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マニュアル作りに役立つ調査まとめ

手順書・マニュアルは、あらゆる業種・職種で使われている、重要なドキュメントの一つです。

マニュアルは身近にあって業務の手がかりになるものなのに、「正しい書き方は?」「効果的な作り方は?」と聞かれると、なかなか答えるのが難しくないでしょうか。

私は職業柄、「マニュアルってどう作ればいいの?」と聞かれることが多く、それに答えるために"効果の高いマニュアル"に関する論文を集めていたことがあります。

その中でも、応用しやすそうなものをnoteで紹介してみます。

なお、目次を見れば、大体の内容がわかるようになっています。


0.質の高い手順書・マニュアルとは?

まず本題に入る前に、「質の高いマニュアルとは?」という話に触れます。

海外では業務の作業手順書のことをSOP(Standard Operation Procedure:標準作業手順書)と呼びます。

以前、社内メンバーと "SOPの書き方" に関する本を読みました。

そこで書いてあった"質の高いSOP"の定義が図が以下です。

画像1

要するに、持っている知識・技術をしっかり伝えられるのが、質の高いSOP・マニュアルということです。

また、この図から"知識・技術を持っていること"と、それを"SOPで伝えられること"は別物だということが分かります。SOPやマニュアルの質が低ければ、知識を持っていても伝えられないということです。

上記の本では、質の高いSOPの作り方や、あるべき構成要素、作成の進め方(「すべて命令形でシンプルに」など)が簡潔にまとまっています。

一方、この本にはエビデンスが少なく、英語特有の事情もありそうだったので、いくつか日本語の調査がないか調べてみました。

どの調査もサンプルが少ないのは気になります(この分野だと研究費を取れないんでしょうか...)が、実務の中でマニュアルの効果検証をできる人は少ないので、このような比較調査の結果は参考になるでしょう。


1.挿絵があれば、読解意欲と理解度が上がる

マニュアルに挿絵を入れることで、読みたくなり、分かりやすくなります。

既存の防災マニュアルを事例として実験を実施し,2つの効果を確認した。実験1(N=34)では,実験参加者に対して,マニュアル中のページを2秒間見ることを求め,その直後に動機づけに関する質問に答えることを求めた。その結果,挿絵がマニュアルの読解に対する動機づけを高めることを示した。実験2(N=23)では,実験参加者に対して10分間でマニュアルを理解することを求め,挿絵が注視され,記憶されていることを明らかにした。
さらに,挿絵の記憶が関連するテキストの記憶を促進することを明らかにした。つまり,挿絵が精緻化を促進することを示した。

島田・北島(2008)「挿絵がマニュアルの理解を促進する認知プロセス-動機づけ効果と精緻化効果-」

結果、マニュアルに挿絵を入れると、マニュアル自体を読もうという意欲とマニュアルの理解度がどちらも上がりました

挿絵の生む

検証方法が複雑過ぎるのは気にはなりますが、主観的なわかりやすさの向上だけではなく、挿絵を記憶の手がかりになるため事後のテストの点数も上がったそうです。

なお、以下例のように、高度な挿絵を入れているわけではありません。

マニュアル実験の挿絵例

このような簡単な挿絵の存在が意欲・記憶のどちらにも作用するそうです。内容を伝えることを考えるとビジュアルは一見無駄な要素に見えますが、むしろ目的への近道になるようです。

そう考えると、いらすとやさんは、意外と日本中の理解促進を助けているのかもしれません。


2.定着度はマニュアル>口頭説明

口頭説明よりもマニュアルのほうが理解度が上がります。

次の実験は、口頭ベースか、マニュアルベース、どちらで説明を受けたかで、エクセルの使い方の理解度の差が変わるかを見ています。

練習問題の段階から直後,遅延へと学習が進行していくにつれて,説明方法要因の主効果がみられかつその主効果は,練習問題ではマニュアル説明<口頭説明であったのが,直後・遅延に進むにしたがって逆転し,マニュアル説明<口頭説明となった。それに対し,説明のわかりやすさや理解の印象に関しては主効果はみられなかったのである。
このことは,コンピュータ操作のような手続き的知識を教授する場合,視覚・聴覚型の学習スタイル要因よりも説明方法要因の影響が大きく,学習の初期段階では口頭説明の方が理解が良いが,学習が進行するに伴ってマニュアルによる説明の方が良いといえる。

岸(2004)「手続き的知識の教授における説明方法の影響 : マニュア
ルによる説明と口頭説明との比較」

こちらも結果の図を見ると分かりやすいです。

マニュアルvs口頭

・説明を"聞いているとき"の練習課題(左上)は、 口頭 >マニュアル
・説明を"聞いた後"のテスト(左下、右上)は、 マニュアル > 口頭

となっています。

つまり、口頭のほうが説明を聞いているときは理解しているが、説明後のテストまで見ればマニュアルの方が定着効果が高いことが分かります。

「口頭で聞きたい」という人が多い理由もここにあるのかもしれませんが、理解・再現性を目的にするのであればマニュアルのほうが優秀そうです。


3.静止画より、動画のほうが作業を理解できる

動画マニュアルは、静止画マニュアルより、パズルの成績を向上させます。

この実験では、マニュアルを見てからパズルを解き、動画と静止画で、その成績を比べました。その結果、パズル完成のスピードも、間違いの少なさも、動画のほうが好成績になりました

パズルの種類は、2次元 & 直感的(キンギョ)、2次元 & 非直感的(イス)、3次元 & 直感的(ライオン)の3種類です。 

近年利用範囲が広がる動画マニュアルでは,多くの場合「見ながら同時
に課題実践していく」形で利用されているのではないかと考えられること,また,動画優位性が教示内容と関係している可能性があり,特に「モノがどう動くか」「手をどう動かすか」といった「言語化の難しい手続き操作性の情報価が高い」場合に動画マニュアルの有効性が高いのではないかと考えられることから,手続き操作性の異なる3課題で学習ならびにテスト場面でのマニュアルの有効性検討を行った.また動画マニュアルでは必然的に含まれる手(あるいは身体)の効果についても検討を行った.

(中略)

「操作の空間性」については,動画マニュアルによる優位性が見られるが,(中略)「非直感的な配置方法」という手続き操作性には(中略)どのようなマニュアル条件でも学習が困難であることも示された.

原田・遠藤(2017)「動画マニュアルはわかりやすいか?:組立課題における動画優位性の検討」

非直感的な"イス"の課題だけは、動画か否かで結果は変わらなかったそう。

この実験では、「マニュアルに"人間の手"が入るかどうか」が効果に影響があるかも調べており、実際にマニュアル内に作業者の手が入ると読み手が理解している実感が上がったそうです。

主観評価の結果

この結果を見ると、VRを使えばより高い学習効果が期待できるのかもしれません。


4.作業内容だけでなく、目的も記載すべき

作業の目的についての記載が理解度を促進させます。

この実験では、"O型マニュアル"(手続きのみ:Operational)と"U型マニュアル"(目的の理解も:Understanding)で効果を調べました。

OA機器の初心者を想定して、操作系列の正確な記述に専念する「操作型マニュアル」と、タスクの手段-目的関係に言及する「理解型マニュアル」を制作した。評価テストでは、44人の初心者に、いずれか一方のマニュアルを与え、タスクをくり返したときのパフォーマンスの変化を比較した。理解型マニュアルを利用したユーザは、最初の読解時間が長かったものの、操作型マニュアルのユーザよりも早く操作方法を覚えた。

松本(1994)「ユーザマニュアルにおける理解指向と操作指向」

結果は以下の通り。

理解型マニュアル

目的などの記載がある"U型マニュアル"の方が各種成績が良かったそう。

「マニュアルでは操作方法のみをシンプルに記載」というのは必ずしも正しくなく、少し分量が増えてもその作業の目的を記載するほうが効果が出るかもしれません。

本調査の範囲ではありませんが、目的を記載しておけば、記載内容の見直しや引き継ぎもやりやすくなる効果もありそうです。


5.理解度重視なら、スクロールよりも、ページめくり

モバイルをはじめ、スクロールで見られるマニュアルも増えてきました。

ただし理解度の点では、スクロールよりもページめくりの方が優れています

スマートフォンのような小型タッチ画面搭載機器におけるテキストの「読み」と「操作」の関係について分析を行った.具体的にはスクロール,ページめくりの操作が,テキスト内容の理解と,テキストを読みながらの仮想インタフェース操作へ与える影響を実験的に調べた.辞書的な説明文を読んだ後,内容を問われる:a)再認課題,と操作手順を記した文を読みながら仮想インタフェースの操作を行う:b)操作課題,を被験者はスクロール,ページめくり各条件で行った.その結果,理解度はページめくり条件がスクロール条件よりも高い傾向があったが,仮想インタフェースの操作時間と操作ミスの頻度は両条件で変わらなかった.

深谷・小野・水口ほか(2012)「スクロールとページめくり操作がスマートフォンでのテキストの読みに与える影響:効果的な電子マニュアルのデザインに向けて」

結果は以下の通り。ページめくり(Paging)が、スクロール(Scrolling)よりも、作業の正答数が高くなったそうです(操作ミスは誤差の範囲内)。

スクロールとページング

ちなみに、私が作った手順書の例を出すと、スクロールはこんな感じ、ページめくりはこんな感じです。

確かに、ページめくりは各ステップを確認する必要があるので、確かに初学者に理解してもらうのには適切かもしれません。

一方で、特定の箇所を探しているときはスクロール形式のほうが早く目的が達成できるでしょう。


6.動画では、画像・マーク・字幕を同時に出さない

動画マニュアルでは、画像・字幕・視覚的手がかり(枠で囲むなど)が同時に表示されると理解度が下がるそうです。

マルチメディアマニュアルの分かりやすさを向上させるため,3種の構成要素(画像,字幕、視覚的手がかり)の適切な提示タイミングを心理実験により同定した.題材として,PCソフトウェアの操作手順を利用した.実験参加者は,1秒単位で3種の構成要素の提示タイミングが操作されたマニュアルの一場面を見て,分かりやすさを主観的に評価することを求められた.その結果,分かりやすいと評価される条件は,画像と字幕が提示された後に視覚的手がかりが単独で提示されることであることが明らかになった.

島田・北島(2010)「マルチメディアマニュアルにおける視覚的手がかりの提示タイミングと分かりやすさの関係」

以下が結果で、矢印(→)は"順番に表示"、中黒(・)は"同時に表示"を表します。3つ全てを同時に出した一番下の結果は、極端に理解度が低くなりました。

同時に出す

動画を編集すると様々な要素を盛り込みたくなりますが、できるだけ各要素は時間をずらして表示するほうが良さそうですね。

たとえば最近、私がYoutube公開したデモ動画(音声注意。肉声が恥ずかしい...)では、何回か情報が同時に出てきてしまっています...。先にこの調査を読むべきでした...。

苦しい言い訳っぽいですが、Teachme Biz の動画を加工すると、要素が一つずつ出ます(上記動画の0:57から)。

(図らずも)分かりやすい動画マニュアルを生み出す仕様になっていました。


おまけ:このnoteを1分で理解するには...

長々と書いたところで、この記事の内容自体、Teachme Bizにまとめたほうが、作るのも読むのも早いと気づきました...。

Teachme Bizを使えば、簡単に、しかも今回の要素のほとんどを自動的に反映した分かりやすい手順書を作ることができます。

ということで、このnoteをTeachme Bizで作ってみました。

▼調査にもとづく、効果的なマニュアル作り:Teachme Biz▼

noteを書くのに使った時間を返してほしい...。

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