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旅する遺伝子とモノクロフィルム

目的地がないから「旅」なのです。

「旅する遺伝子」がもたらすのは「何かを見たい」や「どこかに行きたい」といった積極的な好奇心ではありません。ただ「旅をしている状態」に身を置きたいという漠然とした感覚です。
それを遺伝子のせいだと思うのは、その志向がそのまま娘にも受け継がれているからです。次女も同じように、ほとんど予定を決めずに目的地のない汽車旅にでかけて行きます。
残念ながら、わたしの若い頃に比べると、いまはそんな「だらだらした旅」がしにくくなりました。夜行列車も魅力的なローカル線もほとんどなくなってしまったからです。
「だらだら旅のセンス」が要求されるのは、途中のどこの駅で降りるかを決める時です。なにもない荒涼とした場所も悪くありませんが、何軒かの商店があるくらいのちいさな町が好きです。
「一生来ることがなかったはずの町」を歩き、「一生出会うことがなかったはずの人」とすれ違う時、「世界ってこういうことだなあ」と感じます。偶然こそが世界の本質なのですから。
駅で「このあたりにお昼を食べられるところはありますか?」と尋ねると、一軒のちいさなお店をすすめられました。素敵なご主人による素敵なトンカツ。「トンカツが美味しいお店かどうか」を見極める能力も旅のセンスのひとつでしょう。わたしはその能力には恵まれている気がします。
そんな感じで、ニコンF3に50mmをつけて旅をしています。イルフォードXP2はC41現像ができるモノクロフィルムで、発売時には「そんなの本物のモノクロじゃない!」と思っていましたが、自分で現像をしなくなった今ではキタムラで1時間でネガが受け取れる「便利なモノクロフィルム」です。独特の少し柔らかい粒子の感じも悪くありません。

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