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不思議な喫茶店

カランカランッ。

「いらっしゃい」

ここは不思議な喫茶店。

「お飲み物はこちらが決めてお出しします」

そう、メニューを決められないのだ。

やってきたのは、黒髭で丸帽子を被った男性。

「たまたま仕事の合間に通りかかってねえ」

「そちらの席へどうぞ」

店員のお爺さんからおしぼりを受け取り、顔をゴシゴシ拭いた。

出てきたのはコーヒー2つ。

「あの、わしは1人だが?」

「…ええんです」

お爺さんは微笑んだ。

「変わった店だ」


カランカランっ。

次にやってきたのは若い青年2人。

「ちょっと休憩していこう」

「ああ、喉カラカラ」

「お席はこちらへどうぞ」

この店はイスもバラバラだ。

ソファーがあれば、丸椅子もある。

案内されたのはソファー席。

「なんか豪華じゃん」

「本当それな」

運ばれてきたのは、熱々のコーヒー2つ。

「え、待って、ホットじゃん」

「ええんです」

「アイスがよかったなぁ」

そんな若者を見ておじいさんは微笑んだ。

「熱っ!舌やけどするところだった」

背後から声がしたが、おじいさんは気にしない。

「なあ、店員さんよ」
髭の男性が話しかけた。

「はい」

「なんでこんなシステムにしてるんだい?」

「もっと儲けたいのなら、ルールを変えたほうがいい」

「よく言われます」

「じゃあどうして」

「この喫茶店は飲み物を提供することが目的じゃないんです」

「来ていただいたお客さんに、必要なメッセージを伝えているんです」

「ほう、メッセージとね。
わしには一体どんなメッセージを送ってくれたんだね?」

「仕事真っ盛り。お金に余裕もある。薬指には結婚指輪。
今、あなたのパートナーは笑っていますか?」

男性はぎくっとした。

「今、あなたに必要なのは、ビジネスを頑張ることではなく、パートナーを幸せにすることです」

「だからぜひ、次は奥様といらしてください」

男性は黙っていた。

「それじゃあ、あの青年たちはどうなんだ」

「あの青年たちは、人生を焦りすぎです。
熱いコーヒーを、ゆったりと味わえる心の余裕。
それがないと人生息切れしちゃうんですよ」

「老人が、説教くさく伝えるより。
わしはこれが自分に合っている」

ただ一つ信念として持っているもの。
目の前のコーヒーを、時間を忘れて味わって欲しい。

それだけなんです。

「現代人は、心の余白が足りてない。
目の前の一杯のコーヒーを、全身で味わう。
それだけで、人間って幸せなんです」

男は店を出た。

この喫茶店は、自分にとって大切なものを気づかせてくれる。

「次は妻と来るか」

そう呟いて車のエンジンをかけた。




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