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2022年 この小説が面白かった6選

年も明けてずいぶん時間が経ってしまいました。
2022年はただでさえ読書量が減っているのに加え、積読ならぬ読了後の積みレビューも嵩んでしまったので、今年は6作品で。
ネタバレ気味の内容になりますので、ご注意ください。

過去の年間ベスト10はこちら

「獏の耳たぶ」 芦沢 央

自ら産んだ子を「取り替え」た、繭子。発覚に怯えながらも、息子・航太への愛情が深まる。一方、郁絵は「取り替えられた」子と知らず、息子・璃空を愛情深く育ててきた。それぞれの子が四歳を過ぎた頃、「取り違え」が発覚。元に戻すことを拒む郁絵、沈黙を続ける繭子、そして一心に「母」を慕う幼子たち。切なすぎる「事件」の、慟哭の結末は…。

第三者の悪意による取り替えではない。取り替えたのは母親の繭子。故意ではあったが悪意はなかった。あまりにも追い詰められすぎていて、むしろその方が子供のためにも良いだろうと信じて。真実を知っている繭子も知らない郁絵も、自分は母親に相応しくないのではと悩みつつ、そして発覚。
この題材なのだから、ハッピーエンドなんてありえないことはわかっていたが、加害者と被害者と括るのはちょっと乱暴で、でもやっぱり誰も幸せにならないことをしてしまったことは事実で。
これは映画化されるんじゃないでしょうか。してほしい。

「正体」 染井 為人

埼玉で二歳の子を含む一家三人を惨殺し、死刑判決を受けている少年死刑囚が脱獄した! 東京オリンピック施設の工事現場、スキー場の旅館の住み込みバイト、新興宗教の説教会、人手不足に喘ぐグループホーム……。様々な場所で潜伏生活を送りながら捜査の手を逃れ、必死に逃亡を続ける彼の目的は? その逃避行の日々とは? 映像化で話題沸騰の注目作!

分厚い。普通の文庫本2冊くらいの厚さがあるが、読み終えてみればそれを全く感じさせないほど、読みやすく没頭させてくれる一冊。
死刑判決の脱獄犯の逃亡生活が中心。正体がバレそうになると潜伏先も顔も
名前も変えて、決して目立たずひっそりと。関わった周りの人たちの目線で描かれ続けるので、一家惨殺の凶悪さを秘めているのか垣間見える人の良さが正体なのかを想像させながら適度に引っ張る構成も良かった。そして最後の転結。
あとがきによると賛否両論あったようだが、この結末がベストだったように思える。
亀梨和也主演でドラマ化されたようです。

「人間にむいてない」 黒澤 いづみ

とある若者の間で流行する奇病、異形性変異症候群にかかり、一夜にしておぞましい芋虫に変貌した息子優一。それは母美晴の、悩める日々の始まりでもあった。夫の無理解。失われる正気。理解不能な子に向ける、その眼差しの中の盲点。一体この病の正体は。嫌悪感の中に感動を描いてみせた稀代のメフィスト賞受賞作。

ニートを拗らせるとおぞましい異形に変異する。こんな事象がすっかり社会に認知され法律も整備された世の中のお話。蜘蛛っぽいもの肉塊っぽいもの犬っぽいもの観葉植物っぽいもの亀っぽいもの、その形状は千差万別。ある日ついに異形になってしまった息子、心のどこかで覚悟していたものの諦めきれない母親、対して割り切る父親。
正直、この小説だけを読んでいたらそこまでだったかもしれないが、ほぼ同時期に千原ジュニアYoutubeで伊集院さんがカフカの変身の話をしていてブッ刺さってしまった。なるほど虫ケラか。

「楽園の真下」 荻原 浩

”日本でいちばん天国に近い島”「志手島」は多くの自殺者が発見され、「死出島」とも呼ばれている。その島で巨大カマキリが見つかったというニュースを聞いたフリーライターの藤間は現地へ。なぜ自殺者が続くのか?なぜカマキリは巨大化したのか?そしてさらなる悲劇がー。読み始めたら止まらないパニック・ホラー長編。

刃牙でお馴染みの巨大カマキリが刃牙のいない世界に現れた。ともすればチープになりがちなテーマだけれど、侮るなかれ、抜群に面白かった。
当初は17センチだったカマキリ目撃情報が、20センチになり30センチになり。
昆虫界では屈指の凶暴さを誇るカマキリとの対峙、そしてカマキリと言えば忘れてはいけないハリガネムシ。発生した要因も最後の結末も、対カマキリ一辺倒にならない構成で惹きつけられる。
映像化されたところも見てみたいけど、これは中途半端にしたら失敗するパターン。NETFLIXあたりでしっかりお金をかけて。

「生命式」 村田 沙耶香

「夫も食べてもらえると喜ぶと思うんで」。人口減少が急激に進む社会。そこでは、故人の肉を食べて、男女が交尾をする、新たな”葬式”がスタンダードになっていた……表題作「生命式」や「素敵な素材」など、著者自身がセレクトした十二篇を収録。はたして「正常は発狂の一種」か!?未体験の衝撃と話題になった、文学史上最も危険な短篇集。

村田沙耶香といえばクレイジー。
故人を火葬するのではなく、(ちゃんと調理して味噌の鍋等で)食べることで偲ぶことが当たり前になった世界。
動物の毛皮よろしく、死んだ人間も素材として使える、むしろリサイクルであり素晴らしいこととして、髪の毛、骨、歯、爪、皮膚を素材とした洋服や家具が高級品とされている世界。
こんな世界観から、「関わるコミュニティごとにキャラが異なる」「食文化の違い」を究極まで振り切った、クレイジーさの中にもどこか共感してしまう話まで。
定期的に浴びたくなるのが村田沙耶香ワールド。ぜひ一度は触れてみていただきたい。

「彼女が最後に見たものは」 まさき としか

クリスマスイブの夜、新宿区の空きビルの一階で女性の遺体が発見された。五十代と思われる女性の着衣は乱れ、身元は不明。警視庁捜査一課の三ツ矢秀平と戸塚警察署の田所岳斗は再びコンビを組み、捜査に当たる。
そして、女性の指紋が、千葉県で男性が刺殺された未解決事件の現場で採取された指紋と一致。名前は松波郁子、ホームレスだったことが判明する。
予想外の接点で繋がる二つの不可解な事件の真相とは――!?

彼女はなぜ殺されなければならなかったのか。
彼女はなぜホームレスになったのか。
誰も知らない真実が明らかになる瞬間、世界が一転する。

理不尽な死と家族の崩壊を圧倒的な筆致で描く、
大ヒットミステリ『あの日、君は何をした』続編!!!

前作「あの日、君は何をした」がとても良かったので、期待しつつハードルも上がっていたが充分に満足。
ちょっと多めな登場人物が、ここまで見事に繋がっていて、それでいてページ数も多すぎず。こういう事件ものは加害者や被害者に注目しがちだけれど、やはり軸となる刑事のキャラクターが重要なんだなと。人情系でも熱血系でもないこの刑事だからこそ、その観点に惹かれて状況説明だけのシーンにならない魅力がある。
そして最後の切なさにはもう。
小説好きな人にはもちろん、あまり小説に馴染みがない人まで、幅広くオススメできる一冊です。

#小説ソムリエ 始めました。 普段あんまり小説を読まない人でも、趣味・好きな映画などなどを伺って、あなたに合った小説をおすすめします。