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大きな木

児童文学とも長編詩とも言える、シェル・シルヴァスタインの『The Giving Tree』(1964年)が、日本語訳で『大きな木』とされていることに、最初は違和感を抱いた。けれども、大きな木だったからこそ、「木」は「少年」の成長過程に応じて、遊び場を、木陰を、リンゴを、材木を与えることができた、ということに思い至ったとき、大きな樹木から私たちが受ける恩恵のはかりしれなさが腑に落ちた。

2023年夏、明治神宮外苑再開発が反対の声をかわして進められ、樹齢100年を超える大木をはじめ多くの樹木が伐採されるかもしれない状況にある。事業者は、再開発後は新たな植樹を含めて樹木数が増えると言っているが、数の問題ではない。坂本龍一さんが小池都知事に宛てた手紙に記されているように、「先人が100年をかけて守り育ててきた」樹々は「どんな人にも恩恵をもたらす」。

大きな木が「恩恵をもたらす木 (giving tree)」であること、私たちが樹木の恩恵を日常的に受けていることを、今こそ思い出すことが必要だ。