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4号警備 第6班

〇〇「…梅澤さん、なんか嫌な感じです…」
梅澤「…可能な限り具体的に話せる?」

無線に手をかけながら、運転席の梅澤さんが問う。

〇〇「…すいません。このまま行くと何かあるって感じがするだけで」
梅澤「…引き返すべき?」
〇〇「……」

ちらりと後部座席の警護対象者の様子をバックミラー越しに確認する。イライラとした様子で進行方向を睨みつけている。

〇〇「…聞き入れてもらえるとは思えません」
梅澤「…わかってても飛び込むしかないか」

無線機のスイッチを入れて、梅澤さんが静かに指示を出す。

梅澤「こちら1号車。発進する。〇〇のセンサーに反応がある。警戒して」
久保『2号車了解』

無線から2号車の運転席に座る久保さんの返事が返ってくる。

梅澤「…なにか感じたらすぐ知らせて」
〇〇「了解」
梅澤「6班、移動を開始します」 
橋本『了解。状況はなるだけ細かく知らせて』
梅澤「わかりました」

〜〜〜〜〜〜

橋本「…いいの?成績だけ見るならかなりの逸材だと思うけど」

手渡された資料には、座学も実技も優秀な結果が書き記されている。

白石「よく見てよ。集団警護、協調性、信頼関係構築」
橋本「…軒並み論外ね」
白石「今現在の警察組織ではこの子は持て余すわ」
橋本「それでも目をかけるだけのものがあるって?」
白石「彼女の特性を活かして、指揮を取れる人間の下ならね」
橋本「…それで私を呼んだわけか」
白石「そういうこと」

湯気の立ち上るマグを傾けながら、元同僚は同意する。

警視庁警備部警護課。

8年ほど前まで所属していた古巣。当時幾度も現場で肩を並べた同僚は、現在新米SP達を鍛える教官になっていた。

橋本「特性って、具体的には?」
白石「…一言で言うなら、異常に感が鋭い」
橋本「……」
白石「期待通りの反応ありがとう」

そりゃあ、そう言われればそんな反応にもなる。

橋本「冗談で言ってる?」 
白石「残念ながら大真面目」
橋本「なら質問に答えて。具体的に」

白石「…マルタイを警護しつつ移動中。嫌な予感がするから、予定のルートから変更を提案します。10人中、何人が納得して提案に乗る?」
橋本「0人」
白石「でしょうね」
橋本「……で?」
白石「協調性皆無。あやふやな提案でチームを混乱させる。迅速な任務活動の阻害」
橋本「……」
白石「それが個人的実技や訓練なら優秀な成績を修めてる」
橋本「…感に従って動ける個人でなら、その特性を発揮できるって?」

おおよそ悪ふざけとしか思えない内容を、元同僚は真剣な表情で肯定する。

橋本「…ツーマンセルでの成績はいいみたいだけど?」
白石「もう一つ資料があるでしょ?」

封筒から取り出した資料にはもう一人、別の人物の成績が記されている。

橋本「五百城…かわった苗字ね」
白石「五百城は彼女の能力を全面的に信頼してるみたいでね。他のメンバーとの組み合わせでもいい成績を残してるけど、彼女と組んでる時は特に優秀」
橋本「この子は取っておいて損はないんじゃないの?」
白石「ええ。けど私は、その子が一番輝ける場所にあるべきだと思う。もちろん、最終的な選択は彼女達自信がするべきだと思うけどね」
橋本「…そう」

私は手元の杖を手に取り、立ち上がる。

白石「…何度見ても慣れないね」
橋本「…もう8年も経ってるんだから、いい加減慣れてよ」

警護中に負った傷が原因で、私の右足は自分の体重をまともに支えることが出来ない。その結果、私は警護課をやめ民間警備会社を立ち上げた。まだまだ人員も少ない小規模な4号警備会社だが、誇りを持って励んでいる。

橋本「私はもう誰かを直接守れはしないけど、私達で守れるものはあるから」
白石「そうだね…」
橋本「話してみるよ。直接」
白石「うん…、よろしくね」

〜〜〜〜〜〜

久保『後方から追跡車両!』

走り出してすぐ、路地から車が飛び出してくる。

梅澤「後ろ!?」
〇〇「梅澤さん前!」

こちらの道を防ぐように前方の路地からも車が飛び出す。

梅澤「緊急停車!」

ハンドルを切り、フルブレーキ。
車は横滑りしつつも停車、
停車指示を受けた2号車もそれに続くが、

久保『対ショック!』

後方からの追跡車両は容赦なく激突。玉突き事故のように1号車にも2号車がぶつかり、衝撃が走る。

橋本『全員無事!?』
梅澤「1号車、無事です!」
久保『2号車も大丈夫です!』

後部座席の警護対象者も衝撃に驚きはしたものの、怪我はなさそう。ただ、現在の1号車の前方ドアはどちらも前方不審車と2号車に阻まれ開けそうにない。

〇〇「フロント破ります!」

梅澤さんが目元を袖で覆うのを確認して、警戒棒の柄でフロントガラスを叩き割る。

〇〇「先行します!」

上半身を出した所で、突き刺すような気配を感じてすぐ車内に身体を戻す。瞬間、ついさっきまで自分の頭があった場所に金属バットが叩きつけられた。角度から、いつまにか車の上にいることが分かる。バットを引かれる前に車外に見を乗りだし、襲撃者の膝に思い切り警戒棒を叩き込む。相手が膝をついたのが見えたので、一気に車外へ身体を出して、ボンネット転がり落ちるように地面へ。
立ち上がると同時にルーフの上を薙ぐように警戒棒を振るう。相手もこちら同様、転がり落ちるように車の背後へ着地。

〇〇「ゼロサン、前方不審車両の人員に応戦中。相手は金属バットで武装。車両内に運転者等別人員の可能性あり」
五百城『こちらゼロヨン、同様に後方車両の人員に応戦中!鉄パイプで武装してます!』
久保『ゼロニです、確認終了、後方車両の人員は鉄パイプ1人!』
梅澤「ゼロイチ、後部座席に移動、マルタイと共に車内に待機中!」

錯綜する無線通信を拾いながら、チラリと前方の不審車両を確認する。やはり運転席に1人いる。車を運転していたのがアイツで、金属バットはすでに近隣で下車して機を伺っていた可能性がある。通達のため、無線に発言しようとした瞬間気づく。
いけない。

〇〇「マルタイと共に対ショック!」
梅澤「伏せてください!!」

次の瞬間、1号車のドアガラスをソレがすごい勢いで貫通していった。派手にガラスが割れる音が夜の闇に吸い込まれていく。

橋本『何が起きてる!? 発砲された?』
〇〇「クロスボウです!」

チラリと見えたそれだけでは、細かい判断は出来ないけど、物によっては車のドアくらいは貫通できる。

〇〇「っ!」

気配を感じてすぐにその場から後退。耳障りな音を放って、地面を金属バットが叩く。

橋本『ゼロニ、ゼロヨンとスイッチ。ゼロヨンはゼロサンとスイッチ。ゼロサンはクロスボウを無力化して。ゼロイチはマルタイと車外へ待避。可能な限り車全体を盾にして』

梅澤『ゼロイチ了解』
久保『ゼロニ了解』
〇〇『ゼロサン了解』
五百城『ゼロヨン了解』

金属バットに背を向け、クロスボウに向かって走り出す。

〇〇「おい!」

声と動きに反応して、クロスボウの照準が車からこちらに動く。じわりと、右肩あたりに刺し込むような気配。
迷わず左へ横っ飛び。
空気を切る音と地面に何かが激突する音。
確認もせずぐるぐると地面を転がると、すぐ近くにバットが叩きつけられる。その音を聞いてから、飛び跳ねるように起き上がると、視界の端で梅澤さんとマルタイが降車。1号車を盾にするように移動。私は迷わず金属バットとの間合いを詰めると、相手はバットを短く持ち替えようと握りを緩めた。
その瞬間、私は彼女にアイコンタクトを送る。それを受けて、相手のすぐ後ろまで来ていた茉央は手元に容赦なく警戒棒を打ち込んだ。グリップの甘くなったバットは地面を転がり私の足元へ。それを拾って、力いっぱいクロスボウへと投げつける。いくら肝が座っていたって、フロントガラスが間にあったって、顔めがけて飛んでくるバットにノーリアクションでいられるようなやつはいない。身を守る様に動いた身体は、当然クロスボウを構えてはいない。

久保『ゼロニ、鉄パイプを無力化』

無線から入る情報に少しだけ意識をむけながら一気に距離を詰めて、運転席の窓からはみ出たクロスボウの腕を取り、車体に叩きつける。手からこぼれたそれを蹴り飛ばして、相手の身体を車外へ引きずりだす。すぐに手持ちの拘束具で腕を抑え無力化。悟ったようにクロスボウは大人しくなった。

〇〇「ゼロサン、クロスボウ無力化」

クロスボウを立ち上がらせて、1号車の下へ戻る。車両すぐ近くで、金属バットは茉央の裸絞を受けてバタバタともがいていたが、すぐにぐったりと動かなくなった。

五百城「ゼロヨン、金属バット無力化」

拘束しながら無線へ報告すると、すぐに久保さんが意識を失っている男、おそらく鉄パイプをズルズルと引きずってきた。マルタイを連れて梅澤さんも合流する。

梅澤「制圧完了しました」
橋本『被害報告』
梅澤「人員に被害なし、車両は1号車2号車、どちらも動かせません」
橋本『…応援車両を手配する。第2波の可能性があるから、すぐに移動。合流地点は追って通達する』
梅澤「襲撃者はどうしますか」
橋本『警察に引き渡す。拘束だけして転がしておいて』
梅澤「了解」

それぞれの拘束具を拘束具で連結。
それをさらに手近な電柱へ繋留。

久保「あっという間に手持ちの拘束具が無くなった」
梅澤「車両のトランクに予備が積んであるから、身に付けれる分だけ持っていこう」
〇〇「取ってきますよ」

1号車のトランクに積んである鞄から、拘束具を取り出し、ジャケット裏のスペースにしまい、入らない分は左腕に巻いておく。残りを雑に掴むと、みんなの下へ戻る。

〇〇「これ、久保さんの分です」
久保「ありがとう」
〇〇「茉央も」
五百城「うん」
梅澤「移動を開始します」
✕✕「…あ、あぁ」

先程まで遅々とした進みに苛立っていた警護対象者も、すっかり顔面蒼白と言った様子。

橋本『ゼロサン、ゼロヨンが先行。ゼロイチとゼロニでマルタイ周辺を警戒』
梅澤「ゼロイチ了解」
久保「ゼロニ了解」
〇〇「ゼロサン了解」
五百城「ゼロヨン了解」

橋本『このまま直進して大通りへ。そこから南下して。5班が車両を持っていく』
梅澤「了解。6班、移動を開始します」

この時は考えもしなかった。
これは始まりに過ぎないってこと。
長い夜の始まりに過ぎないってこと。

4号警備 第6班。



〇〇
元警察官。
特殊な感知能力持ちで、集団行動に難があるため、教官の白石の勧めで橋本の運営する警備会社に転職する。幼少期にテロに巻き込まれて母を亡くして以来、父と祖父母に育てられた。SPを目指したのはそれがきっかけ。
第6班所属、コールサインはゼロサン。

五百城茉央
元警察官。〇〇の同期。
人が嘘をついているかどうかを察する共感覚持ち。特殊なスキルと言うほど鋭いものではないため、日常生活に支障はないが信頼関係の構築に難がある〇〇を放っておけず、共に転職する。SPを目指したのは対象者との信頼関係こそがSP最大の武器と言う白石の教えに感銘を受けたから。
第6班所属、コールサインはゼロヨン。

梅澤美波
元自衛官。
運転能力に長け、判断も早いため〇〇の感知能力からくる指示や声がけにいち早く反応する。橋本がSPを退職するきっかけとなった事件にたまたま居合わせ、その後彼女の動向を知り、自ら就職を希望して自衛官を退職した。 
第6班班長、コールサインはゼロイチ

久保史緒里
元自衛官。医官。
人体構造の把握に優れ、柔術や合気などの人体の急所を熟知して無力化するのが得意。また班で怪我を負ったものの応急処置なども担当。2号車編成の場合は運転も担当する。橋本を追いかけて退職した梅澤を心配していたが、組織のしがらみに悩んだ末に退職する。梅澤経由で橋本からスカウトを受け就職。
第6班副班長、コールサインはゼロニ。

橋本奈々未
元SP。
8年前にとある警護任務中に負傷。右足に後遺症が残り、SPを退職。任務中は指示室(第1班)で各メンバーへの指示出しや情報統合を行う。手の届くところで助けを求める人がいるなら、迷わず手を差し伸べたい。そのために民間警備会社を立ち上げた。
第1班班長、コールサインはゼロゼロ。

白石麻衣
元SP。
8年前の橋本が負傷した件以来、ただ眼の前の人を救うだけでは限界があると感じて、教官の道を進む。現在では後進の育成に加え、橋本への人員斡旋なども密かに行い、世の中全体に広く理想のSPを広げるべく尽力している。〇〇と五百城の教導も担当していた。




なんか急に書きたくなった警護もの。
4号警備は人の身辺警護です。
 いわゆる「ボディーガード」業務。
4のあとに続く数字は6ですよね。
アクションはガガガッと書いてるときは楽しいけど、伝わってるか不安になる難しさがありますね。

本人ゆかりの能力とかならまだしも、全く関係ないスキルを付与するのってムズムズするな〜。
難しいものです。

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