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レンタルビデオ店 第2話

美桜との出会い
僕は2台あるレジカウンターの間に設置されているテレビ画面を見ていた。もう1台のレジカウンターは実質、店長デスクになっている。
「店長、この映画のどこが面白いんですか?」
僕は店長に尋ねた。
「面白いから流してるんだよ」
店長の石橋幸一が読んでいる本から目を離さず答えた。全く答えになっていない。店長は35歳、独身でアニメオタクの口髭が自慢な中肉中背男。
40インチの薄型テレビの下部に、太文字で『店長一押し映画』と書かれた黄色いテプラが貼られている。
今流している映画は、16人のとち狂った男たち。
密室で陪審員の男たちが有罪だ、無罪だと永遠に議論している。しかも白黒映画で、出演している男優たちの名前を僕は1人も知らない。

「すみません」
ハッとして僕は振り返った。レジカウンターに女性が立っていた。
「い、いらっしゃいませ」
「すみません。入会したいのですが」
彼女の目が、先ほどから待っていたんですと思わせるような目に見えた。彼女の黒髪は肩まで伸びていて、整った顔をしている。
「入会金300円と身分証が必要になります」
彼女はリュックサックを肩から外しながら「はい」と答えた。部活帰りなのか彼女は上下白色のジャージを着ている。

僕は2段目の棚から入会用紙を取り出すと、3枚ちぎった。
「ではこちらにご記入下さい」
僕は入会用紙とボールペンを彼女の前に差し出した。
彼女の字は女の子特有の可愛い丸字ではなく、習字を習っていたのが容易に想像できる力強い字だった。
「身分証をお持ちでしょうか?」
彼女から渡された身分証を、僕は入会用紙と照会した。及川美桜21歳。僕の1つ下だ。僕は身分証のコピーを取ると美桜に返却した。美桜はニコッと笑い、黒ピンクの財布にしまった。
「入会金は300円になりますが、この後レンタルされる商品がございましたら、その際にお支払い頂いても構いませんが」
頷いた美桜の視線は僕からテレビ画面に向かい「何の映画ですか?」と質問してきた。
「16人のとち狂った男たちです。簡単に言うと陪審員の話です」
「とち狂った?………題名はともかく、面白いですか?」と美桜が言った。
「そうですねェ。それなりに…」
僕は返答に困った。これだから『店長一押し映画』は面白くないのだ。ずっと議論をしていたり、バンバン銃をぶっ放していたり、哲学的な字幕が15分以上も続くのを我慢して見なければならない作品だったり。
恋愛映画やアニメ、それこそ新作映画のサンプルでも流しておけば売り上げに繋がるのに。
そうだ、こうゆう作品は臼井に見せればいい。臼井は55歳になった今でも少なからず要更生が必要な元輩なのだから。

「TAKAYUKIさんのお勧め映画はありますか?」
そう言われた僕は、ネームプレートが曲がってないか左胸を確認してから答えた。
「僕ですかあ? 色々ありますョ」
「教えてください!」
美桜の目が力強く透き通って見えた。ドすっぴんなのに可愛い。
「あの…好きなジャンルはありますか?」
「ホラー以外なら何でも!」

結果、僕は以下の3作品をおすすめした。
・太陽と夕日のブラウス
・無邪気な少女ジョリー
・真実の烏賊
全て洋画だったけど、美桜は3枚ともレンタルした。
「100円のお返しになります」
僕は美桜の手のひらに100円を置いた。
「TAKAYUKIさん、映画お好きなんですね」
「まあ映画館に行ってまでは観ないけど、バイトしてるとタダで借りられるのもあって、それで好きになりました」
「そうなんですね。そのエクボ、可愛いです」
美桜はリユックサックを右肩にかけると、キュッキュッとスニーカーの音を立てながら店内を後にした。
そして僕は店長に聞いてみた。
「店長、僕にエクボってあります?」
読んでいた本から顔を上げた店長は、目を丸くしてこちらを見てきた。
「TAKAYUKI君、君の事を想うと、僕は不安で眠れなくなるよ」
店長が深刻な声で言った。
「はあ? 店長、それはこっちのセリフです」
僕は負けじと言い返した。
「フッ…君も大人になれば分かるさ」
店長が勝ち誇った表情を浮かべた。自慢の口髭を触りながらニヤついている。気色が悪い。
「店長、ちなみに今なんの仕事をしていたのですか?」
僕は店長の虚を衝いた。
「べ、別に」
店長が慌てて本を閉じた。
僕は店長デスクに近寄った。
「それ、エロ漫画じゃないですか」
「やめろよォ」
店長の顔が真っ赤になった。
仕事中に自分の趣味のエロ漫画を読んでいたアニメオタクの口髭店長。
「昼飯行ってきます」
「昼休みは45分だからね」
「分かってますよ!」
僕はラーメン&半チャーハンと餃子を食べに中華料理屋へ向かった。 が、定休日だった。仕方がないので僕はアパートに帰宅すると、青唐辛子チャーハンを作った。とても辛かった。


【つづく】

これはフィクションですからね。悪しからず。
素敵な及川美桜さんと、スケベでやる気のない口髭店長。
懐かしくて面白い時代だったと思います。

第3話もお楽しみに☆彡
https://note.com/kind_willet742/n/n279caad02bb7?sub_rt=share_pw

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