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夏の思い出 父のこと

いつの間にか、夏真っ盛り。
夏といえば、プロ野球。
私は、楽天イーグルスが好き。

リアルタイムでみることはあまりできないけれど、仕事帰りの電車の中で、今日の勝敗をチェックする。
勝ち投手の欄に「岸孝之」の名前を見つけると、はっとする。

岸投手は、私にとって特別な選手だ。
父と二人で行った、最初で最後の野球観戦。
その日の先発投手が、岸だった。

父が西武ファンだったこともあり、それまでも休日に家族で西武ドームに行ったことは何度かあったのだけれど、その日はなぜか二人で行くことになり、父も私も、仕事を早々に切り上げ、駅で待ち合わせてドームに向かった。
私は試合前の練習を見るのが好きなので、その日も練習に間に合うように待ち合わせたのだった。
平日の夕方、父は仕事の調整をするのが大変だったと思う。
なにも言わず、いつも私に合わせてくれる人だった。

西武ドームでは、試合前の投球練習を観客席から見ることができる。
私は双眼鏡で岸の姿を捉えながら言った。
「岸って華奢なイメージだったけど、こうして見るとがっしりしてるね」
「やっぱりプロだからな」

どうということのない、そんなやりとりを、なぜかはっきりと覚えている。
その日の対戦相手がどこだったのかとか、どちらが勝ったのかとか、肝心なことは何も覚えていないのに。

後に岸は楽天に移籍したけれど、そのとき父はもうこの世にいなかった。
父が生きていたら、なんて言っただろう。
西武ファンの父がエースの流出を喜ぶはずはないけれど、父自身が東北で長く働き、娘は見事楽天ファンに成長したのだし、宮城出身の岸は地元の誇りなのだから、きっと、楽天に決まって良かったと言ってくれたと思う。
そんな話をしてみたかった。

そして今、岸はもうすっかりベテランの選手だ。
でも、今も変わらず先発投手として活躍し、私にあの夏の日のことを思い出させてくれる。

プロ野球っていいな。
今年こそ、見に行こうかな。

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