるか、という課題に取り組んでいくこととなる。

それがコミュニティデザインという実践である。

〇コミュニティデザインとは何か

では、そのコミュニティデザインとはより詳しくはどのようなものだろうか。

◆コミュニティデザインは何を目指すのか

コミュニティデザインとは、何を目指す実践なのだろうか。
最も抽象的には、「豊かな生活」「豊かなまち」を実現することだと山崎は書いている。
金や物をたくさん持っているだけでは「豊かだ」と言えなくなった現代、人とのつながりや仕事のやりがいや自由な時間に何をするかが重視される時代において、どうすれば豊かさを実現できるだろうか。

そのために目指されるのが、コミュニティをつくることである。
まちや公園で活動する主体をつくること。人々のつながりを作ること。
これまで知り合いではなかった人たちが友達になり、飲み会やイベントをやり、一緒に活動をし始めること。
人々が集まって、知り合って、話し合って、知らないうちに仲間になって、何か一緒にやりたくなって、活動する準備を始める。そんなコミュニティをつくること。

それが、コミュニティデザインの目指すことである。

◆コミュニティデザインは何をするのか

コミュニティデザインはその目指すものに向けて、一体、何をするのだろうか。

最もシンプルには、ハード部分=モノや空間に対して、ソフト部分=つながりをデザインすることだ。
コミュニティデザインとは、つながりやアクティビティをデザインすることである。

そのために、人々を集めてワークショップを行う。
集まった人たちのキャラクターを見抜き、人の癖組みをする。
また、さまざまなコミュニティ同士の協働まで視野に入れつつ、人がつながる仕組みを作る。

こうしたコミュニティデザインの実践を、山崎はいくつかの言い方で表現しようとしている。

「地域に住む人たちが、その地域の課題を自らの力で乗り越えることをお手伝いする」
「建築物などのハード整備を前提とせず、地域に住む人や地域で活動する人たちが緩やかにつながり、自分たちが抱える課題を乗り越えていくことを手伝う」
「人の集まりが力を合わせて目の前の課題を乗り越え、さらに多くの仲間を増やしながら活動を展開することを支援する」
「人が集まり、その人たちが抱えている課題を乗り越えるためにアイデアを出し合い、それを実行するプロセスをデザインする」

キーワードは「(地域の)人々」、「つながり」、「自分たちの力で」、「課題を乗り越える」、「手伝う」などのようだ。
これを僕なりに言い換え、組み換えてみたものが以下の表現。

「自分たちのやりたいことや課題を、自分たちで達成できるようになるために、まちの人たちをつなげて協力体制を作り上げるお手伝い」

コミュニティデザインとは何をすることか、と聞かれたら、このように答えられるのではないかと考えている。

※以上の整理で間違いはないと思うが、少々「課題達成のためのコミュニティづくり」というニュアンスが強いように思う。もちろん課題達成は重要なことだが、コミュニティをつくることにはそれ以外にも、つながりをつくり“協同の風景”を取り戻すこと、そのことによる孤独の回避や「豊かな生活」の実現という目標がある。むしろ課題の設定は人々が集まるきっかけに過ぎないとも言える。現実に目にみえる実践は課題達成に向けたプロセスのデザインであることがほとんどだろうが、その陰により大きな目標があることはわすれてはならない。

〇コミュニティの作り方

ここまでコミュニティデザインの概要を説明してきた。
では実際にコミュニティデザインの現場ではどのような具体的手法が用いられたり、どんなことに注意してコミュニティを作り上げていくのだろうか。
まちや公園で活動する主体となるコミュニティをつくるために、これまで知り合いではなかった人たちが友達になり、一緒に活動を始めるようになるために、つながりやアクティビティをデザインして人々の協力体制を作り上げる。
その具体的手法についてみていこう。
 

◆どんなコミュニティを目指すのか

コミュニティを作るうえで、ひとまずどんなコミュニティを目指せばよいのだろうか。
山崎はいくつかの要素を挙げている。

1つは「自分たちが楽しんでいる」こと。
まちづくりやコミュニティ活動は、テニスをしたり野球をしたりするようなレクリエーションの一部だと考えるべきだという。
レクリエーションならば、コートを借りたり用具をそろえたりと、メンバーみんなでお金を出し合って楽しむ。コミュニティ活動も、基本的には自分たちが楽しむためのものであり、必要なら自分たちで資金を出し合う。その楽しみな活動が結果的にまちの人たちのためになるようなコミュニティ。それが理想的だという。

2つ目は「自走している」こと。
山崎は、コミュニティデザインの仕事が一区切りするのは「コミュニティが自走し始めた」と思ったときだという。
メンバーが自立的に自分たちで活動やワークショップをこなせる。山崎らのような外部の人間が会合を開かずとも、日頃の立ち話やカフェで出くわしたときにまちの話をするような非公式な会合が発生している。そんな状況が作り出せれば、コミュニティづくりの仕事もひとまず完了というわけだ。

3つ目は「新陳代謝がある」こと。
コミュニティを持続的にマネジメントする際に非常に大切な要素として、山崎は「組織に若いエネルギーが絶えず加わること」を挙げている。
リーダーが入れ替わったり、コミュニティに参加していた子どもたちが大人になってファシリテーターとして参画するようになったりする。そういう世代交代の循環があることが重要だ。

山崎は上記3点をまとめて、コミュニティが「部活動みたいな存在」になるのが理想的と言っている。
毎年新入生を勧誘し、上級生は順番に卒業していくように新陳代謝がある。
みんなで部費を集めて自立的にチームを運営する。
そして、その活動自体をみんなが楽しむために行っている。
コミュニティデザインとは、「大人の部活動づくり」なのかもしれない。

◆コミュニティづくりの手順

こうした目指すべきコミュニティのために、何をどのような手順で行えばいいのだろうか。

①ヒアリング
まずは、何はともあれ話を聞くこと。
まちの人たちに、「どんな活動をしているのか」「その活動で困っていることは何か」と聞いて回る。
その際、「ほかに興味深い活動をしている人がいたら紹介してくれないか」とも聞いて、数珠つなぎ的に地域の人脈を辿っていく。
そうしてその地域で活動している人たちのネットワークや星図がみえるようになることが第一歩である。

しかしヒアリングの目的はそのような聞き取りのみではない。ヒアリングの最終目的は「相手と友達になること」だという。
「ワークショップが始まるから絶対来てくださいよー」と誘える関係になることが一番の目的である。
そのためヒアリングでは相手から情報を引き出すと同時に、自分がどんなことを考えている人間なのか知ってもらうことが重要だ。話を聞いて何が面白いと思ったのか、その地域のどんなところに魅力を感じたのか、どんなことがやりたいと考えているのか、どんどん伝えることが大切である。

②ワークショップ
まちの人たちと話をして、地域のことや人間関係がわかってくると、そこでどんなプロジェクトができそうか何となくみえてくるという。そうなったらワークショップを開催する段階だ。

ワークショップでは、半信半疑で自己開示が十分にできない状態(=プライベートモード)のまま会場に集まった人たちを、自然と顔を見合わせて笑ったり意見を出し合ったりできる状態(=ソーシャルモード)へ切り替えることに心を尽くさなくてはならない。
ワークショップが終わって帰るころには、参加者みんながソーシャルモードになって別れを惜しむ状態に持ち込みたい。

そのためには、見ず知らずの人たちが名前を覚えるためのアイスブレイクを入れたり、事前のヒアリングで友達になった人たちにも協力してもらいながら会場の雰囲気をやわらかくしたりする工夫が必要だ。

そして当然、ワークショップの内容が充実していることがなによりも重要である。参加者全員が意見を出し合い、「自分たちがやったのだ」という感覚を持ってもらう。そのためのファシリテーションの手法が重要になってくる。

②’ファシリテーションの手法
ワークショップの目標は参加者みんなが「ソーシャルモード」になって帰ることだと書いた。
しかし、どうすれば臆せずに意見を言い合ったり、自己開示ができたり、別れを惜しむほど仲間意識が醸成できるのだろうか。
そこで必要となるのがファシリテーションである。

ファシリテーションとしてまず行うことは、「対話のプロセスをデザインする」ということである。
話し合いのルールを明確にして、参加者が自分たちで考えたプロジェクトを、自分たちで磨き上げ、実際に立ち上げまで計画し、できることを増やし、仲間も増やしていく。ファシリテーターはそれができるようにプロセスを整える。

例えば、まちづくりについての対話をするなら、

「まちのいいところと悪いところについて意見を出し合う」

「いい点を伸ばし、悪い点を克服するようなまちの将来ビジョンを話し合う」

「理想的なまちの将来像に向けてどんなことに取り組んだらいいのかを話し合う」

というプロセスが考えられる。
このような大枠のプロセスをより効果的に進めるために、次に示すような点に気を配ることが求められる。

・ちゃんとリアクションする
みんなに意見を前向きにどんどん出してもらうためには、こちらが「こうでなければダメだ」と主義主張してもほとんど意味がない。話を聞いて「いいですね!」と肯定するところから入ることが肝要。加えて、「じゃあもっとこうしませんか?」と提案する。
また、面白いと思ったら「面白いと思いました」という表情を、困ったら「困ったなあ」という表情をちゃんとみせることが大事だという。リアクションをきちんと返すことが重要だ。

・アイデアを汲み取り、昇華させる
参加者はまちの人たちである。まちにはそこの人間関係がある。「私が言うと角が立つから」と意見を控えてしまうこともしばしばである。そうした言いたくても言いづらい、言葉にならない意図や思いを汲み取る必要がある。
さらに、時には拙い、アイデアとまでいかない固まりきらない意見が提出されることもある。それを代弁してアイデア化することも重要だ。本人も気づかなかったような意見へと変化させて投げ返すことができれば、「そう、それが言いたかったんだよ!」と議論が進んでいく。

・オーナーシップを持たせる
参加者の多くが「これは俺たちのアイデアだ」と思えることが極めて大切。そのためには参加者全員の意見を把握し、タイミングを逃さずにプロジェクトを提案する必要がある。ファシリテーターの持っているアイデアをすぐに提示してしまうと、議論を誘導してしまうので好ましくない。みんなの意見がよく出てきて、その中で重なる意見が出てきたらファシリテーターも提案をしてみる。もちろん多くの事例を知ったうえで少し上乗せしたような意見を。みんなが誘導されてると感じないようなタイミングで意見を添えること。オーナーシップを持たせるためにはそれが重要となる。

こうしたファシリテーションの成功を通じた、ワークショップの成功が、参加者の垣根を払い、「俺たちが考えたんだ」というオーナーシップと、別れを惜しむほどの仲間意識を醸成する。

③チームビルディング
みんなの意見が提出され、こういうプロジェクトをやったらいいんじゃないかという話が固まってきたら、本人たちでプロジェクトを進めていける協力体制を構築するフェーズに入る。
それがチームビルディングの段階である。

チームビルディングでは、メンバーの性格や特徴を把握してそれぞれの役割分担を決めていく。そうして本人たちが協力してプロジェクトを進められる体制を構築する。
チーム分けの方法は毎回少しずつ違っていて、話し合いで決めることもあれば、事前に年齢や性別ごとに人数を決めておくこともある。
 
メンバーの信頼関係や支え合える関係を醸成することも重要である。
簡単なゲームや仕掛けがそれに役立ったりする。
たとえば、椅子の上から後ろ向きに倒れて仲間に受け止めてもらうゲーム。これだけで不思議と盛り上がり信頼関係が高まる。
たとえば、シークレットフレンドを決めておくこと。チームの活動中に隠れてサポートするメンバーを決めておくと、ワークショップをしながらでも誰かが誰かを支えているという関係性ができ、チームの結束力を高めることになる。

④活動支援
プロジェクトの方向性も定まり、チーム内の役割分担もできてくれば、具体的な活動が始まっていく。
最初は自分たちだけでできないことが多いため、活動の準備や個別の役割分担、時には行政からの経済的支援などについて相談を受けたり支援をする。

チームに足りない役割が見つかれば、人づてで仲間を増やす。似たような活動に関心のある人がまちにいるのを知っていれば、関係をつなぐこと。
また、チームが活動するために何らかのスキルを得る必要がある場合は、専門家を呼んでレクチャーしてもらうこともある。

しかし重要なのは、「サポートしすぎない」ことである。
自分たちだけで活動できるようになるのが最終目標であるため、チームにできることが増えてきたらサポートを徐々に減らしていくことが肝要だ。

同じように、チームが崩壊の危機にあるような場合でも極力手助けをしない。
放置しておくことで逆に、誰も助けてくれないのだと理解したコミュニティ自身が自分たちで人間関係を修復し始める。そうした停滞期を経てコミュニティはより一層強くなる。

○注意点

最後に、コミュニティづくりを進めるうえでの注意点をいくつか述べておく。

・ゆっくり進める
まちづくりは住民自身が試行錯誤を繰り返しながら進め、その中で仲間をつくり主体性を取り戻していくプロセスでもある。それには時間がかかる。コミュニティデザインにおいて「ゆっくりであること」は大切なことだ。
Good things take time.

・細かいデザインには触れない
たとえば空間のデザインをするワークショップを行う場合、「どんな空間がいいですか」とは尋ねない方がいい。空間デザインの専門家ではない住民からはどうしてもありきたりなイメージしか出てこない。それよりも空間デザインは専門家に任せ、出来上がった空間で「何がしたいか」、つまりアクティビティやプログラムを話し合ってもらった方がいい。

・地元に入り込みすぎない
あえて地元には入り込みすぎない方がいい。地元に入り込むということは、そこの人間関係に縛られるということである。複雑な人間関係の中では言えなくなることが出てくる。ヨソモノだからこそ言えてしまうことも重要である。


[参考文献]
山崎亮 『コミュニティデザイン』 学芸出版社
山崎亮 『コミュニティデザインの時代』 中公新書

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