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親指姫の記憶

ある日、右手親指の腹をざっくり切った。
しまった、と思ったときには時すでに遅く、玉結びみたいな鮮血がふつふつと現れる。
指のケガは、地味に痛い。
そして、やけに出血する。

しばらく押さえていたら、出血は無事に止まった。
やれやれと思って、つい古新聞など縛ったりして、またぱっくりと傷が開く。
仕方なく絆創膏を巻く。

右手でよかった、私左利きだし、と気軽に思う。
しかし甘かった。
右手を使うことが意外にも多いのだ。
指紋認証、メイク落とし、洗髪、スキンケア。
右手親指をここまで酷使していたとは。
親指ピアノであるカリンバも弾きにくい。
これからは親指を大切にしなければ。

そんなことを考えていたら、子どものころ好きだった親指姫のお話を思い出した。
昔の本屋さんの入口にあった、くるくる回る絵本のボックス(?)にあるのを、何度も立ち読みしたのだった。

くるくる本棚には、ミニサイズで、かっちりとした手応えの絵本がたくさんおさめられていて、特に好きなのが親指姫だった。
赤いドレスのお姫様が、葉っぱに乗っているような絵だった気がする…と思って調べたら、全然違った。記憶って当てにならない。

くるくる本棚を回すたび、かすかにキイキイと鳴る音が、今も耳に残っている。

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