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『温泉むすめ』炎上騒動に声優ヲタが思う「この世の9割のエンタメはニッチ市場」

 2021年11月15日。とあるフェミニストが『温泉むすめ』コンテンツを「性差別・性搾取」だと批判した。

 彼女の言い分を要約すると次の2点が挙げられる。

1.老若男女が訪れる温泉地に萌えキャラのパネルを置くのは如何なものか
2.一部の少女キャラにエロ要素やセクハラ、法律違反ともとれるプロフィールを付加するのは女性蔑視

『温泉むすめ』のライブを3回観た声ヲタの私としては誠に遺憾である。本当なら暴言をぶちまけたいところだが、ここは一度冷静になり、この世のエンタメの9割が「ニッチ市場」になりつつある日本の現状と絡めて、なるべく理性的に説明していく所存である。

1.二次元とのコラボは最早当たり前

 彼女の怒りのきっかけとなっている前者、いわゆる「観光地に二次元キャラのパネル」なんて令和3年の今となっては珍しくない。そうやって数多の市町村や観光地が「町おこし」をして新規顧客の獲得に努めているのだ。

 Twitterで『#温泉むすめありがとう』と検索してみて欲しい。幾つもの温泉旅館の公式アカウントが担当キャラクターの写真と共に「温泉」や「温泉むすめ」の魅力を語っている。少なくとも温泉地としてはこのコンテンツはプラスに働いているのだ。日本に実在する温泉地を盛り上げることがコンテンツの目的であり、草津結衣奈役の声優・高田憂希も「温泉むすめのゴールは一人でも多くの人が温泉に訪れてくれること」だと語っていた。

2.キャラ設定を批判する前にライブを観ろ

 で、件の女性が特に問題としている後者だが、実は彼女のみならずヤフコメにも「公式プロフィールのエロや犯罪設定」に否定的な意見が多かったのは極めて疑問である。言うまでも無くこれは「フィクション」なのだ。温泉むすめというSF世界に独自の法律や価値観が設定されているのに、そこに現実世界のそれらを当てはめることほど野暮なものはない。

 いや、というか、プロフィールなんてどうでも良いとさえ私は思う。彼女が例として挙げた数名のキャラは、『けものフレンズ』で一躍有名になった小野早稀や、『ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』にも出ている村上奈津実、他にも日岡なつみ赤尾ひかるなど、界隈では名の知れた若手実力派声優が演じているのだ。私が推している者も何人も居る。

 フェミ女にとってこれらのキャラは性搾取なのかもしれないが、声優たちはそのキャラに愛着を持ち、命を吹き込むつもりで真剣に演じているのだ。

 そもそも『温泉むすめ』はまだテレビアニメ化すらされておらず、キャラよりも声優のほうを応援するファンも多い(2.5次元の世界では普通のこと)。キャラの性搾取の是非は置いておき、声優の観点から見るといかに健全なコンテンツであるかが分かる。

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 一度『温泉むすめ』のライブで真剣に歌って踊る声優たちを見て欲しい。メインユニットの「SPRiNGS」は前述の高田憂希、日岡なつみの他にも、『ナナシス』でおなじみ篠田みなみ、京アニのヒット作『メイドラゴン』の桑原由気、『けもフレ』の本宮佳奈、『わたてん』や『あそびあそばせ』の長江里加、『SHOW BY ROCK!!』の和多田美咲、『ウマ娘』の佐伯伊織、そして『ぐんまちゃん』『アサルトリリィ』の高橋花林という、声ヲタ的にはかなり熱いメンバーで構成されており、そんな9人が一丸となり披露するパフォーマンスがどれほど凄いものかをYouTubeで良いから感じていただきたい。これを見ても「性搾取コンテンツ」だと思うのだろうか。

3.10人中2人の支持で大人気コンテンツ

 ここで、冒頭で唱えた「この世のエンタメの9割がニッチ市場になりつつある日本の現状」について説明したい。

 例として適切なのはかつて週刊少年ジャンプで連載していた漫画『バクマン。』である。編集部の服部哲が今でも印象に残る台詞を残していた。

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10人のうち2人が入れてくれたら人気マンガになっちゃうんだ」

「だから みんなにウケるの狙って10人のうち2人が入れてくれればいいって考え方じゃなく 半分以上には面白くないと思われるけど確実に2人は入れてくれるってやり方」

「本誌で2割取れる作品なら必ずいい結果が出る」 

 この例は漫画に限った話ではない。というか趣味が多様化した今なら2割どころか0.2%くらいの支持、果てしなくニッチな市場でも充分「人気コンテンツ」に認定されると言える。

 例えば巨万の富を築いている「チャンネル登録者数100万人超のYouTuber」は日本に現在400チャンネルほど存在する(ユーチュラより)が、その中で世間に認知されている有名人は何人いるだろうか。

 試しに登録者数TOP100の中から、ネットで適当に見つけた乱数表を基に10組抽出してみる(順位・人数は2021.11.21現在)。

 7位 Fischer's-フィッシャーズ- 695万人
11位 SUSHI RAMEN【Riku】 587万人
13位 木下ゆうか 547万人
35位 圧倒的不審者の極み! 348万人
37位 fumikiri channel 346万人
51位 れーと先生RATE VFX 298万人
59位 Kota Mino Channel / こたみのチャンネル 283万人
64位 HIMAWARIちゃんねる 277万人
83位 おるたなChannel 242万人
91位 カジサック KAJISAC 230万人

 一時期YouTubeを観まくっていた私ですら知っていたのは10組中半分の5組のみ(太字)。しかもカジサック以外はあくまで「存在を知っている」程度で動画はほとんど観ておらず、ましてや世間的な認知度で言ったら有名なのはせいぜいフィッシャーズ、木下ゆうか、カジサックくらいではないだろうか。

 そんな「誰?」って人が圧倒的多数を占める「登録者数100万人以上の400組」は例外なく、多額の収益を得るほどの多くのファンが付いている。

 YouTube以外のあらゆるエンタメもニッチ化しつつある。日本のテレビ番組は世帯視聴率10%でも高視聴率扱いされるし、テレビアニメは円盤を5000枚売れば2期が制作されやすくなる。若手の舞台役者はキャパ100にも満たない箱で演劇をするが、それでも細く長く続けていける。世間の半分以上に支持されなくても、限られた層の誰かにさえ刺されば黒字になるのだ。

4.ニッチ市場への批判は野暮

 話を『温泉むすめ』に戻そう。こちらも一部の人にしか知られていない、なかなかのニッチ市場である。前述の高田、長江、高橋、本宮、篠田、日岡、佐伯、桑原、和多田という人気声優で構成された「SPRiNGS」があまり知られていないのは個人的には不思議なものである。

 件の女性はフェミニストなんて言葉で誤魔化しているが、要はただの「アンチ」である。ニッチなコンテンツをほんの一部のアンチが批判しただけなのに、公式はプロフィールの文言を修正したり、スポンサーが撤退したりと実害も発生している。

 楽しんでいるファンが居て、声優は笑顔になり、スタッフは給料を貰い、数多の温泉旅館にも感謝されている。狭い世界の中だけで盛り上がり、関わる全ての人がプラスになっているのに外野にとやかく言われる筋合いは無い。コンテンツへの批判がギリギリ許されるのは、例えば「1話を観てハマったアニメの最終話の内容にがっかりした」「このドラマ、脚本は面白いけどこの人の演技力が……」など、あくまで「マクロ的に支持するコンテンツをより良くする為のミクロ的な意見」くらいではないだろうか。前提として『温泉むすめ』を好きでもないただのアンチが、フィクションでありファンタジーの世界を勝手に性的に解釈して現実的な批判をする。それをして何の意味があるのか。

 気に入らないと思うなら関わらなければ良い。今回は温泉地のことを事前に良く調べず訪れたことを反省し、今後も出張や旅行をしたいなら二次元パネルの無い温泉地を選ぶだけで不快感は無くなる。こんな簡単なことが何故できないのか。

 そんな貴方も知らないニッチな世界は他にもまだまだ星の数ほどあるし、性差別や性搾取で言えばもっと酷いものも多数ある。そのいずれもが狭い世界の中で小さいながらも需要と供給が発生している。その一つ一つにいちいち揚げ足取りの批判をしていくつもりなのか。

 また、公式は公式で、あまり外野の意見に左右されすぎず、信念を貫き通していただきたい。

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