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春の夢のような一週間だった。

天候にも恵まれた自転車一人旅は体力的には厳しかったが、何ものにも代えがたい貴重な体験だった。秋田県の大館駅前でハチ公像と一緒に撮影したのが６日前だ。それから１日100 ㎞ ペースで進んで、ゴールの渋谷駅前のハチ公像まであと少しの距離まで迫っていた。

各地で地元の名物を堪能した。とくに仙台の牛タンと宇都宮の餃子は最高に美味かった。福島では同じく自転車旅をしている春人さんに出会った。意気投合して夕飯を食べながら旅について語り合った。

春人さんはユーチューバーで一人旅を配信して稼いでいるらしい。その資金でまた一人旅に出かけて生活できているのだから、なんとも羨ましい。バイトでも稼いでまとまったお金が手に入ったら、ドイツに行ってロマンティック街道を自転車で走破するのが夢だと春人さんはキラキラした目で語っていた。

右手に代々木体育館が見えてきた。予定通り、友人が待っているハチ公像に17時前には到着できそうだ。

向こうからやってきた『ユーザーミーツ』の配達員とすれ違った。そうか！その手があったか。思わず口にした。自転車を漕ぎながらお金が稼げる、なんていいバイトなんだ。家に帰ったら調べてみよう。

渋谷駅前のスクランブル交差点までたどり着くと、道路は左折専用レーンになっていたので、甘栗屋の前で降りて、自転車を押してスクランブル交差点を渡った。

ハチ公前広場は何かのイベントが開催されていて、ものすごい人ごみだった。自転車を押してハチ公像まで近づくのは邪魔になるので、ハチ公像の裏側あたりで道路の柵に寄せて駐輪しようと思った。

「おーい。そこは駐輪禁止だよ」

京王井の頭線の高架下にいたバスの案内係に注意されてしまった。

「友人がハチ公像の近くにいるんです。会ったらすぐに戻りますから」
「いや駄目だよ。ここは駐輪禁止なんだから」

「あれ、ほら、バスを探している人があそこで待ってますよ」
「いま、いきまーす」

バスの案内係は「ここは駐輪禁止だからね」と念を押して高架下に戻っていった。

チャンス！

いまだと思い、自転車をチェーンで柵にロックしてハチ公像に向かった。

（つづく）

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