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風薫る 🚌16:55【シロクマ文芸部】

( 前 話 / 目 次 )


風薫る初夏のような陽気のなか、広和は都内を電動キックボードに乗って走っていた。広和が暮らしている帳面のーと町では桜が満開になるのはゴールデンウイークあたりで、まだまだ寒い。さすが、東京は南にあるだけあって暖かいなあと心地よい風を浴びながら感じていた。

昨夜、帳面のーと町から深夜バスに乗った広和は予定通り翌朝の6時にバスタ新宿に到着した。

まだ、朝が早い時間なので快適クラブで仮眠をとる予定だった。受付を済ませて、何気なく手に取った漫画は学生時代によく読んでいたもので2、3ページ読み始めたら止まらなくなってしまい、気付くと10時前になっていた。

慌てて漫画を本棚に戻して、精算を済ませた。外に出ると昨夜雨が降っていたようで水溜まりがたくさんあったが、いまはとてもよく晴れていて心地よい風が吹いていた。

前から行ってみたかったミステリーサークルでリアル脱出ゲームを散々遊んだ後、電動キックボードに乗って、渋谷に向かった。Bunkaguraで公演される演劇を観劇するのが今回の最大のイベントだ。

電動キックボードは16歳以上であれば運転免許は不要で、スマホのアプリで手続きを済ませれば気軽に利用できる便利な乗り物だ。借りたポートに戻す必要はなく、行った先のポートに返却すればいいのも助かる。ヘルメットの着用は努力義務になっているので努力したことにしよう。

2車線の広い道路を電動キックボードで走行するのは思いのほか怖かったので、なるべく裏道を走るようにした。大学時代に通っていた母校へ行ったり、その頃よく遊んでいた場所を巡ったりした。意外と距離が近くて東京とはかなり密集しているんだなあと思った。

いまは右手に渋谷ヒカリエが見える。このあと観劇するBunkaguraは『109』の裏側、渋谷駅の西口にある。つまり、いまは目的地の反対側の東口にいることになる。

宮益坂下の交差点を左折して、JR線の高架下をくぐるとスクランブル交差点に出た。そのまま真っすぐ進めば『109』なのだが左折専用レーンだったのでスクランブル交差点を左折した。

ハチ公前広場では何かのイベントが開催されているらしく、大勢の人々でにぎわっていた。イベントの様子をチラチラと伺いながら走行していた。

『パンッ』
「うわっ」

風船が割れる音に驚いて、アクセルを勢いよく押し込んでしまった。電動キックボードが急加速した。

『カランッ』
「うわぁぁあー!」

電動キックボードで何かを踏んでしまったらしく、前のめりで放りだされてしまった。体がふわっと浮いている。時間がスローモーションのように流れている。

下を見ると電動キックボードが横たわっていた。その横に水筒が転がっている。そうか。水筒を踏んだのか。誰だ、水筒を落としたヤツは。アスファルトが近づいてくる。落ちたら痛いだろうな…

『ドサッ』

(つづく)



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