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上手さとはなにか?

 スキーの世界にはSAJ(全日本スキー連盟)という組織があってこの組織では教える機会がほとんどなくても指導員という資格を認定しています。資格認定のためには試験があって、その試験に合格するためには正しい型を覚えなければならない、そしてその型について解説する全日本スキー教程なるものがあるのですが、これが実はめちゃくちゃ内容がぶれています。この5年くらいと12-3年前はずっと外足が大事ということを言っているのですが、上述した期間の隙間(5-12年くらい前)はなんと真逆で内足だあ~!!みたいな話になっていて、なんだかなあという暗黒期があったりします。

そもそもなんでこんなにぶれるのかというとぶっちゃけ何の科学的根拠も示さずにその時その時のその組織の偉い人が感覚的に「わしや~こう思っとる!!」という話に「御意!!」みたいな感じで下々がひれ伏してえっちらおっちら「こういう風に滑らないと資格はもらえないんじゃ~」みたいな感じで教程作ったりしていて、なかなか大変な世界だったりします(笑)。

最近話題になっている〇クシングとかテ〇ンド―とかの世界とあまり変わらないじゃないかみたいな印象ですね。

で、困るのがその資格ほしいスキーヤーだったりなんですけど、もう一つ困った問題があります。

日本のスキーイベントでオリンピックを除いて最も観客が集まる大会ってご存じでしょうか??

普通だったらオリンピック種目の日本一を決める大会つまり、全日本モーグルとか、アルペンスキーのGSとかSLとかになるはずなんですが、、

日本の場合は「全日本スキー技術選手権」という大会が一番観客が集まるんです。

「技術選手権」って何??と思われる方が多いと思いますので説明しますと、要は日本で一番スキーのうまい人はだれか??を決める大会なんですね。

「上手いって何??」という話になってしまうのですが、いろいろなバーン(整地とかこぶ斜面とか急斜面とか)を指定されたターン(大廻りとか小回りとかフリー(好きに滑ってよし))で滑ってきた選手の滑りを100点満点から減点していってジャッジが点数をつけていって平均して90点後半くらいの点数だすとその合計点数で日本で一番うまいスキーヤーを決めるという大会です。

一応、点数の基準みたいなものがあって確かバッチテストの2級が65点、1級が70点、その上の検定でテクニカルプライズというのが75点、検定の一番難しいといわれるクラウンプライズ(一般スキーヤーの中ではよく「いつかはクラウン!!」みたいなことをいっていますが別に車のクラウンに乗りたいわけではなくこの検定のことを言っています(笑))が80点、各県あるいは地域で行われる地区予選を勝ち上がる際には85点以上みたいな話にはなっていますがこのあたりはかなりあいまいです。

以前東京都予選に別の県から全日本スキー技術選手権に出場し、10位前後の成績を出していた選手がオープン参加(腕試しみたいな感じで他の県連からも参加できすんです)したら、ウェアが地味過ぎて誰もその選手だと気づかずにものすごい点数(めちゃくちゃ低い)点数を出してしまい、何とも言えない気まずい雰囲気が流れたとかいう話がありますが時々聞かれる話です。

でも実際にこの大会で上位に入賞すると日本のスキー界ではレッスンプロとしての箔がつくので、それで冬場は結構稼げたりします。あ、最近はプラスノーゲレンデが増えたので夏場も食えるようになってきたかも。

さて、上手さって何だろうという話なんですが、実際に生の滑りを見ると確かにうまいとしか言いようがないすごみというか迫力というかは確かにあるんですよね。これってアートの世界に近くて、良いものはよいし、悪いものは悪い、その部分で人間の感性に対して普遍的に訴えかける真理のようなものがあると思います。ただ滑りを瞬間的に採点(一つの種目を上から下まで設定されたバーンを滑るとせいぜい20秒くらい)するというルールなのでものすごくジャッジの感性にゆだねられてしまいます。人間である以上、完成だけでなく、相対的な利害関係や人間関係に縛られてしまう部分もあるし、実際に後からいろいろもめたという話も聞いたことがあります。

2004年のトリノオリンピックで回転種目4位だった皆川健太郎氏がアルペン種目引退後、こちらの大会に出場したことがあったのですが残念ながら総合成績が10番台後半でした(大会終了後に彼は自身のブログかFACEBOOKでめちゃくちゃ文句を書いていましたがすぐに削除されました)。実際にその滑りを生で見ましたけどたしかになあ・・という印象は正直なところありまして、点数が出るすべりではなかったのかなあという感じなのでした。
これについてはもう一つ解説しておかねばならないことがあって、皆川氏が世界で戦ってきたアルペン競技のバーンで雪面というより氷なんです。一方この技術選手権は普通のゲレンデを使って行われるので車でいうとサーキットと公道くらいの違いがあります(余談ですがしげの秀一氏は「イニシャルD」で公道とサーキットの違いをどっちも否定することなく表現していたのはめちゃくちゃすごい)。しかしまあ現役世代でアルペンスキーで日本最高位の成績を出した方がその滑りと違う滑り方をしないと点数が出ないというのもとてもなんだかおかしな話ですよね~

さて、皆川氏は技術選出場1年目は彼にしてみればさんざんな成績に終わり、2年目も予選には出場しましたけどやはりあまりぱっとした評価を受けませんでした。2年目は結局全日本選手権には出場を辞退してそのままその世界から身を引いて現在に至っています。しかし彼がすごいなあと思うのは実は彼は全日本スキー連盟の常務理事に就任しており、直接この大会の運営にかかわってはいないもののそのルールを変える側の立場に立って実際に少しづつ大会の運営方法に変化が現れてきています。

上手さを決める大会がいつの間にかいろいろなしがらみの中でだれかの声でうまさの基準が決まるような世界が少しずつもう少し公正で納得感のある形でジャッジされていくような流れに進むことはとても良いことです。

しかし世界のジャッジ種目、例えば日本のお家芸とされる柔道ですらその時々の偉い人の影響をうけてルールが変わってきています(最近柔道で日本選手が復活できたのは世界柔道連盟における日本の役員の発言力が高まって、日本人に有利なルールに変わっているからという話を聞いたことがあります)。ジャッジ種目は人が人を見る以上どうしてもぶれがおきます。これって人事の評価の世界と一緒です。しかし、あまりにも納得性に乏しいジャッジではやはり見るスポーツとしての魅力が損なわれていますと思いますのでもう少しきちんとしてくれるといいなあと感じたります。

ジャッジもそうだけどあとは技術論についてももう少し科学的根拠に基づいて理論を作ってほしいところですが最近はIoTがスポーツの世界で様々なイノベーションを起こしているのでそこに期待したりしております。

野球の世界って、ずっと感性の世界で技術が語られていたのですがこの20年くらいで統計学的に数字を分析する手法(マネーボールが有名です)が導入され、さらにこの数年でIoT(ボールの軸と回転数、バットに当たったときの初速とか角度とかで飛距離が変わる(最近だとフライボール革命))が入ってきてどんどん感性の世界がみえる化されています。

スキーのうまさって突き詰めるとスキーという用具の性能をどれだけうまく引き出してスキーを滑らせることができるかということだと思うんですけど、このあたりは少しずつ見える化されてくることを期待したいですね~


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