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フランス大統領選挙: 決選投票に向けた選挙戦の状況(4)

 4月15日金曜日、マクロン陣営は丁度3年前のこの日に火災に見舞われ焼け落ちたパリ・ノートルダム大聖堂の再建現場を訪問、工事関係者と再建の進捗状況を視察した。実況中継からは再建状況は順調で、火災直後にマクロン氏が5年以内の再建を目指すと宣言した通りに進んでいるように見えたので、選挙戦で明るい話題を提供しようという効果はあったであろう。対するル・ペン氏は、前日のフランス南部アヴィニョンから陸路をキャンペーン・バスで地中海沿いを南下し、主要都市マルセイユの郊外の町ペルテュイスで遊説を行った。目的はもちろんマルセイユ市全体での支持固めだが、あえて市中心街に入らず郊外で遊説をしたのは、市内で遊説をすると大規模な反ル・ペンのデモが組織されることが想定され、テレビの映像で全国にも流れるので、そうした選挙戦にネガティブとなる事態を未然に避けるためにあえて場所を郊外に設定をしたのだろう。

 4月24日に行われる決選投票に関して、調査会社イプソスが15日に出した最新予想では、マクロン氏が56%を得票し、ル・ペン氏の44%を下し勝利するとしており、マクロン氏のリードがやや広がった。しかし、前回2017年の大統領選挙の際に沸き上がった極右阻止を旗印にして有権者が結束するような動きは今のところみられず、この状況では、第1回投票で3位に付けた急進左派メランション氏のコアな支持層である若年層の大部分は、決選投票ではマクロン氏への投票を避け、白票の投票、あるいは棄権を選ぶであろう。また、投票日4日前の4月20日夜に行われる予定の候補者2人によるTV討論も、有権者の投票行動に大きな影響を与えるので、注意が必要だ。2017年のマクロン氏がル・ペン氏に完勝した前回のTV討論では、その直後に5ポイントを超える開きがついた。今回のTV討論は、マクロン氏が逆風下の現職大統領としてル・ペン氏の攻撃にさらされる側にまわるので、ディベートが得意なマクロン氏にとり必ずしも有利な状況ではない。こうした不確定要素があるので、現在のマクロン氏のリードは安全圏に近づきつつあるものの、未だ十分とはいえない。

 ここへきて、マクロン氏のもとに元大統領のオランド氏(所属政党、Parti Socialiste (PS))とサルコジ氏(所属政党、Les Républicains(LR))が頻繁にコンタクトし懇談を重ねている。この動きは、決選投票でマクロン氏へ票を固めることを狙う要素もあるが、それだけではなく、大統領選挙後の6月に行われるフランス議会選挙での選挙対策への体制づくりの側面が大きいのではないか。すでに大統領選挙第1回投票の結果で明らかになったように、有権者の間でル・ペン氏が率いるRassemblement National(RN)とメランション氏が率いるLa France Insoumise (LFI)への支持が広がりつつあることが明らかとなり、現在議会(下院)でマジョリティーを占めるマクロン氏の支持基盤与党La République en Marche(LREM)がこのままでは大幅な苦戦が予想されるからだ。下院に現有議席をもつSPとLRについても、このままではそれぞれメランション氏のLFI、ル・ペン氏のNRに議席を食われることが予想される。この動きに対してSPとLRは、マクロン氏のLREMも交えた政界再々編の検討を始めているのではないか、そのように筆者にはみえる。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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