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時折最高:014 Earth & Fire - Maybe Tomorrow Maybe Tonight (1973)

Earth & Fireというバンド

Earth & Fireは60年代末から1990年まで活動していたオランダのロック/ポップグループです。

日本で有名なオランダのグループと言えば、多分Shocking Bluenなのではないかと思います。

「Venus」(1969)は色々な人にカバーされた有名曲ですしね。
来日もしていてライブアルバムを残しています。

このShocking Blueのように、男性がバックを務め、フロントのボーカルに魅力的な女性が立つ、というバンドスタイルの創始者は、一節にはJefferson Airplaneだと言われます。まあジャズバンドなどでは昔からあった編成ですが、ロックバンドで、ということならそうかも知れません。少なくとも、そのスタイルで広範な人気を得た、という条件を付けるなら。

Earth & Fireも相当に演奏の達者な男性陣がバックを務め、フロントにはセクシーなJerney Kaagmanが立つ、という点では一連の女性フロントバンドの一角です。ただこのバンドが違ったのは、初期についてはプログレッシブ・ロック/シンフォニック・ロックのグループとして扱われていたことでしょうか。

私がこのグループの魅力と価値に気付いたのは相当遅くて、実はほんの数年前です(笑)。プログレと呼ばれていたので試しに聴いてみても、どうもそれほどのものに思えず、長年放置してきました。

それがころっと変わったのは、2017年に出た10枚組ボックスをちゃんと聴いてみたことからでした。

このボックスで、彼らの残した全アルバムとシングル曲をすべて聴くことが出来ます。そしてきちんと聴いて知ったのは、彼らは基本的にポップスのバンドで、時期によってサイケ、プログレ、ポップ、ディスコと時流に応じてさまざまにスタイルを変えつつチャレンジを続けてきたバンドだということでした。スタイルの変更は、Jerney Kaagmanの髪型にすぐ反映されるのがなんともけなげで好印象です。髪型だけでなく、歌声もラフなものから朗々とした声へ、そしてソフトに、コケティッシュに、ところころ変わっていきます。

Earth & Fireの変遷(髪型史(笑))

"Seasons"は初期のヒット曲としてよく取り上げられます。グループサウンズ、といった感じも・・・。

こちらはJefferson Airplane張りのロック。これが1970年、1stアルバムEarth And Fireの時代です。

1971年の2ndSong Of The Marching Childrenでは今度はプログレ。上のTV出演でもプログレのグループという紹介テロップが出ています。アルバムB面では20分弱の組曲形式の曲があるなど、確かに当時のプログレスタイルと一致します。

1973年3rdアルバムAtlantis発表。このあたりが代表的なプログレ扱いアルバムなのですが、今回記事で紹介した"Maybe Tomorrow, Maybe Tonight"が収録されているのものこのアルバムなのです。

確かにメロトロンを使っていますし、バンドのサウンドはプログレバンドと言えるものです。でも・・・曲はポップスじゃないですか。このあたりに気付いてから、改めて彼らのアルバムを1枚づつ聴き直しました。そして結論として、彼らは時代ごとに新たなスタイルに挑戦し続け、次々にファッションも曲調も変遷を続けた。しかし優れた楽曲制作という姿勢は一貫しており、特にどの時代の曲もイントロの巧みさは特筆ものである、という結論に達しました。

上記は1975年4thアルバムTo The World Of The Futureからの曲。前作のプログレに、今度はファンキーさが加わりました。髪型も変わっています。

77年5thGate To Infinity。今度はプログレ風ディスコ、みたいな感じになりました。
もちろん髪型も変わっています。

1979年6th Reality Fills Fantasy。この"Weekend"は久々の大ヒット曲となりました。失礼なことに、この曲は"一発屋コンピレーション"、"One-Hit Wonder"なんかに収録されていることがあるくらいです。ポップス曲として大傑作なのは間違いありません。「ワタシ、あなたの週末の恋人にはなりたくないわ」というラブソングなんですけどね。

1981年7th Andromeda Girl。完全に80年代ポップロック。変わらないのはイントロの凝り具合と歌声の素晴らしさ。

1982年8th In A State Of Flux。ロックっぽさはさらに薄れ、ABBAと張り合えるようなポップさがはじけています。

このあとグループは一度解散。ボーカルの女性はソロアルバムもリリースします。

1984年 Made On Earth

1987年 Run

その後1987年からグループ再結成、活動再開となりました。

1989年9th Phoenix発表。これが彼ら最後のアルバムとなりました。
髪型もメイクもファッションも変わって、もうワタシの眼力では同一人物であるとは判断が付きません・・・。ソロアルバムのジャケットと見比べても同じ人に見えません・・・。

まとめ

こうして彼らのキャリアを追いかけてみると、スタイルの変遷が激しすぎるが故に大ブレイクは出来なかったのか、とも思います。ただ個々のアルバムや楽曲を単体で受け止めるなら、それぞれに異なる個性の素晴らしい音楽なのです。

きそう言えば、同じオランダのグループでGolden Earingというバンドがあります。こちらも1961年から2021年まで活動という息の長いグループです。彼らもビートグループからサイケ、プログレ、ハードロックとスタイルを変遷させながら続いてきました。彼らにも2002年に22枚組ボックスというキャリア総括大型リイシューがありました。時代がそうだったのか、オランダのグループ特有なのか、何にせよ日本からでは情報の少ないヨーロッパのバンドの大型リイシューは、ちゃんと聴いてみるには絶好の機会を提供してくれました。

Earth & Fireはそれぞれの時代で魅力のあり方が異なるのですが、1stのかなり蓮っ葉なサイケロックからプログレ風ポップスに変わった頃の曲が特に好きです。もう一つ迷ったのがシングルオンリー曲だった"Memories"(1972)。

まさにプログレか?!、と思わせる、メロトロンを生かした荘厳なイントロ。サウンドもギターソロも重厚ですが、メロディラインは切ないポップス。

Alone again
Fellin' very sad
Left with your memories

キメのフレーズ、特に「very sad」でガァッっと高音に上る歌声にはゾクッときます。素晴らしい。

音楽配信ではEarth & Fireの7割くらいは聴けるようです。聴けないのは主に後期のアルバムです。また買おうと思うと現在結構入手困難なJerney Kaagmanのソロアルバムは2枚とも配信音源に存在しています。

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