【腐れアボカドのドープ・ショー】

「標的の名前は腐れアボカド、見たまんま異臭を放つ黒い血袋さ。……まったくいつになれば戻ってくるのやらね、ぼくたちの神様は」

 ハンジの言葉を聞いて、俺は夕暮れの空を見あげる。この世界ごと見放されたのなら、自分たちの手で連中を駆除していけばいい。命の危険こそあれど、こいつはなかなか稼げる商売なのだ。今のご時世、金さえあればなんでもできるし、なければシャワーだって浴びれやしない。かれこれ一週間はホームレスよろしく暮らしていたから、さすがに我慢の限界だった。

「側溝にカーブミラーが落ちているでしょ。標的は大体あそこから現出する。鏡ってあちら側に繋がる通路になるから」

「ファックするにあたっての注意事項は?」

「クリオネが餌を食べる動画を見たことはあるかな。あんな感じでパカッと頭が開いて、ウネウネが伸びてくる。捕まったら最後、内側から食われてアボカドの仲間入りさ」

「うげ、悪い冗談みたいな手合いだな」

「その手の話がお好みならもうひとつ。奴さんの好物は若い女で、捕食ついでにワンプレイしちゃうらしい。ただ最中は隙だらけだから、普通にやるより楽に狩れる」

 悪い冗談にもほどがあったので、俺はけらけらと笑った。なるほど。やけにしつこく狩りに誘ってきやがると思ったら、そういうことか。

「俺を囮にするってことだな、ハンジ」

「人聞きが悪いなあ、ぼくは君の腕だって信用しているよ。若い女の子にしては、メグちゃんもけっこうやるもんだなって」

 舐め腐ったツラにバットをお見舞いしようかと思ったが、お仕事のほうが先にやってくる。ぶわりと臭気が漂ってきて、鏡の中からワンダーランドのおでましだ。ホテルのシャワーに優雅なモーニング、こいつをぶちのめせば豪遊し放題。ただ、

「アボカド入りのサンドイッチが出てきたら、どうすべきか……」

 なんていらぬ心配をしていると、さっそく目の前の血袋からウネウネが伸びてきた。

【続く】

#逆噴射小説大賞2020

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?