ハマかぶれ日記2〜神様、仏様、東様

 3年前まで横浜ベイスターズのスカウト部門の中心にいた吉田孝司さんと一度、食事をともにしたことがある。巨人のV9時代の捕手で、記録に残る派手な活躍はなかったが、巨人の選手としての一軍ベンチ入り試合数は王、柴田らに続く歴代4位と、古い表現で言えば「いぶし銀」の味を出していた。「受けた投手で誰が一番でしたか」と小学生のような質問をすると、即座に「高橋一三」と返ってきた。
 高橋は1965年〜75年に巨人、76年〜83年に日本ハムに在籍し、通算167勝を挙げた名左腕。速球に右打者の外角に曲がり落ちるスクリューボールを組み合わせる、今の左腕の「原型」と評される投球で、右腕の堀内とV9を支える双璧となった。「球の切れが全然、違った」。吉田さんは何度もそう言った。何につけスポーツ界では有利とされる左であったことも大きいようだ。
 道理で吉田さんがスカウト部長だった頃のベイスターズのドラフト上位には、左腕が並ぶ。石田(2015年2位)、今永(16年1位)、浜口(17年1位)、東(18年1位)、坂本(20年2位)。第二の高橋を掘り起こそうとしたのだろう。彼ら抜きで今の投手陣は考えられない。
 そのうちの一人、東の昨日(6月24日)の投球は圧巻だった。ストレートに勢いがあり、チェンジアップ、ツーシームも上手く決まる。完封という結果はむろん言うことなしだが、無四球の投球テンポの良さが、何より観ていて気持ちよかった。
 入団1年目の2018年に11勝を挙げ、セ・リーグ新人王に輝いたものの、その後、左肘を故障し、20年に再生をかけたトミー・ジョン手術を受けた。ようやく回復した昨年は開幕投手を任せられたが、敗戦投手となり、そのまま本調子に戻らなかった。辛いことも多かっただろう。テレビ画面に映る躍動感あふれるフォームを観ているうちに、涙が滲んできた。
 今シーズンの登板10試合で与えた四球がわずか5個という東のコントロールと比べるのは酷だが、東の1年先輩のドラ1、浜口には、ただ、「もうちょっとだけゾーンに投げて欲しい」と願う。一昨日、昼間の二軍戦をCSで見たら、先発していて、やはり四球がらみのピンチを招いて失点していた。気になったのは、体から、顔から覇気が感じられないことだ。悩んでいる、毎日が悔しいのは分かる。でも、ここは思い切ってキャッチャーミットの真ん中めがけて腕を振って欲しい。左腕の「名伯楽」、吉田さんの眼鏡にかなったのだから、勝てないわけがない。
 ともあれ今日は東様。近いそのうち、浜様と呼ばせてください。
 
 

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