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忘れられない10秒間

おはようございます。
kindle作家のTAKAYUKIでございます☆彡
本日はとらねこさん企画、文豪へのいざない第8弾、《忘れられない10秒間》を全知全能をかけて執筆し、3本ご用意致しました。
どうぞ最後までお付き合い下さいませ。


1本目:お父さんの鈍い音

子供の頃、お父さんと湯船に浸かっていた。
「ちゃんと肩まで浸かったから、もう出ていい?」
僕は熱いのが苦手だ。だから僕はお父さんに言ったのだ。
それに子供の頃、湯船に浸かる意味が本当に分からなかったよね?
すると、お父さんが言った。
「TAKAYUKI、あと10秒数えたら出ていいぞ」
「いち、にー、さあーん…」
僕は早速数えだした。
とにかく熱いから、早く出たい。のぼせちゃうよ!
「TAKAYUKI、早いぞ。ちゃんと数えるんだ」
しょうがないから僕は、指を使いながら数える事にした。
「きゅう………じゅう!」
「えらいぞ!」
お父さんが拍手をした。そしてこう言った。
「TAKAYUKI、ご褒美だ」
鈍い音がしてから、湯船の水面が盛り上がった。それも2回続けて。
そう、お父さんが湯船の中でおならをしたのだ。
それ以来、僕はお父さんと一緒にお風呂に入らなくなった。
当然だよネ!



2本目:お母さんとお墓参り

お母さんとお墓参りに行った。
「おじいちゃんとおばあちゃんに手を合わせなさい」
お母さんから火のついたお線香を渡された僕は、お線香を所定の位置に置いた。
そして両手を合わせた。
「ほら、目をつぶって。10秒間だよ」
お母さんに言われるまま、僕は目を閉じた。
「おじいちゃん、おばあちゃん、TAKAYUKIです」
僕は心の中で続ける。
「おじいちゃんには一度も会ってないので、分かりません。お元気ですか?」
僕は心の中で笑いそうになる。だって会った事がないんだもん。しょうがないよね?
「おばあちゃん、久しぶりです。おばあちゃんの家は僕が守っているから安心してね。もうすぐ秘密基地が完成するから、完成したら見にきてね。絶対だよ」
10秒が経過した。
僕が目を開けると、お母さんが洟をすする音が聞こえた。
曇っていた空から、光が差し込んできた。



3本目:1番目のキッカー(PK戦)

僕はペナルティマークの上にボールを置くと、アディダスのマークを触った。
ゆっくりと左後方へ後ずさりしていく。ボールから45度の角度を保って。
8歩下がったところで僕は止まった。両手に腰を当てた僕は、手汗をユニフォームで拭いた。

ゴールキーパーが両手を左右に広げてこちらを見ている。ゴールキーパーと目が合うとシュートコースが読まれる気がするので、僕は目線だけは合わさないようにしている。

ゴールまでの距離はおよそ11m。ゴールの高さは2.44m 。横幅が7.32m。高校1年生の僕たちには広すぎるゴール。何度もPKの練習をしてきたので、この数値は僕の頭に、身体に沁みついている。

どう考えてもキッカーの方が有利だけど、精神的にはゴールキーパーの方が有利だ。決められて当然の中、セービングをしたらゴールキーパーはヒーローとなり、キッカーは戦犯になってしまう。
だからキッカーには、重圧がのしかかってくるのだ。しかも僕のチームは先行で、僕は1番手のキッカーだ。責任重大。

グラウンド内は、しーんと静まり返っている。
自分の心臓の音が聞こえる。確かに聞こえる。
ドキドキする。
早く蹴って楽になりたい。

主審の甲高いホイッスルが鳴り響いた。
僕の心臓が跳ねた。
僕は両手を腰に当てたまま、大きく深呼吸をした。僕の吐息が真っ白だったことに気づく。
ダメだ。集中しろ。
僕は風が止まっているのを確認。
そして、ゆっくりと助走を開始した。

僕はゴールキーパーを見た。ゴールキーパーが一瞬笑ったような気がした。
45度の角度を保ったまま、僕はシュートの体勢に入った。
その時、ゴールキーパーが僕から見て左側に動くのが視界に入った。ゴールキーパーは蹴る前に、前後ろに動くのはルール違反だけど、左右に動くのはルール上認められている。

そう僕は右利き。しかも45度でシュート体勢に入ったという事は、ゴールキーパーの読み通り、僕はゴールキーパーが動いた左側に思いっきり蹴ろうと決めていたのだ。豪快に決めれば後の選手たちにも良い影響を与える事ができるから。

だけど、ゴールキーパーが左側に動くのが早すぎた。

僕はボールを蹴る瞬間に、右足の力を抜いて、インステップキックからインサイドキックに変更した。けっこう高度な技術だけど、僕はすでにこの技術を習得していたのだ。
僕はボールをインサイドキックした。チームメイトにパスを出すような感じで優しく蹴った。
ボールは転がってゴール右隅のネットを揺らした。
センターサークルから、ベンチから大歓声が聞こえてきた。
悔しがって地面を叩いているゴールキーパー。
安堵した僕は、みんなが待つセンターサークルに戻って行った。

とても緊張した10秒間だった。

PK戦を制した僕たちは、決勝トーナメントに進出した。


【了】


過去の文豪へのいざないは、下記よりお読み頂けます。


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