Gallery Slide Exhibition “LIMINAL” Gavin Rae / Kobayashi Chisei 2023.04.01-2023.05.15 に寄稿したLiminal Space文章


こちらのギャラリーイベントに寄稿した、札幌の地下鉄とLiminal Spaceをクロスオーバーさせて考える文章を公開します。


本文


リミナル(Liminal)、すなわち、境界、限界。建築タームとしてのリミナル・スペースは、人間をある場所から別の場所へ運ぶために設けられた人工的建造物を意味する。たとえばそれは、廊下、階段、道路、待合室、駐車場、空港ロビーといった、輸送や交通に関わるターミナル空間であり、通常、人はそこを通過もしくは一時的に滞在するためにその空間と関わり合う。二つの異なる場所を結びつける中間地帯(No man's land)としてのリミナル・スペース。

FNMNL 編集部 , 木澤佐登志 . “【コラム】Liminal Space とは何か “.2021/11/16. https://fnmnl.tv/2021/11/16/139203


到来していない未来

札幌市営地下鉄東西線・東豊線のホームの両端に存在する、何もない空間。ビジュアルとしてまさしく Liminal Space としていうほかない空間。

乗客が通りがかることはまずない。職員が足を踏み入れているところもほとんど見たことがない。
しかし完全に使われず朽ち果てている感じでもない。奥の方にあるドアや資材置き場は定期的に誰かが利用しているのだろう。
あの空間を眺めるたびに、この駅には自分以外誰もいないし、地下鉄も来ないのではないかという気持ちにさせられる。

数十年前の東西線・東豊線建設時には、未来の地下鉄利用者は増加し続けるものと予想された。
そうであれば地下鉄 1 本あたりで乗せられる量を増やす必要がある。将来的な地下鉄車両の増結に対応するホーム部分として、あの空間は設けられたようだ。
2023 年現在で東西線は 7 両編成、東豊線は 4 両編成。それぞれ8 〜 9 両まで増結しても大幅な改築工事を行わなくて済むよう、余裕を持って設計されている。

けれども、車両の増結は 1999 年を最後に 20 年以上行われていない。
そして、増結が行われる前に、ホームドアは現在の編成長で組み付けられてしまった。利用者がこれ以上増えることは当面ないのだと宣告されたかのように。

眺める。誰もいない。未来は到来していない。


存在しない階

大通駅から東豊線に乗るとしよう。
大半の人は東西線や南北線に近い東豊線南改札口を利用するはずだ。
あまり使われない経路として、東豊線北改札口というものが存在する。
札幌の地下鉄の他の施設とは明らかに異質で、荘厳ともいえるほどに広大な空間だ。

ここへのアクセス途中に、Liminal Space の派生概念である The
Backrooms そのものといっていいような光景が存在する。
オーロラタウンから札幌市役所方面に曲がったところ、マクドナルドや宝くじ売り場の裏手の窪みに存在するエレベーター。行先ボタンは地上 1 階・地下 1 階・地下 3 階の 3 つだけがある。
だが、地下 2 階が存在するのだ。
もちろんボタンは存在しないし、乗客が降りることもできない。
それでも地下 1 階から地下 3 階に移動する間に、ドアのガラス部分から伺える。

どういった場所か説明しようとすると...難しい。何度も通っているし、明かりもついていてはっきりと見分けることができるのだが。
倉庫。資材置き場。単なる空き部屋。なんとでも説明のつきそうな無人の空間。エレベーターに乗った一瞬だけ邂逅する存在。
トートロジーとなってしまうのだが、あまりに「Backrooms 的な存在」なのだ。それゆえに記憶に残らない。

通り過ぎる。垣間見る。忘れる。


境界であること

そもそも、札幌の地下鉄駅や地下街そのものが Liminal Space 的と言えるのではないだろうか。
やや薄暗い蛍光灯、タイルと控えめな模様程度の装飾、実用一辺倒な掲出物。「人がいるのに」人の気配のしなさ。
どの駅を見ても、どこかで見たような気がする。生活の感じがあるが、ひんやりとしている。


この街の Liminal があなたにも感じられますように。

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