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アンスリウム

こんなに増えるはずはなかった。

そもそも作り物のようにピカピカした、お化けのようなこんな花(葉)、買うものかと思っていた。
何がきっかけか、思い出せない。

推しに大量にお金と時間を注ぎ、気づけばグッズまみれになって、視界に入ってくるコレクションの金額を計算しかけて恐ろしくなり目を背ける。その頃にはもう沼にハマった入口も理由も思い出せななくなっている。それに似ている。

それまでは気にしていなかったのに、気にしだすと急に目に入ってくるようになる。車が欲しいと思い始めたら、いつもは素通りしていた場所にもディーラーがあることに気づき、世の中は車屋だらけだと感じるようになる。それに似ている。



最初に買ったのはアンスリウムアンドレアナム、真っ赤な仏炎苞を持つ最も一般的なタイプだった。それから、ピンクも気になりだし、白だとお仏花になると思い始め、さらにはオシャレなアンティーク色まで売られていることを知り、最終的にはブラックまであるのと、どんどん泥沼にはまっていく。一見同じような色に見えるものでも微妙に葉の大きさや形やツヤめきが異なるからキリがない。他人からは「また同じような洋服買ってる」と言われようと、本人にとっては微妙に、あるいは全く違う服なのだ。


室内栽培の観葉植物で、花が咲いてカラフルなものは多くない。アンスリウムの華やかな色は、インテリアを彩る植物として重宝する。そこに惹かれたからこそ何色も集め、室内で飾って楽しんでいた。真冬のホームセンターの外の売り場で瀕死のアンスリウムを見かけては、そんな栽培方法さえしなければ、観葉植物でカラフルな我が家が何年も続くと思っていた。その日々は数ヶ月で終わりを迎えた。

購入時点でついていた蕾が開いて花が終わると、次の花芽が全くあがってこないのだ。

しかも枯れるわけではなく、むしろ緑はピカピカし、かわいい新葉は次々と展開する。自力で花芽をあげられないことに気づいた筆者は、インターネットや書物にあたりまくり、あらゆる機会に人をつかまえて質問した。用土を変えたり水耕栽培を始めたりあらゆる環境も試した。とある植物園の先生は「その栽培方法なら簡単に咲くはずなんだけど」と匙を投げた。屋外栽培に切り替えた鉢が唯一、一輪だけ花を咲かせたものの、元のアンスリウムとは思えないほど小さな花で長くは持たなかった。もう処分してしまおうと何度も思ったが、販売店や植物園で美しく咲いている姿を見ては、やっぱり捨てられないと思いとどまってきた。


カラフルなインテリアとしての期待を裏切ったアンスリウムは、親株譲りの無鉄砲で、現在は水耕栽培で青々としている。花はまだない。これに懲りた筆者は、そもそも葉っぱを楽しむ原種系アンスリウムに走り始めた。小売価格はアンドレアナムと比べると桁違いである。

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