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髙村資本先生『恋は双子で割り切れない』読書感想文


なんとこのたび『恋は双子で割り切れない』の原作者、髙村資本先生にインタビューをさせていただける幸運に恵まれましたので、みなさんと共有したいと思います。

──よろしく、お願いします。

髙村資本先生(以下、髙村先生)「よろしくお願いします」

──まずは、第四巻発売おめでとうございます。

髙村先生「あ、ありがとうございます」

──早速読ませていただきました。ありきたりな表現で恥ずかしいんですけど、有り体にいって過去最高の完成度で既に五巻が待ち遠しいです。

髙村先生「ど、どうもです」

──実は先生にお会いできたら聞いてきてほしいという質問を学校のともだちからたくさん託されてきてるんですけど、私からもおたずねしたいことがいっぱいあるので、まずはそっちからぶつけちゃってもいいですか?

髙村先生「……わかりました。どうぞ」

──先生は『恋は双子で割り切れない』第一巻のあとがきでこの物語はかつて自分が好きだったものや友人が好きだったものをちりばめて創作された、いわばかつての居場所を結晶化したものであるというニュアンスのことをおっしゃっていましたよね。私はその意志や表現をとても美しいものだと感銘を受けました。

髙村先生「はい」

──お訊ねしたいのはここからです。私は『恋は双子で割り切れない』という物語は三巻からはじまったと思っていたんです。というのも、元々この作品は先生の私的な想いから生まれたもので、それでいて二巻は一巻のつづきとして完璧な流れだったので、最初から先生の中で一巻と二巻は同時に存在したけれどボリュームの関係でまずは一冊分の内容で新人賞に投稿されたのが一巻だと予想してたんです。

髙村先生「ふむふむ」

──その後、人気シリーズとなった『恋は双子で割り切れない』は最早、先生だけの居場所ではなく、これからは誰かのための居場所としてもありえるわけで、そういった可能性をんだ利他的というか、より読者のため、キャラクターたちのために物語の強度を高めた印象を受けたのが三巻だったんです。

髙村先生「なるほど」

──だから私は『恋は双子で割り切れない』は一巻と二巻が対になった序章で、三巻から第一章のスタートだと思ったんです。ところが先生は三巻のあとがきで、一巻発売後に二巻と三巻を構想して、二巻と三巻は対になっているとおっしゃいました。大袈裟かもしれませんけど、私はこの発言がけっこうショックで、あれ? 作品をうまく解釈できてなかったのかなって……。

髙村先生「いや、それは気にしなくていいと思いますよ? 物語に答えなんてないですから。受け取り方は一人一人ちがってむしろそれが正解なんじゃないでしょうか」

──本当ですか? 先生からそういっていただけると嬉しいです!

髙村先生「……はは」

──では早速、四巻の感想をいってもいいですか? 『僕は死んだ。』のところ、むちゃくちゃ笑いましたよ。

髙村先生「……ははっ、ところで──」

──それから純君は威風堂々を聴くと脳内で希望と栄光の国の歌詞が流れる英国被れっていう事実が判明しましたけど、私も威風堂々を聴くと脳内で各国の偉い人たちが首ちょんぱされて爆発四散する映像が脳内で流れる英国被れなので親近感が湧きました!

髙村先生「あの、盛り上がってるところ申し訳ないけど、ちょっといいかな?」

──はい。なんでしょう、先生。

髙村先生「そろそろこの状況について説明してほしいんだけど」

──といいますと?

髙村先生「一体、これは、この状況は、なに?」

──?

髙村先生「いやいやいや、どうしてきみが首をかしげるの?」

──先生、執筆で疲れてます? ドリンクバーから何かとってきましょうか?

髙村先生「そうじゃなくて!」

──それとも何かご飯でも注文しましょうか?

髙村先生「そっちでもなくて!」

──えっと?

髙村先生「だからどうしてきみが困った顔するの! やめてよ、女子高生に困った顔向けられてたら、こっちが悪いことしてるみたいでしょ」

──先生はどこも悪くありませんよ?

髙村先生「OK.ひとまずおちついて、順を追って話そうか」

──はい。

髙村先生「さっき僕が街を歩いてたら、突然、目をきらきら輝かせたきみが僕に向かって『先生ですか!』って訊ねてきたから僕も勢いで、そうですけど? って返事した途端、腕を掴まれてこのファミレスまでつれてこられて何か本の話をきみがはじめた──ここまではあってるよね?」

──はい。

髙村先生「とりあえず、きみは僕を誰かと勘違いしている」

──でも先生は私が先生ですよね? ってお訊ねしたときに肯定しましたよね?

髙村先生「僕も普段は場所によっては先生って呼ばれる仕事をしてるけど、おそらくきみが探してる作家の先生ではないよ? そもそもその先生って日頃からこういうの携帯してるの?」

──こういうの、とは?

髙村先生「だからこういう──おおきな十字架とか銀製のピストルとかだよ」

──どうなんでしょう? わかりません。私は髙村先生にお会いしたことがないので。

髙村先生「だけどこういう明らかにヴァンパイアハンターの風貌ではないよね?」

──わからないです。もう一度いいますけど、私は髙村先生にお会いしたことがないので。あの、失礼ですが、ではあなたは……?

髙村先生「だからヴァンパイアハンターだって」

──えっと、つまりあなたは髙村先生ではないと?

髙村先生「はい」

──髙村資本先生ではないと?

髙村先生「フルネームで確認しても変わらないって」

──じゃあ、どうしてついてきたんですか?

髙村資本先生ではなく自称ヴァンパイアハンターの男性(以下、ハンター)「いやいや、きみが無理やりつれてきたんでしょうが! 立場が逆だったら事案としてとっくにブタ箱にぶちこまれてるからね?」

──じゃあ、ハンターさんはこの街にどういったご用件で?

ハンター「強い反応を感じたからだよ。五十年ぶりにやつらの王が顕現したんだ。このチャンスを逃したら、世界崩壊の危機だ」

──やつらの王とは?

ハンター「ヴァンパイア王。人類の敵さ。今日は夜が深い。きみみたいな若い女の子が一番狙われやすいんだ。そろそろここを出ないか? 家まで送るよ」

──その前に一ついいですか?

ハンター「どうしたの?」

──そのヴァンパイア王って字面から推測するに吸血鬼の王様で、その見た目は映画に出てくるような、誰もが想像するやつの感じで間違いないですか?

ハンター「ああ、そうだな。そもそも創作物の風貌は実際のあいつからデザインされているからな」

──だったらそこにいますよ。さっきからガラス越しにずっとこっち見てますよ?

不審者(ヴァンパイア王)「…………」

ハンター「本当だ! いるじゃん!」

不審者(ヴァンパイア王)「…………」

──あ、すごい。ガラスの壁をすりぬけてこっちに。

不審者(ヴァンパイア王)「ちょっと隣いい?」

ハンター「勝手に横に座るなよ」

不審者(ヴァンパイア王)「だからちゃんと許可取ろうとしたじゃん」

ハンター「何しにきたの、お前」

不審者(ヴァンパイア王)「なんか宿敵と純潔なる乙女ごちそうの反応がしたから気になって」

──はじめまして。

ヴァンパイア王(以下、パイア王)「はじめまして可愛いお嬢さん、全ての闇の住人をべるものです」

ハンター「相手にしちゃダメだって、こんなあやしげな見た目のやつを」

パイア王「お前がそれいう?」

──私は素敵な格好だと思いますよ?

パイア王「でしょう? やっぱり若い子にはわかるんだねえ、このセンス」

──あ、もしかして、髙村資本先生ですか?

ハンター「違うでしょう! きみ変わった見た目のやつ見かけたら、もれなくその作家と結びつける癖でもあるわけ?」

パイア王「確か『恋は双子で割り切れない』の作者だよな?」

ハンター「お前は何で知ってるんだよ」

パイア王「そりゃあ、若い子に人気のコンテンツはチェックしてないと言い寄れないからな」

ハンター「完全に詐欺師のそれじゃねえか」

──もう新刊は読まれましたか?

パイア王「ごめん、全部買ってるけど積んだままだわ」

──じゃあ、読まれますか? 持ってきてるんで。

パイア王「ありがとう助かるよ」

パイア王「────」

ハンター「え? 今からここで読むの?」

パイア王「ごめん、俺、読書中と食事中に話しかけられるとマジでイラッとなるんで控えてもらえる?」

ハンター「あ、すみません」

──よろしければハンターさんもどうぞ、電子版です。

ハンター「あ、ありがと、こういうのも持ってるんだ。本当にファンなんだね」

ハンター「────」

パイア王「────」

──あの、すみません、ご飯の注文いいですか? まずこの厚切りトーストとサラダのセットを一つ。トーストはガーリックじゃなくてバターでお願いします。この人、吸血鬼みたいなんで、ニンニクじゃないほうがいいかなって。

パイア王「あ、お心遣い、どうもです」

──それからフライドチキンとマッシュポテトに海老フライ。この野菜たっぷりビーフシチューは野菜抜きにしてもらえますか? 個人的にビーフシチューに野菜は求めてないので。こっちのギリシャ風オムレツもギリシャ抜きでお願いします。なんか今日はギリシャって気分じゃないんですよ。あとは牛丼特盛りをつゆマシにして、お子様ランチは旗マシにしてください。他にもピザに山盛りポテト、国産うな重、しょうが焼き、すき焼き、それからこの大盛りチャーシュー麺とチャーハンのセットのチャーハンをナポリタンに変えてもらえることってできますか? じゃあお願いします。あとこのバナナシェイクってドリンクのシェイクはわかるんですけどバナナってなんですか? そういう果物がある? おいしいですか? じゃあ、それも一つ。 え? どの料理を誰にですか? 全部私のなんで、ここに持ってきてください。それでシェイクのあとにチャレンジメニューの土鍋カツカレーとからあげ20個ってやつも──

パイア王「黙って聞いてたけど、食べすぎじゃない? その細い体のどこにそんなに入るの?」

ハンター「あとちょくちょく妙な注文の仕方するのもやめて。気になって本に集中できない!」


──どうですか?

ハンター「……いやあ」

パイア王「……うん」

ハンター「想像以上によかったよ。きみが好きになる理由もわかる」

パイア王「確かに。久々にハマったかもしれん」

──でしょ!

ハンター「これって四巻が出たばかりで、まだ五巻の発売日は決まってないんだよね?」

──はい。

ハンター・パイア王「……うわあ」

パイア王「一番いいところで to be continued になってんじゃん。ここから琉実るみとのルートがはじまるのに」

ハンター「は? なんで琉実が出てくるの? もう那織なおりルートで確定だろ? お前、四巻読んでないの?」

パイア王「浅いよ、お前。推理小説で第一容疑者を犯人と思い込むくらい浅いわ。これまでの布石とか積み重ねてきた描写とか全然読めてないじゃん。那織とか典型的な負けヒロインだろ。エロいイラストでしか見せ場つくれてないじゃん。一巻と三巻のあのすけべイラストなんだよ、すけべイラスト大臣じゃん」

ハンター「お前こそ読めてないだろ、琉実こそすけべ大臣じゃん。琉実には那織みたいな純との精神的なつながりが皆無じゃん、だからいつも強引な手法でしか迫れてないだろ、ああいう子との関係は結局お互いを不幸にするだけなんだよ。現実的に考えたら那織一択なんだよ。那織しかありえない」

パイア王「ある意味、お前はいい読者だよ。見事に作者の作中にはめられてるわ。釣られてることに気づいてないとか幸せ者だな、お前」

ハンター「はい、言い返せないから謎の上から目線の煽りを頂きました。そういうこと言った時点でお前の負けなんですけど?」

パイア王「は?」

ハンター「は?」

──Le congrès danse beaucoup, mais il ne marche pas会議は踊るばかりでちっとも進まない!. 

ハンター「え? なになに?」

パイア王「なぜ急にフランス語?」

ハンター「というか、きみはどっち派なの?」

パイア王「あ、俺もそれ気になる」

ハンター「もちろん那織だよね?」

パイア王「いいや琉実だろう?」

──私としては物語の結末は両手に花っていうか、いわゆるハーレムエンドって気がしているのですけど。

ハンター・パイア王「……ええ」

ハンター「それは逃げじゃないか?」

パイア王「うんうん」

──この作品って少し、っていうか結構、独特じゃないですか。昨今の複数ヒロインが登場する作品は誰が『勝つ』のかって考察が盛り上がってますし、この作品にもそういう要素は強いですけど、それでもその結末はどちらかが勝者になるっていうこれまでの当たり前とは違う、新しい導線というか指標みたいなものを見せてくれるんじゃないかなって期待があります。なるほどその手があったか、みたいな。

ハンター「うーん」

パイア王「…………ごめん、やっぱり納得できない。ちょっと出かけてくるからASMRでも聴いて待ってて」

パイア王「──戻ったぞ」

──お帰りなさい。

ハンター「どこいってたんだよ?」

パイア王「それではみなさま、髙村資本先生のツイッターをご覧ください!」

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ハンター「お前、作者を眷属けんぞくにしただろ! 禁じ手使うなよ!」

パイア王「おっしゃってることがわからないんですけど? それに別にいいだろ? ギルティギアにブリジットが参戦したとき以上に世界中が盛り上がってるじゃないか」

ハンター「……ちょっと出てくる」

ハンター「──帰ったよ」

──お帰りなさい。

パイア王「どこで油売ってたんだ」

ハンター「そんなことより、こちらをご覧ください。髙村資本先生からみなさまにお伝えしたいことがあるみたいですよ?」

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パイア王「お前、浄化するなよ! これで那織ルートになったらお前のせいだからな!」

ハンター「僕のせいじゃないだろ。まあ、今のところ那織と琉実の人気は半々ってところだけど、これからアニメとかはじまれば徐々に確実に那織派が票を伸ばすのは明確だけどな」

パイア王「え? アニメ化するの?」

ハンター「発表されてないけど、するだろ。今回のASMRとかはその伏線みたいなもんじゃないの」

パイア王「えー、アニメはどうだろう。見たいような見たくないような」

ハンター「なんで?」

パイア王「原作のあの感じを表現するのは無理だろ」

ハンター「出たよ、原作原理主義を掲げる熱心なファンを装ったアンチ。お前みたいなやつは作品を大切にしてるんじゃなくて、歪んだ自意識で作品の広がりを妨害してるだけの迷惑野郎だって気づけよ」

パイア王「だけどさ、原作のあの雰囲気を動画に変換するのは相当だぜ?」

ハンター「気にしすぎだろ。そもそも原作の雰囲気は原作以外で出すことは不可能だし、それは別のメディアでも同じだろ。それに最近のアニメ化は原作をリスペクトてくれてるものが多いから、間違いなく傑作になるさ」

パイア王「いやあ、それでも俺は原作をアニメにはしてほしくないんだよなあ。例えば原作者の完全オリジナル脚本で劇場長編アニメだったら喜んで観たいけど」

ハンター「……ごめん、その気持ちはよくわからない」

──あ、私はわかりますよ。髙村先生のオリジナル脚本で劇場版『恋は双子で割り切れない』観たいです。

ハンター「ストーリーはどうするの?」

──封印されし三人目の少女がいまよみがえる、みたいな──。

ハンター「そういう要素を入れる余地あったっけ?」

パイア王「──まあ、いろいろ語ってきたが、物語について他者とあれこれ意見を交わすという行為はなんとも不可思議でそれでいて高揚を覚えるものだな。久方ぶり、いや、はじめてかもしれんな、こういう感情は」

──パイア王さんは、興奮すると体が光るんですか?

パイア王「いや? この体が発光するのは日光にふれて消滅現象がはじまって──ちょっとまて、朝日出てるじゃん!」

ハンター「おい、お前!」

──パイア王さん!

パイア王「……ふふっ、まあよい……いや、もうよい。永久につづくと思われた戦いの終わりがこうもあっけなく空虚なものというのもおもむきがある。争いの結末など、むなしいくらいでちょうどいいのかもしれんな。なあハンターよ」

ハンター「……なんだ?」

パイア王「俺とお前、もしかしたら、違う出会いをしていたのなら、違う今を過ごせていたのかもしれんな…………」

──消えた。

ハンター「…………」

── …………。

ハンター「…………」

── …………。

ハンター「…………」

──では、そろそろインタビューのつづきを。

ハンター「え? まだするの?」


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