声優・三森すずこ初の武道館ライブは世界観が独特すぎてもはや“舞台演劇”だった
声優としては特殊な経歴を持っていた。
三森すずこ。かつては帝国劇場やディズニーなどでミュージカル・舞台に出演する役者だった。そんなある日、出演舞台を観劇していたブシロード木谷社長(当時)の目に留まったのをきっかけに、三森はブシロード傘下の声優事務所「響」に移籍、2010年『探偵オペラ ミルキィホームズ』シャーロック・シェリンフォード役で声優デビューを果たす。この時既に24歳で、声優としてはやや遅咲きではあったが、そこからの快進撃が凄まじかったのは同年の『ラブライブ!』園田海未役を始めとする多数の出演作からも明らかである。
そして2016年10月27・28日、デビュー7年目にして初の日本武道館ライブを開催。これまで東京ドームシティホールや舞浜アンフィシアターなど2000~3000人キャパの会場でライブをしてきた三森にとっては史上最大規模となる。ミュージカル経験者の彼女が広大な舞台を余すことなく存分に使うとどんなパフォーマンスになるのかはとても興味深かった。
その日、九段下の大きな玉ねぎで繰り広げられた“三森すずこの世界”とは。その片鱗をここに残す。
1.冒頭からファンタジー全開
暗くてステージの様子が良く見えない中、オープニングは英語を流暢に話す男性ナレーションから始まる。日本語訳のテロップがマルチビジョンに映し出される。一体何が始まるのか。まだ何も分からないのに期待だけがどんどん膨らんでいく私。
ナレーションを経て、大きな“おもちゃ箱”の中からバックバンドとバックダンサー(通称みもりんダンサーズ)が続々登場。彼ら、彼女らは今回“三森の部屋のおもちゃ”に扮しているのである。
「えー、どうなっているのー!? ここは私の部屋だよね? おもちゃ達が動いているー!」
三森が突然帰って来て慌てるおもちゃ達。
「私も参加して良いかな?」
という流れで1曲目『TINY TRAIN TOUR』を披露。“三森とおもちゃ達のパーティー”というファンタジー溢れる設定の下、ライブがスタートする。
(ダイジェスト動画(これの1曲目が『TINY TRAIN TOUR』))
この世界観がディズニーのダンサー経験者ならではである。我々観客も“パーティーの一員として”非日常の世界に誘われた気分にさせてくれる。これが声優のライブなのだから驚きである。
2.MCでもキャラや世界観を徹底
「おもちゃの国の皆さーん、こんばんはー。三森すずこでーす。キラキラした光のおもちゃの皆さん、すごい綺麗ですね。もしかしてみんなは、私が色を替えてって言ったらピュッて替えられるんでしょ?」
MCでも“自分はパーティーの主役””観客はおもちゃ”という設定のままトークする三森。世界観に忠実な言葉選びは秀逸だと思う。
「あれ? 真っ暗になっちゃった」
MCの途中、事態は急変する。
悪魔と名乗る謎の声。三森は部屋を見渡すと、「いつもここに置いてある旗が無い!」。
飛行機に乗って探しに行くということで、次の曲『Traveling Kit』を披露。このようにMCと楽曲がシームレスに繋がることで世界観が途切れることなく維持される。観客も声援とブレードの光で物語に参加しているようなものなので、一瞬たりとも冷めずに世界に没入できるのである。
3.“王子”が“剣”を片手に歌い踊りながら“殺陣”
ライブ後半の『Heart Collection』『Light for Knight』『Xenotopia』のクール系3曲が山場となる。王子の衣装で登場した三森は悪魔と対峙。ダンサーが剣士役と敵役に分かれ戦う中、三森も歌い踊りながら剣を振り殺陣を披露。その末に大事な旗を取り戻すことに成功。もはやライブというよりはミュージカルを見ているかのような圧巻の光景がそこにはあった。
(※動画は『Heart Collection』しかありませんでした。肝心の殺陣はこの後なのです。世界観だけでも感じていただければ……)
終盤は再びドレスに着替え、おもちゃ達とパーティーの再開。『ヒカリノメロディ』『小さな手と観覧車』『グローリー!』『Fantasic Funfair』と盛り上がる4曲を経てエンディングへ。
4.アンコールで初めて素に戻る
パーティーも終わりの時間。おもちゃ達は箱の中へ戻り、三森も中央の扉から はける。
その後、客席からのアンコールを経て三森は再登場し『ミライスタート』を披露。そのあとである。
「皆さんアンコールありがとうございます! 改めまして三森すずこです。(中略)まさか自分が武道館でソロコンサートする日が来るなんて夢にも思わなかったんですけど」
これまでの世界観ではなく初めて“素”に戻り、自分の言葉で話し始めたのである。
音楽のライブだと最初からアンコールを想定したセットリストを組むので「本編」と「アンコール」は事実上繋がっているようなものだが、舞台演劇の場合は「本編」で完結し、その後の「カーテンコール」では役者が再登場し素であいさつをする、いわば完全に分けた“別物”なのである。おそらく三森も舞台演劇のカーテンコールを意識したかのような、本編と切り分けた素の「アンコール」を見せてくれたのである。
ラストは本編の出演者“みもりんダンサーズ”が全員登場し横一列に並ぶ。総勢50人以上は居るだろうか。とんでもない人の多さに驚きを隠せない私。確かに場面場面では数人~十数人しか登場しないので気付きにくいが、それらを全て合わせればそれくらいの人数になるのだろう。
この光景を見て思ったのは「バックダンサーも主役」であるということ。通常のライブにおけるバックダンサーは黒など地味な衣装になることが少なくないが、今回はダンサーも舞台演劇の演者として派手な衣装を身に纏っている。バックダンサーの概念を確実に変えたと言える、貴重な映像資料として永遠に残したいライブだったというのは言い過ぎだろうか。
(※『dアニメストア』加入者ならライブ全編を無料で視聴可能。気になる方は是非)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?