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山田金一物語余話│「金を貸すときはやるつもりで貸せ」


余話は思いつきで書いているので、年代順ではない。



金一は誠意のある人格者だったので、親友が3人できた。

剛が中学生の頃、3人の親友が、金一の家に集まり、魚屋で買った刺し身をつまみに、安酒で、楽しそうに宴会をしていた。

下関は魚市場の街なので、魚屋で調理した刺し身は、ものすごく安い。

酒も、当時は二級酒があったので、一升びんを抱えて、酒屋で量り売りをしていた。
その買い物の役目は、剛である。

そんな楽しい交流が数年過ぎて、事件が起こった。


親友のうちの一人、西田が、下関競艇に狂い、多額の借金を抱えたのである。

親戚はもとより、ご近所にも借金をしまくった。

金一と、残りの親友、田中と愛谷にも、当然、借金の申し出があった。
一人一万円、合計三万円である。
一万円といえば、当時の公務員よりも多い大金である。

金一達は、親友西田の申し出なので、自分達も生活が苦しいにもかかわらず、その申し出を承諾して、金を貸した。

西田には、かえすあてもない。
その金は、一攫千金を夢見て
また競艇につぎ込んでしまった。
西田は破産した。

借金は一応形ばかりの証文を取り付けていたので、返済期限がある。

返済期限を過ぎても、破産した西田は返済に来なかった。

金一、田中、愛谷の三人は
西田を呼び出し詰め寄った。

西田は、
「お願いだから、親友なら、返済の目途が立つまで待っていただけないだろうか?。」
と三人に懇願した。

三人は答えた。
「わしたちも生活が苦しい。親友なら、真っ先に借金を返すべきではないか。」

西田と金一達には「親友なら」という言葉には、根本的な違いがあった。

その言葉に、西田は黙って受け止め、しょんぼりと帰って行った。
西田にしてみれば、頼みの親友に借金の返済の猶予を拒まれたのが、ショックだったのであろう。

その次の日に、西田は三人に借金を返しにきた。

三万もの大金をどうやって工面したのであろうか、三人には知るよしもない。


次の日に、西田は、首吊り自殺をしていた。

その足元には、高利貸しの証文が残されていた。


その事実に、三人は驚愕した。

「こんなことなら、金は西田にやるべきだった。」

後悔先に立たず。

金一、税務課勤務の時代であった。
金一の鬱病の原因の一つでもあった。


その後、金一は剛にこう諭した。

「剛よ、人に金を貸すときは、もう戻ってこないと思い、やるつもりで貸しなさい。」


    

     この余話 終わり



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