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朗読劇 くろがね姫の離婚 14

黒い盗人が持ち去ったもの。

クロガネは、
ブツン、ブツンと骨を切る衝撃に飛び起きた。
盗人の背中が闇に紛れて逃げていく。
空を掴もうとして、激しい痛みが襲いかかる。
折しも雲間に月が現れ、
クロガネの変わり果てた姿を照らし出した。

己の姿。
両の腕が、…消えている。
鉄の左腕が無い。
白い右腕も無い。

痛みを通りこし、驚きを通りこし、
心の臓が止まる寸前で、クロガネは気を失った。


このまま死ねるか。


どこかで何かが微笑む。


…否。


…否、死なせはしない。


クロガネは、再び目を覚ました。
両腕には、血止めの包帯が巻かれている。
気付けば、部落長が呆れ顔で座っていた。
「誰がこんなことをしでかしたのかはわかりませんが、」
冷たい水に布を絞って、クロガネの額にあてる。
「もうこれ以上、村を汚すことはやめていただきたい」
ため息まじりに吐き捨てた。
「とんだ似非巫女だ」
クロガネは、掠れ声で答える。
「殺すなら、早う殺せ」
部落長は苦笑いした。
「馬鹿馬鹿しい。鉄の腕が無いあなたを封じ込めても意味が無いでしょう。…熱が下がったら、どこへなりとお行きなさい」

追放。
村へやってきたときと同じ、身ひとつの姿で、
クロガネはどこへ行き着くとも知れない道を歩き出した。
姿が小さくなっても、村人の誰ひとり見送りにはこない。
鳥さえ飛ばぬ。
雨さえ降らぬ。

それでも罪ある、人間は、
歩かねばならぬ本能をただ、受け入れる。

風の噂。

両腕の無い女が、両腕の無い絵描きに拾われた。
けれども口で絵筆を扱えず、金にならぬと追い出される。

両腕の無い女が、足で布を織る機織りに拾われた。
けれども機を上手く操れず、いたたまれずに飛び出した。

あちらの村、こちらの町で、
役立たずと足蹴にされ、道を這いずりながら歩く様。
後ろを影が追いかける。
報告をうけた影の主は、
そのたびに、そうか、とこともなげに呟く。

月日はいつの世も等しく、ただ淡々と流れるのみ。

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