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35歳のNZ留学【ついに挫けた日】

これは少し前の話になる。
学校で選択授業というのがあって、スポーツ、アートなどのテーマから1つ自分で選ぶことができる。週1回テーマに沿った英語を勉強する。6週間で1サイクル。私は初めての選択授業にアートを選んだ。このクラスは英語のレベル分けがされていない。英語ができる人もできない人もごちゃ混ぜになっている。授業では好きなアーティストや、色や形の種類に関する英語を学んだ。時には絵の具を使い、グラデーションやモノクロ、パステルを作る授業もあった。それから、授業には必ずカンバセーションの時間がある。これがとてつもなく苦痛だ。会話で、話すことも聞き取ることもできない。先生が言ったテーマを理解するのに時間がかかる。ボードに書いてあればまだ良いが、口頭で言われると相手や先生に「今何をすればいいの?」と聞く必要がある。
What should I(we) do?
これだけは口に染みついてしまった。相手が答えたところでそれも聞き取れない。致命的だ。私が理解するのを相手は待っている。相手の時間を奪っている罪悪感と焦りが押し寄せてくる。
内容を把握すると、頭の中ではこれをこう話したいという思いが沸くが全く英語に変換できない。Google翻訳を使う。先生は使うなと言うがこれ以外に手はない。しかしこれには普通の会話の倍以上時間を要するので、そんなことをしているうちにタイムアップとなってしまう。

言いたいことはあるのに何も話せなかった…

毎回やるせない気持ちだけが残る。それと相手への罪悪感。私はいつも謝っている。
ある日の授業の後"色を作った紙"をソファに座って眺めていたら、孤独さが込み上げてきた。しばらく静かに座っていると、アレックスが「元気?」と声をかけてきた。彼は前に同じ寮にいてキッチンで会うとよく一緒にティータイムをした。私がホームステイ先に移ってからは会う機会が減っていた。アレックスに今の気持ちをlonelinessだと話していたら泣けてきた。彼は真剣な顔で、私の話すめちゃくちゃな英語を聞いていた。そしていくつかのアドバイスとハグをくれた。それでも孤独感は続いていた。
また後日。学校の帰り道、外は真っ暗で土砂降り。イヤホンで音楽を聴いてやり過ごすけれどバスを降りて歩き出すと、孤独、夜の闇、土砂降りの三拍子が揃った。

私の心はついに挫けた。

雨の中泣きながら家に向かって歩き、心の中で誰にかわからない助けを求めた。「助けて」と言った。その時、イヤホンから静かに曲が流れ出した。
〜♩

You don't have to worry,worry
守ってあげたい
あなたを苦しめる全てのことから

松任谷由実の"守ってあげたい"である。
選んで聴いていたわけではないのだが、静かにこの曲が流れ出した。心がぶわあっと不思議な温かさで満ちた。やさしくあたたかい何かに見守られる気配を感じずにはいられなかった。泣きながらもっと泣いたけれど、雨粒が顔にあたりそれは涙かどうか分からなくなった。家の灯りが見える頃には穏やかな気持ちが戻っていた。


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