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ワタシと小さなあの子の物語③真珠のネックレス買ってくれなきゃ保育園行かない

一度だけそう言って泣いて暴れて母を困らせたことがある。

保育園というかそこは教団が借りていた一軒屋で信者のお姉さんがひとりで5、6人の子どもを預かっていたと思う。

かわいい芝生の庭がついているわりときれいな家だったのでそんなに行くのを嫌がったことはないのだけど、その日はなぜかどうしても行きたくなかった。

真珠のネックレスがほしかったわけじゃない。4歳の女の子が考えた一番高価なものが真珠のネックレスで、うちはお金がないから絶対に買えないと思っての言葉だった。

それなのに
じゃあ真珠のネックレス買ってくる、約束する。と言って母は神様のお仕事に行ってしまった。

子どもを預ける理由に世界平和とか天国を作るためとかダメだろう。

せめて生活のためというなら納得できるところもあるのに、水戸黄門の印籠みたいな理由を持ちだすのはずるいと思う。

まあそれはさておき

ワタシはその日気が気でなかったのです。
あんなこと言ってしまって、母に高い物を買わせてしまったのではないかと。我が家が破産したらどうしようと。

いやいや買ってくるはずがない。うちにはお金がないんだから。
そんなことをぐるぐる考えて罪悪感にさいなまれていた娘に
迎えにきたおかんは満面の笑みで

ほら、真珠のネックレスよ

とビロードの箱を開けた。

ほらちゃんと約束を守ったでしょうという感じにワタシはなにも言えず無言でその箱を受けとった。

ネックレスをつけてさえみなかった。ほしかったわけじゃないんだもの。

その日からワタシは保育園に行くのをぐずったことはない。
なにを言ってもママは神様のお仕事に行ってしまうのだとあきらめたから。
神様のお仕事に行くためなら、真珠のネックレスだって買ってくるのだから。我が家が破産してしまう。

あとになって考えてみれば、あれは母がたまたま持っていたものを買ってきたふりをしたのだろう。

そのころには母と一緒にいることをすっかりあきらめていたけれど、一度だけ台風がきて
兄の高校とワタシの中学、そして弟の小学校がみんな休みになったことがある。

さすがに今日は行かないだろうと思っていたワタシに母は

こんなのワタシの地元と比べれば対したことない(母の出身は高知県です)

と出掛けていった。

ひとっこひとり見当たらない暴風の中歩いていく母を見送りながら

ああ天災すら母を止められない、とあきれたのを思い出す。

お子さんが保育園や小学校へ行かないとぐずって困っているみなさん

安心してください。

それはお子さんがあなたのことを信頼しているから。

信頼しているから行きたくないって言える。

これが言っても怒られるか、もっともらしい理由(学校は行くもんだ)で丸め込まれるとわかっていたら最初から言わないですもん。

あなたがお子さんとしっかりコミュニケーションをとってきた証拠だ。

ワタシもべちくんが朝

学校行きたくない、つかれた

と言い出すたびに

うげえ、きた!と思う。

行きたくないと言うのを聞くのは辛いし、だまって行ってくれたらどんなに楽だろう。

それでも
どうせ言っても無駄だとあきらめて、ずっと我慢した子は大人になって親子関係をこじらせる。

もう

学校行きたくない、に対応するより100倍大変だ。

ワタシだって母も本当は辛かったのかもしれないと思えるのに
長く長くかかってしまった。

子育ては手間がかかったぶんだけ後が楽な気がする。













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