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「ポストコロナ症候群とME/CFSの共通性」

TONOZUKAです。


ポストコロナ症候群とME/CFSの共通性

以下引用

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した後、長期にわたり症状が持続するという事例を当院で初めて経験したのが、2020年の春。その後も似たような訴えが相次ぎ、後遺症は確実に起こり得ると考え、連載(長期的視野で「ポストコロナ症候群」に備えよ!)で紹介したのが2020年5月8日。その後、半年以上にわたる症状には抑うつ感を代表とする精神症状が多いことに気付き、低酸素脳症と脳の炎症に関連があるのではないかと考え、2021年6月2日にも別のコラム(ポストコロナ症候群の謎が解けたかもしれない)を公開した。

 今回は、既に世界各地から指摘されているポストコロナ症候群とME/CFSの類似性について、幾つかの報告を振り返り、今後我々がどのように取り組んでいくべきかについて私見を述べたい。

 まずは言葉の整理をしよう。ポストコロナ症候群という病名は2020年春に先述のコラムで僕が勝手に命名したものにすぎず、世界的には「long-COVID」が最も人口に膾炙していると思われる。だが、最近は「Post-COVID syndrome」とする文献(例えばこの論文)も増えてきており、ここではポストコロナ症候群(Post-Corona/COVID syndrome)を略してPCSと呼ぶことにする。他方、ME/CFSは、かつてはCFS、あるいは日本語で慢性疲労症候群と呼ばれることが多かったが、最近は筋痛性脳脊髄炎 / 慢性疲労症候群(Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome;ME/CFS)という名称が世界的にも国内でも最もコンセンサスを得ているのではないだろうか。よって、本コラムではME/CFSで統一する。

 2020年5月のコラムで僕はPCSの特徴を次のように表現した。

 ちょうどQ熱が原因の「Q熱感染後疲労症候群(QFS)」と似ている(といっても僕はこの疾患を一度も診たことがないが)

 一度も診たことがないQFSと比較しても説得力がないのは承知しているが、当時、PCS及びその疑いのある患者数人から症状を聞いて、僕が最初に思い浮かべた類似疾患はQFSだった。なお、「疑いのある」というのは2020年春の当時、PCR検査は保健所が許可したごく限られた重症患者にしか認められなかったため、臨床症状からCOVID-19の診断を付けねばならなかったのが原因であることを断っておく。

 21年6月のコラムで指摘したように、当院の経験で言えばPCSの症状は時間経過とともに変化していく。感染して間もないうちは、味覚・嗅覚障害、脱毛、咳・息切れ、動悸などが多いのだが、半年を経過する頃から、抑うつ感などの精神状態と倦怠感が主症状になってくる。そのコラムでは、「脳内の炎症」に答えを求めようとし、現在もこの考えを撤回するつもりはないのだが、同時にQFSとの類似性にも再度注目してみたい。

 ここでME/CFSの「原因」について確認しておきたい。ME/CFSという疾患が実在するかどうかについて、今も一部には「心因性のもの」「単なる不定愁訴」という意見もあるようだが、国際的にも国内的にも正式な疾患だとみなされている。だが、原因についてはいまだに不明で、単一でない可能性も指摘されている。そのME/CFSの原因の一つとして有力な候補が感染症だ。

医学誌The British Medical Journal(BMJ)2006年8月2日号に掲載された論文「ウイルス性および非ウイルス性病原体によって引き起こされる感染後の慢性疲労症候群:前向きコホート研究 (Post-infective and chronic fatigue syndromes precipitated by viral and non-viral pathogens: prospective cohort study)」を紹介したい。この研究の対象者は何らかの感染症に罹患した合計253人(感染症の内訳は、EBウイルス68人、Ross River virus 60人、Q熱リケッチア43人、その他82人)。この中で、倦怠感、筋痛、神経認知障害、気分障害などが6カ月間持続したのが29人(12%)で、そのうち28人(11%)が慢性疲労症候群の診断基準を満たしていた。要するに一部の感染症に罹患した後、感染者の1割強が6カ月以上にわたりなんらかの症状を自覚しており、そのほとんどがME/CFSと診断されるというわけだ。

 COVID-19を見てみよう。Nature誌の2021年6月9日特集記事に英国のPCSの状況が報告されている。英国統計局(The UK Office of National Statistics [ONS])によると、2万人のCOVID-19罹患者のうち、13.7%に感染12週間後にも何らかの症状が認められている。男女比では、感染5週後の時点で女性23%、男性19%と女性に多いのが特徴だ。これは重症化リスクが高いのが男性>女性であることを考えると興味深い。年齢の差も特筆すべきで、35~49歳が25.6%と最多を示し、若年者と高齢者には少ないのが特徴だ。

 PCSとME/CFSの類似性について、まずは数字に注目されたい。BMJの論文によれば、感染症罹患後にME/CFSを発症するのは12%、そしてNature誌によるとPCSの発症率は13.7%。数字が似ているのが単なる偶然だとは思えない。

 次に、ME/CFSの疫学的特徴を思い出されたい。後発年齢・性別が中年女性であることに異論はないだろう。そして、Nature誌の報告はPCSも中年女性に多いことを示しているのだ。

 改めて症状にも注目してみよう。PCSの症状としては、味覚・嗅覚障害、咳、脱毛なども特徴的だが、6カ月を超えるあたりからは抑うつ感と倦怠感が主になる。他方、ME/CFSの場合もこれらが中心となるのだ。ME/CFSの定義の一つに「6カ月以上続く」という文言が入るわけだから、もしかするとPCSにみられるような他の症状も6カ月以内であればME/CFSにも起こっているのかも、と考えたくなる。

 もう一度まとめなおすと、PCSおよびME/CFSは、好発年齢・性別(中年女性)、症状(倦怠感、抑うつ感)、感染症後の発症率(1割強)のいずれもが酷似しているのだ。

 ただ、この一致性から「PCSの正体はME/CFS」が正しかったとしても(というより正しいのならばむしろ)、僕を含めて医療者の心が晴れるわけではない。なぜなら、つい半年ほど前までは特に大きな既往もなく元気だった患者が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染をきっかけにME/CFSという難治性の疾患に移行するかもしれないのだから。

 上述のNature誌によると、PCSの治療に新薬deupirfenidoneが期待されており現在治験中のようだ。英国ではアピキサバンやアトルバスタチンがPCSの一般的な治療薬として用いられているらしい。日本でよく使われるのは、漢方薬(補中益気湯、当帰芍薬散、柴胡加竜骨牡蛎湯あたりが多いと聞く)、ビタミン剤(特にビタミンD)、ミネラル(特に亜鉛)、プレガバリン、イベルメクチン、ステロイド、Bスポット療法(最近はEATとも呼ばれる鼻咽頭を塩化亜鉛で擦過する治療)などがあるが、どれもエビデンスはなく、当院を受診する患者たちは「こういうものはさんざん試したけど全く効かないから(谷口医院を)受診しました」と言う。
医学誌The British Medical Journal(BMJ)2006年8月2日号に掲載された論文「ウイルス性および非ウイルス性病原体によって引き起こされる感染後の慢性疲労症候群:前向きコホート研究 (Post-infective and chronic fatigue syndromes precipitated by viral and non-viral pathogens: prospective cohort study)」を紹介したい。この研究の対象者は何らかの感染症に罹患した合計253人(感染症の内訳は、EBウイルス68人、Ross River virus 60人、Q熱リケッチア43人、その他82人)。この中で、倦怠感、筋痛、神経認知障害、気分障害などが6カ月間持続したのが29人(12%)で、そのうち28人(11%)が慢性疲労症候群の診断基準を満たしていた。要するに一部の感染症に罹患した後、感染者の1割強が6カ月以上にわたりなんらかの症状を自覚しており、そのほとんどがME/CFSと診断されるというわけだ。

 COVID-19を見てみよう。Nature誌の2021年6月9日特集記事に英国のPCSの状況が報告されている。英国統計局(The UK Office of National Statistics [ONS])によると、2万人のCOVID-19罹患者のうち、13.7%に感染12週間後にも何らかの症状が認められている。男女比では、感染5週後の時点で女性23%、男性19%と女性に多いのが特徴だ。これは重症化リスクが高いのが男性>女性であることを考えると興味深い。年齢の差も特筆すべきで、35~49歳が25.6%と最多を示し、若年者と高齢者には少ないのが特徴だ。

 PCSとME/CFSの類似性について、まずは数字に注目されたい。BMJの論文によれば、感染症罹患後にME/CFSを発症するのは12%、そしてNature誌によるとPCSの発症率は13.7%。数字が似ているのが単なる偶然だとは思えない。

 次に、ME/CFSの疫学的特徴を思い出されたい。後発年齢・性別が中年女性であることに異論はないだろう。そして、Nature誌の報告はPCSも中年女性に多いことを示しているのだ。

 改めて症状にも注目してみよう。PCSの症状としては、味覚・嗅覚障害、咳、脱毛なども特徴的だが、6カ月を超えるあたりからは抑うつ感と倦怠感が主になる。他方、ME/CFSの場合もこれらが中心となるのだ。ME/CFSの定義の一つに「6カ月以上続く」という文言が入るわけだから、もしかするとPCSにみられるような他の症状も6カ月以内であればME/CFSにも起こっているのかも、と考えたくなる。

 もう一度まとめなおすと、PCSおよびME/CFSは、好発年齢・性別(中年女性)、症状(倦怠感、抑うつ感)、感染症後の発症率(1割強)のいずれもが酷似しているのだ。

 ただ、この一致性から「PCSの正体はME/CFS」が正しかったとしても(というより正しいのならばむしろ)、僕を含めて医療者の心が晴れるわけではない。なぜなら、つい半年ほど前までは特に大きな既往もなく元気だった患者が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染をきっかけにME/CFSという難治性の疾患に移行するかもしれないのだから。

 上述のNature誌によると、PCSの治療に新薬deupirfenidoneが期待されており現在治験中のようだ。英国ではアピキサバンやアトルバスタチンがPCSの一般的な治療薬として用いられているらしい。日本でよく使われるのは、漢方薬(補中益気湯、当帰芍薬散、柴胡加竜骨牡蛎湯あたりが多いと聞く)、ビタミン剤(特にビタミンD)、ミネラル(特に亜鉛)、プレガバリン、イベルメクチン、ステロイド、Bスポット療法(最近はEATとも呼ばれる鼻咽頭を塩化亜鉛で擦過する治療)などがあるが、どれもエビデンスはなく、当院を受診する患者たちは「こういうものはさんざん試したけど全く効かないから(谷口医院を)受診しました」と言う。



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