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MLB/MiLBで2011年~2016年に起きた怪我の頻度トップ50

HITSデータを使った最新の統計

本来MLBで使われていた怪我の記録システムは、怪我を詳細をトラッキングするものではなく、ロースターを管理するものとして作られたものでした。なので怪我の箇所やメカニズムなどは記録されても、正確な診断結果が記録されることはあまりありませんでした。さらにマイナーリーグでは選手の多さとチームあたりに所属するメディカルスタッフの少なさもあって更に雑になることも珍しくありませんでした。

2010年に導入されたHealth and Injury Tracking System、通称HITSはそのような問題を克服するために作られました。HITSを使うことで怪我の情報や競技復帰までの時間への理解が深まり、その情報を他の部署とシェアすることでより良いチームマネジメントを行うことも可能となりました。

過去にAhmad氏が2011年の怪我のトップ10を算出したリサーチがありますが、数多くある怪我のうちの10個しかないのに加えて競技復帰までにかかった日数=DM(Days Missed)が出されていなかったため、あまり実用的なデータではありませんでした。

競技復帰までにかかる時間をある程度把握することで治療やリハビリのプランを立てやすくなるというメリットがあります。今回はDr. Chris Camp氏らが行ったリサーチ論文を紹介しようと思います。

今回のリサーチの目的な次のようになります。

  1. MLBとMiLBで起こった全ての怪我の特徴を累積的に分析

  2. 診断をベースとした怪我の頻度トップ50の算出

  3. それぞれの怪我に対して競技復帰までにかかった日数にフォーカス

使用データの選択

HITSに記録されている2011年から2016年にMLBとMiLBで起こった怪我のデータを使用。怪我の採用条件は次のとおりです。

  1. 怪我が理由で1日でも試合に出なかった場合

  2. 怪我が試合、練習、トレーニング中に起こった場合

  3. 怪我をした時にアクティブロースターに登録されていた場合

  4. 水ぶくれや切り傷など皮膚の疾患

なので除外条件はこうなります。

  1. 病気や内科系の疾患

  2. 野球以外での怪我

  3. オフシーズンに起こった怪我

  4. 試合をミスしなかった場合

DM日数が極端に傾くのを防ぐために、シーズンエンディング率が20%以下の怪我はDMを算出する際に同じシーズン中に復帰した場合のみDM日数に加算されています。逆にシーズンエンディング率が20%以上の怪我は全てDM日数に加算されました。

怪我の頻度Top50は怪我の件数順に作成されました。なお今回『打撲』に関しては怪我の定義が広範囲に及ぶので別にランキングを作成されています。

結果

6シーズンに及ぶトラッキングで使用した怪我の件数は49,955件で、年間平均にすると8326件になりました。これは6年間通して大体同じような数値になっています。

ちなみに49,955件のうち45,123件がシーズン中に復帰していて、DMの合計日数に換算すると722,176日でした。年間平均で見ると120,363日でこれは6年間通してほぼ同じくらいでした。

怪我の箇所を構造的に見た時、いちばん怪我が多かったのが筋肉(31%)で靭帯(9%)、腱(8%)と続いています。

部位別に大まかに分けると上肢の怪我が39%で、下肢の怪我が35%でした。詳しくは下のチャートを参考にしてみてください。

下のテーブルではそれぞれの怪我の特徴をカテゴリー別に分けてます。急性的に起こった怪我が65.7%と一番多く、83.5%の怪我はマイナーリーグで起こっています。こう見ただけでもマイナーリーグの規模が大きさがわかりますね。

80.4%の怪我がレギュラーシーズン中に起こっており、90.3%の怪我が手術を必要としないものでした。再発の怪我が1.6%と低めに出ましたが、これは各球団ごとに『再発』の定義の違いによるものだと個人的には思います。怪我全体の9.7%がシーズンエンディングという結果になりました。次にポジション別に見てみると、投手が39.1%と一番多く内野手(27.1%)、外野手(22.8%)、捕手(11%)の順になっています。

筆者は怪我のメカニズムや怪我が起きた場所、怪我を誘発した行動などを下のテーブルにまとめています。

怪我の箇所として一番多かったのがハムストリング(6.7%)とダントツでした。少し差をつけてローテーターカフの肉離れ or 断裂(3.8%)、腰椎周辺筋群の肉離れ(2.6%)、上腕二頭筋長頭腱の炎症(2.5%)、そして腹斜筋の肉離れ(2.4%)がTop5となっていて、内側側副靱帯の損傷が6番目にランクしていました。

次に打撲の箇所別ランキングTop20は次のとおりです。

やはり手が一番多いようですね。3位の足部は打者の場合は自打球もありますが、右ピッチャーの場合は左打者(左ピッチャーなら右打者)の後ろ足にえぐり込んでくるスライダーによる打撲も意外と多いです。

シーズンエンディング率が高い(>20%)怪我として肘の内側側副靱帯(60%がシーズンエンディング)がもっとも多く、上方肩関節唇損傷(50.9%)、肘の捻挫(38.9%)、外側半月板損傷(31.1%)、肩関節のゆるみ(27%)、内側半月板損傷(24.1%)、肘の内側上顆炎症(21.3%)、尺骨神経炎(20.7%)、前腕屈曲筋/回内筋損傷(20%)となっています。

近年ではMLB/MiLBでは肩の怪我の件数が減少傾向にありますが、代わりに肘の怪我の件数が急上昇してる傾向があります。将来的には怪我の予防対策の効果や診断の正確性、治療の有効性にフォーカスを当てた研究が行われると良いでしょう。

まとめ

  • 他の研究結果に反して怪我の件数とDMは一定に保たれていました。

  • 投手が一番怪我をしやすい。

  • 上肢の怪我は全体の約4割。

  • 競技復帰までにかかった日数は平均16日で中央値は6日。

個人的見解

僕はホワイトソックスのマイナーリーグで5シーズン過ごしましたが、この論文の結果は合致する点が多かったです。先程も書いたように、怪我の再発の定義がなかったのが少し残念ですが、これらのデータをもとに自分たちが行っている治療とリハビリのプランの方向性を確認するのも良いでしょう。

<参照URL : https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0363546518765158?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed>

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