これが空手の基本の生かし方!コイツはめちゃくちゃつかえるぜ!
●はじめに
皆さん、こんにちは。
先日公式ラインで配信させていただいたアンケートに回答していただき、誠にありがとうございます。
皆さまの回答をもとに、今回新しく記事を配信させていただくことが出来ました。
今回のテーマは、『空手における基礎技術と試合技術はどうして乖離してしまうのか』。
空手に触れたことが無い方にも極力わかりやすいように書いていく次第です。また、今回のテーマである基礎技術と試合技術の乖離という問題は、ほとんどの武術、武道において少なからず生じる問題ではありますが、今回は筆者が経験した空手を用いて説明させていただきます。
①空手の基礎を簡単に紹介
最初に、空手に触れたことが無い方のために、空手の基礎技術について簡単にご紹介したいと思います。
主な基本事項:
立ち方:結び立ち、閉足立ち、八字立ち、広い八字立ち、ナイハンチ立ち、四股立ち、セイシャン立ち、前屈立ち、逆突き立ち、高屈立ち、猫足立ち、順突き込み立ち、逆突き込み立ち
突き:その場突き、順突き、逆突き、順突きの突っ込み、逆突きの突っ込み、飛び込み突き、飛び込み流し突き(各動作に前蹴りを加える)
受け:上段受け、上段外受け、上段内受け、下段払い、真半身猫足立ち手刀上段外受け (出典:和道会空手道教範 形の部第一巻)
この中でも、今回重点を当てていくのは前屈立ちになります。
画像をご覧になると分かるように、立ち、突き、受けのすべてに登場する、空手の根幹と言ってもよい技術になります。
②現代空手の試合
現代空手の試合を見てみましょう。
最初に伝統派空手の2019年全日本学生選手権の映像です。
次に、第8回全日本フルコンタクト空手道選手権の映像です。
どちらも大変迫力のある試合をご覧いただけたかと思います。
しかし、ここで気づくことがあります。
「空手の基本って試合であんまり使ってなくない?」と。
特に、前屈立ちを取ることは伝統派、フルコンタクト共にほとんど見受けられません。
どちらも間合いの違いはありますが、ステップを踏みつつ機会をうかがい、速さを生かした技を繰り出していくという点では共通しています。
これが、柔道ならどうでしょうか。
基本の前回り受身、大外刈、大内刈など乱取り稽古で行う基本は、そのまま試合で使うことができます。これらの技が得意な選手も多いでしょう。
剣道でも、基本の打ち込み稽古で行う飛び込み面、出鼻小手、返し胴などの技は、そのまま試合で重要な技として多くの選手の得意技になっています。
主な武道の中で空手だけが、基本の技術と試合の技術が乖離してしまうという問題が起きるのです。
③なぜ現代空手の基本と試合は乖離してしまうのか?
ここで、なぜ今の空手の基本と試合が乖離してしまうのか考えてみましょう。
動画ばかりで恐縮ですが、以下の動画をご覧ください。今から46年前、1970年代の空手道一般国体予選の映像になります。
多少ステップは踏んでいますが、前屈立ちにかなり近い形で足の指を前に向け、前後に広く脚を開くという形をとっています。
現代の空手の試合ではほぼ見られない、上段受けなどの受け技も見られます。
それでは、ここからいよいよ今の空手の基本と試合が乖離してしまう原因について考察したいと思います!
③.1『寸止め』
今の空手の基本と試合が乖離してしまう最大の原因、それはズバリ
『寸止めルール』にあります。
ご存じの方はいらっしゃるかもしれませんが、寸止めとは伝統派空手で採用されている、打撃を相手の直前で止める、あるいは軽く当てるルールになります。
この寸止めルールで試合を行う場合、実際に手足を当てる必要が無く、必然的に重視されるのは技の「威力」ではなく「速度」になります。また、一度寸止めで技を当てた場合、すぐに拳を引いて相手から離れることが重要になります。
このルールの下で戦う場合、前方向に突進するような形の前屈立ちでは、寸止めもしにくいし、横にも素早く動きずらいし、非常に不便だというわけです。
③.2『近間』
ここで、フルコンタクト空手についても考えてみます。
先ほどの動画を見ればわかるように、フルコンタクト空手の試合は、相手に対して正面を向き、近い間合いで主に胴体を殴り合うというスタイルです。
そして前屈立ち。ご覧のように、前屈立ちというのは前後に広く脚を開くため、ある程度の距離がないと難しいのです。加えて、腰から繰り出す突き方では近間で使うにはどうしても遅い上に顔面ががら空きになってしまうので、必然的にボクシングのように肩から打つという形になってしまいます。
④前屈立ちの生かし方
ここまで、前屈立ちに関しては
・横方向に動きにくい
・近間で出しにくい
・寸止めしにくい
など、デメリットばかりが挙げられてきました。
これだけだと、「やっぱり前屈立ちなんて練習しても無駄なんじゃないの?」と思ってしまうでしょう。
しかし、ここで少し視点を変えてみます。
確かに前屈立ちにはデメリットも多いですが、あるとても大きなメリットを得ることが出来ます。それは、
「前後方向に大きくかつ素早く動ける」
ということです。
実際に空手の基本稽古のときも、前屈立ちをとって前に突っ込むような形をとることから、本来空手とは、前後方向に大きく移動しながら戦う武術だったと考えられます。
それでは、前屈立ちのこのメリットを生かして、試合で使う方法を考えてみましょう。
前屈立ちを試合で使う場合、相手と始める距離が近いと非常に使いづらいため、始める際は十分相手と距離をとりましょう。
次に、歩み足(日常の歩き方でやや腰を落とす)、あるいは軽い四股立ちで歩きつつ、前足側の腕を前に出し、やや半身を取り、相手の前拳を抑えるようなイメージで相手との距離を測ります。(歩き方に関しては①の画像を参照)
そして、フェイントなどを用いて間合いとタイミングを計りつつ、ここだ!と思った瞬間、前屈立ちで一気に間合いを詰めて拳または蹴りを何発も打ち込んでいく。こうすれば、前屈立ちの利点である遠間からの勢いある連続攻撃を繰り出すことが出来るのです。
そして、相手がもう反撃できない、あるいは自分がいったん攻撃をやめたいと思った場合は、すぐさま相手から離れる、もしくは相手に密着して攻撃されることを防ぎましょう。
前屈立ちは前方向に早く移動することに特化した足さばきなので、前方の敵に密着しやすい形になります。反対に、横方向からの攻撃に弱く、こちらの攻撃をさばいて横方向に回られると一気に不利になってしまいます。
注意点:
突くタイミング: 突きは前足がまだ宙にある段階で打つことを心がけましょう。こうすることで、前方に踏み込んだ勢いを拳に乗せ、いわば体当たりのような形で攻撃が出来ます。
体の中心から突く: 通常の空手の基本稽古の際は、突きは体の両側面から出しますが、前屈立ちで突きを撃つ場合、肩甲骨を体の中心に入れるようなイメージで、体の中心から突きを撃つことを心がけましょう。こうすれば、拳にかかる衝撃を肩ではなく胴体で受けることが出来るため、より安定感のある突きを撃てます。
⑤空手の起源
最後に、なぜ空手が前屈立ちのような立ち方を取るようになったのか、僕なりに軽く考えてみたいと思います。
空手は現在の沖縄県である琉球王国に、中国南方の武術が伝わり、琉球王国土着の武術と融合して生まれたと考えられています。
中国南方には河川がたくさんあり、必然的に船での移動が多かった地域。そのため船の上という不安定な土台の上で戦うためには、前屈立ちや四股立ちなどのどっしりした立ち方で、体をしっかり安定させる必要がありました。
また、琉球王国で生まれた空手(当時は唐手とも)は、主に士族=武士階級の間で発展しました。
侍にとって、守らなければならないのは自分たちの城。城の中で戦う場合、現代の試合場のような、広く正方形かつ平らな場所で戦うことはまずなかったと言えるでしょう。
現代格闘技で使われるフットワークというものは、あくまで「一定の広さがある平らな場所」で初めて効果を発揮するもの。城の廊下のような横に狭い場所では、フットワークを使ったところで横に展開できず、前方向への推進力も弱いためすぐにやられてしまうでしょう。
しかし、ここで前屈立ちならばどうでしょうか。前方向にのみ移動することに特化した前屈立ちならば、廊下のような長く狭い場所では極めて有利に戦うことができるのではないでしょうか?
加えて、前屈立ちで腰から拳を出すというあの形は、槍や盾などの武器と相性が極めていいと言えます。
このことから、空手とは本来、「屋内で武器を使って戦うために発展した武術」だと考えられます。
●おわりに
今回の記事はあくまでぼく個人の考察です。
しかし、僕自身空手を習い始めた時、今まで習った基本が試合でほぼ使われないことに疑問を抱いていました。
平和な現代、実際に拳を当てるルールや武器を持つことを想定した稽古は、もはや時代遅れなのかもしれません。
しかし、いかに世の中全体が平和になろうと、「予期せぬ出来事」は必ず起きうるものであり、自分は大丈夫、とは全く言えないのです。
自分は空手という「スポーツ」がやりたかったのか?それとも強くなりたかったのか?
スポーツ化した武道に疑問を抱く方は決して少なくはないはずです。
もしかしたらこれを読んでくださっているあなたもそうかもしれません。
是非、あなたが武術・武道を習う機会があったら、「何のためにやっているのか」「この技はどのような意味があるのか」考えながら稽古して欲しい。
そうすれば、あなたはこれからの長い人生、より楽しく武道と付き合っていけるでしょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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