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浅月そら先生『女子高生声優・橋本ゆすらの攻略法』読書感想文


エンティアラビル人質事件(エンティアラビルひとじちじけん)とは、ヨーロッパの小国ケルディアの首都エンティアラにある高層ビル、エンティアラビルで起きたケルディア第一王子とその一派による襲撃、占拠、人質事件である。
本項では事件解決の要となった、十代の日本人少女とケルディア人少女による特殊作戦についても解説する。

発端
2月27日
ケルディア国王ゼソージ6世が崩御し、まだ十七歳で第二王子のロックサがロックサ7世としてケルディア国王に即位することが宣言された。
第一王子であったデーレベとデーレベ派はこれを不服とし異議を唱えたが、リビュ王妃がそれを拒絶。
かねてより薬物問題や乱れた女性遍歴を持つデーレベを国民は快く思っておらず、兄とは正反対の人間性と評価の高いロックサが王位に就くことを多くの国民は歓迎した。

7月22日 午後19時
戴冠式たいかんしき後のパーティーがエンティアラビルで開かれ、その最中『ケルディアのバレンタイン(ケルディアでバレンタインという単語は『勇敢な戦士』を意味する)』を名乗るデーレベ率いる改革派が突如としてビルを占拠。
警備にあたっていた軍関係者のおよそ半数がデーレベ派に寝返っていたことが発覚したものの、警備全体を任されていた元陸軍少尉、ケルディアの守護神と呼ばれていたポッサルムの指揮により、各国の来賓は全員脱出に成功。
銃撃戦により、デーレベを含む改革派はほぼ全滅。しかし会場にはロックサと改革派のナンバー2であるジェズロブ将軍が残っていた。

暴走
7月22日 午後22時
デーレベを失い、ロックサを廃位させても先がないことを悟ったジェズロブ将軍は会場の出入り口を塞いだ後に、ケルディア軍が特殊作戦時にのみ使用を許可されていた遅効性の猛毒である錠剤を自身とロックサに投与し、錠剤のケースに付属していた解毒剤を破棄。その様子を監視カメラを通して、関係者は目視することしかできないでいた。
一刻も早い解毒剤の投与、あるいは非常に高度な解毒処置を施さなければ、およそ十時間後にロックサは絶命する。

奇策
7月23日 午前0時
僅かでもこちらに突入する気配を見せれば、その瞬間にロックサを処刑するとジェズロブは警告した。
尊厳ある死を迎えるように、静かに椅子にたたずむロックサのかたわらで、ジェズロブ将軍は読書をはじめた。
カメラでその様子をうかがっていた将軍をよく知る人物は、彼が読んでいる文庫本を確認すると、あることを思いだし、一つの作戦を思いつき、国中の学校関係者に電話をして、まずは目当ての相手を見つけ出すことに成功する。

7月23日 午前1時
エンティアラは日本の神奈川県横浜市と姉妹都市の提携を結んでおり、当時、横浜市の高校生数名がエンティアラに交換留学にやってきていた。
夜中に叩き起こされて、緊急の作戦本部となっていたエンティアラビルの七階(なお、ロックサと将軍がいるのは二十七階)に一人の日本人女子高生が呼び出され、そこで事件のあらましと、とある本についての説明を受けた。

7月23日 午前1時30分
二十八年前、交換留学生として日本にいたジェズロブは、そこで一冊の本と運命的な出会いを果たす。
それが、浅月そら著作『女子高生声優・橋本ゆすらの攻略法』だった。
運命のように夢中になり、帰国後も常にその本を携帯していた。
宗教を持たないジェズロブにとって『女子高生声優・橋本ゆすらの攻略法』は聖書であり、絶対だった。

作戦
7月23日 午前2時
『女子高生声優・橋本ゆすらの攻略法』の海外公演で偶然フランスにいた橋本ゆすらを演じている女優がジェブロに謁見えっけんにきたという体裁で、日本人少女を会場に立ち入らせ、隙をみてロックサに解毒剤をわたす、それが作戦の概要だった。
日本人少女の容姿は橋本ゆすらに似ていたが、彼女は『女子高生声優・橋本ゆすらの攻略法』を履修していなかったため、大至急で『女子高生声優・橋本ゆすらの攻略法』の有名な場面だけでも習得することに。
ロックサに毒がまわるのは約六時間後と計算されていたので、現場にいた識者とファンの協力で三時間かけて日本の少女を橋本ゆすらにする計画がはじまったのだが、ここで予想外の事件が発生する。

急転
7月23日 午前2時10分
監視カメラの向こう側で、ロックサとジェズロブが苦しみはじめたのだ。
予定よりもかなり早く毒がまわりはじめてしまい、作戦の急行を余儀なくされる。
日本の少女はまだ橋本ゆすらの人物像を掴めていなかった。
事態は一刻を争っている。
そこで一人のスタッフによる、大胆な提案がなされた。

機転
7月23日 午前3時20分
深夜の来訪者をジェズロブは訝しんだが、日本の少女の外見が橋本ゆすらそっくりであったこと、少女のネイティブな日本語に橋本ゆすらを感じたジェズロブは少女を歓迎した。
そして会場内に日本の少女と同年代のケルディアの少女が入った。
ケルディアの少女は日本の少女の通訳というていだったが、彼女は日本の少女に『女子高生声優・橋本ゆすらの攻略法』の情報を密かに伝達する役目も与えられていた。
ケルディアの少女は幼いころから『女子高生声優・橋本ゆすらの攻略法』の大ファンで、その知識はジェズロブに引けを取らない。
ケルディアの少女は大きな白いワンピースを着ており、そこには大量のアルファベットがデザインのように一見無作為に並べられていた。実際にはそれはローマ字読みの日本語で記された『女子高生声優・橋本ゆすらの攻略法』の知識であり、日本語は読めるけれどローマ字を知らないジェズロブをあざむくための仕掛けだった。
ジェズロブからのマニアックな質問に対し、ケルディアの少女はワンピースの当該箇所を指でさし、それを見た日本の少女はもっともらしく答え、それはジェズロブを納得させた。
事は順調に進んでいるように見えた。何らかのタイミングでロックサに解毒剤をわたすチャンスの訪れを期待したが、ここでまた予想外の事件が起こる。

負傷
気分をよくしたジェズロブは、お気に入りのシーンを再現してみせた。
それは聖典の中盤でヒロインの一人である雛茂里ひなもりみうがゲームセンターで銃を乱射する場面である。

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※参考資料(『女子高生声優・橋本ゆすらの攻略法』より)

聖典ではおもちゃの銃だが、ジェズロブは自前のアサルトライフルを発砲し、それはケルディアの少女を貫く。
日本の少女は大切な友人と『女子高生声優・橋本ゆすらの攻略法』の知識を同時に失ってしまった。

矜持
人生最後の食事として、うどんを食べたいので用意しろとジェズロブは言う。
『女子高生声優・橋本ゆすらの攻略法』の終盤で、橋本ゆすらが主人公の自宅でうどんを食すシーンがあり、ジェズロブのお気に入りのシーンの一つだった。
おそらくこれが最後のチャンスだとケルディアの関係者たちは、うどんにジェズロブの毒を活性化させる薬品を混入しようと試みるが、日本の少女がそれを断固拒否する。
実家がうどん屋である彼女は、いかなる理由があろうとも、うどんで人を傷つけることは許さないと、もしやめないのであれば作戦から降りると断言し、結局、普通のうどんが運ばれた。
結果として、その行動がロックサを救うことになる。

終結
人生最期の思い出として『女子高生声優・橋本ゆすらの攻略法』のクライマックスである、第一話の録り直しのシーンを一緒に再現してほしいとジェズロブは日本の少女に懇願こんがんする。
その知識を持たない日本の少女は困惑するが、ここまで橋本ゆすらを演じてきた彼女の中にも彼女なりの橋本ゆすらがあり、そこから生まれた所作は原作の流れと近似していた。

解決
手を出してほしい、とジェズロブは言い、日本の少女はそれに従うと、少女の手に解毒剤があった。
(なおこれは原作のエピローグ直前に橋本ゆすらが主人公にあるものをわたす場面の再現だと思われる)
うどんを注文したとき、きっと毒を盛られると思っていた。そうであればロックサを即殺害すると決めていたが、そうはならなかった。おそらくきみが阻止してくれたんだろう。きみは本当に橋本ゆすらのようだ。
そう残してジェズロブは命を絶ち、ロックサの命は救われた。

現在
事件から十年後の現在、ロックサは名君としてケルディアを繁栄させ、あのときの日本の少女とケルディアの少女は今も親友として互いの国の架け橋として交流はつづいている。

批判
本件についてはいくつかの批判もあり、その最たるものが、交換留学生を半ば強引に命の危険のある事件現場に参加させていることである。
ただこれについては、日本の少女が自らの意志で参加したものだと強く主張している。
彼女の祖母がヨーロッパ旅行中に事故に巻き込まれた際、数人のケルディア人に助けられた過去があり、今の自分があるのはケルディアの人のおかげで、あのときの恩返しができたと胸を張っている。

映像化
実際の関係者も交えたドキュメンタリーがネットフリックスで製作・配信された後に、アメリカで映画化(キャストは全てプロの俳優)もされた。
アカデミー賞、作品賞、脚色賞受賞。
興行収入
日本51億円
米国$156,025,501
世界$242,325,501

映画の原題は『Story Dress』だが、邦題は当初『キズナ ~カノジョとワタシのアカイイト~』とされていた。
これは撃たれたケルディアの少女が非常に珍しい血液型の持ち主であり、輸血は絶望視されたものの、偶然にも日本の少女が同じ血液型であることが幸いし、命を救うことができたエピソードに焦点をあてたためである。
この変更は多くの非難を集めた結果、邦題は『ストーリードレス』と改め、思いつきで邦題を決めようとした配給会社の人間は射殺された。

参考資料


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