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ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論) - Polyvagal Theory -



概要

1994年にスティーブン・ポージェスによって提唱

進化論的、神経科学的、心理学的仮説の集合体であり、感情調節、社会的繋がり、恐怖への反応における迷走神経の役割に関するもの
ポリヴェーガル理論 (poly 多重) + (vagal 迷走神経の) は、副交感神経系の主要な構成要素である脳神経の迷走神経に由来

迷走神経

○副交感神経系(迷走神経)は「腹側迷走神経系」と「背側迷走神経系」という、2つの異なる枝に分かれている

・腹側迷走神経系

(社会的関与をサポートする)
⇨脳幹において背側運動核よりも腹側に位置する擬核から始まり、心臓、肺、耳、喉頭、顔面(横隔膜の上)へ分布する哺乳類のみが持つ系統発生的に新しい迷走神経
⇨運動神経(遠心性)線維と感覚神経(求心性)線維からなる
⇨ミエリン鞘を持つため、背側迷走神経、交感神経に比べて伝達速度が速い

・背側迷走神経系

(「休息と消化」そして「防御的不動化」または「シャットダウン」の両方の不動化行動をサポート)
⇨脳幹の背側運動核から始まり、主に横隔膜より下の臓器の機能を調節するとともに、そこからの感覚情報を脳幹に伝える(心臓や肺にも分布はしている)
⇨ミエリン鞘を持たない無髄神経(自律神経の中では系統発生的には最も古い起源をもつ)

擬核

・延髄の深部で、オリーブの背側にある
・舌咽神経と迷走神経、副神経延髄根の起始核
・迷走神経背側核が平滑筋を支配するのに対して、擬核は骨格筋を支配

延髄

ニューロセプション

神経系による無意識下での危険評価システム
⇨ニューロセプションは扁桃体中心核および中脳水道周囲灰白質と連絡する側頭皮質の領域を含む特徴検出器によってトリガーされる可能性

・自律神経が「社会化」「可動化」「不動化」と切り替わるのは、ニューロセプションでの受容により、環境が「安全か」、「危険か」、「生命の危機であるか」と判断することによる
・神経系は意識の及ばないところで危険が迫った時の環境のリスクを評価する
・ニューロセプションは防衛機構が判断するための受容反応ではあるが、知覚ではなく、無意識的な瞬時の状況判断であり、反射である
※ストレスとなる出来事の特徴は重要でなく、身体的な反応を重視する

・ニューロセプションの結果「安全」と判断:髄鞘化された迷走神経による「社会交流システム」が作用し、防衛反応が抑制される
・ニューロセプションの結果「危険」と判断:髄鞘化された迷走神経による交感神経への抑制効果はなくなり、交感神経による防衛反応が惹起される
⇨「生命の危機」と判断:髄鞘化されていない一番古い迷走神経によって、失神、失禁、解離などシャットダウン状態が惹起される

○不動化

ニューロセプションが「生命の危機である」と判断した時の防衛反応
⇨背側迷走神経複合体は無脊椎動物起源(爬虫類起源)の古い神経系であり、動物は生命の危機に直面するとき、生命活動をシャットダウンする
⇨意識が肉体から遊離していることによって、肉体を噛みちぎられても、肉体の痛みを経験することがない(フリージング)
⇨アイコンタクトは行われない(瞳孔縮小)

○可動化

ニューロセプションが「危険」と判断した時の防衛反応
⇨交感神経が関与
⇨社会的関わりシステムが機能低下に陥ると,社会的関わりシステムの「ブレーキ」が作用しないので,交感神経や背側迷走神経は高度に活性化したまま、ストレスに反応して過緊張・過覚醒状態を引きおこしやすい
⇨交感神経系は、生体機能を可動化する過覚醒状態で、興奮・緊張させる働きがあり、「火事場の馬鹿力」や「窮鼠猫を噛む」などのように能動的な防衛反応を起こす
⇨アイコンタクトは敵対の合図である(瞳孔散大)

○社会化

(社会交流システム):ニューロセプションが「安全」と判断した時の防衛反応
⇨腹側迷走神経複合体-有髄の横隔膜上迷走神経が関与
⇨哺乳類にのみに存在し、霊長類でもっとも発達していて、複雑な社会的、絆行動を支配
(高等な迷走神経を調整する副交感神経系の分岐であり、神経解剖学的には表情、発声、首の回転、中耳の筋および咀嚼筋を支配する脳神経に接続し、社会交流システムを構築)
⇨アイコンタクトは友好の合図である(瞳孔縮小)

トラウマセラピー

・ニューロセプションを通じて「安全である」と感じ、安心できる落ちついた生理学的状態に入ることができるように環境を整えることが重要
・生命の危機を感じるようなトラウマ体験においては、不動化のシャットダウンを経験しているためニューロセプションが安全に感知することが難しく、社会的交流に必要な生理学的状態を前提とする一般的なカウンセリングなどは効果が限定され時間がかかってしまう

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